おっさん、メンタルだけは負けない
しん、と。
辺り一帯は急に静まり返った。
突如現れた謎の黒装束。その存在に、冒険者らは完全に当惑してしまっているようだ。怪しさ満載の身なりをしているが、彼らがやったことは言ってみれば《悪者退治》。
だからみな、こう考えているに違いなかった。こいつらは何者なのか――と。
なかでも、さきほど可視放射を放った者の存在感は絶大だ。よくよく見れば、装束の他に漆黒のマントを羽織っている。あいつがリーダー格か。他の黒装束がずっと無言なのに対し、奴だけが明確な意思を持っているような気がする。
「……強いな、あいつ……」
フラムが小声でそう呟いた。
「……おまえもそう思うか」
「ああ。震えるくらいに強いよ」
ルイスも同意見だった。
前述のように、他の黒装束もAランク相当の実力を持ち合わせている。あのリーダーはそんな彼らをも大きく上回っているということだ。奴らが結束すれば、きっと神聖共和国党など相手にならないほどの脅威を発揮するに違いない。
リーダー格は、他の黒装束がテロリストどもの身体を持ち上げたのを確認するや、ぱちんと指を鳴らす。
「……おまえたちは先に帰っているがよい。追って私も向かう」
次の瞬間、信じられないことが起こった。
なんと、黒装束たちが白銀のオーラに包まれ。
いずこへと姿を消したのである。
当然、神聖共和国党の党員らも一緒だ。
「えっ……!」
アリシアが驚いたように目を見開く。
「嘘……!? いまのは転移の魔法……。古代魔法を……な、なんで……!?」
「クク。世界にはまだ、おまえたちの存ぜぬことが多くあるということだ」
リーダー格は余裕の笑い声をあげる。
ルイスも開いた口が塞がらなかった。
あれほど大勢の者を転移させるのは、帝国ではアリシアしかいないだろうと――かのSランク冒険者レスト・ネスレイアが言っていた。だからこそ彼も、アリシアの古代魔法に驚いていたわけだ。
なのに、このリーダー格はその大業を事もなげにやってみせた。
改めて思う。こいつはいったい何者だというのだ……
そんな思索に囚われていると、リーダー格はまたも衝撃的な発言をした。
「話は聞き及んでいるよ。おまえたちが帝国からの訪問者……ルイス・アルゼイド、そしてアリシア・カーフェイだな」
「へえ……」
こちらの名まで知っているとは。ますます怪しい奴である。
だが、ルイスとて四十を迎えたおっさんだ。こんなことでいちいち動じてはいられない。あくまで冷静を装いながら、ルイスは口を開いた。
「奇妙な奴だな。服装はダセェのに、とんでもねえ風格を感じるよ」
「フフ。おまえの言う《心眼一刀流》とやらといい勝負だと思うがな」
「はっ。こちとらずっと恵まれなかった人生なんでな。こういうときくらい格好つけさせてくれや」
「……ふん。まあいいだろう。それよりおまえに伝言がある」
リーダー格は一瞬だけ黙りこむと、またもや驚愕の一言を発した。
「我が大統領様からだ」
「……なんだと……?」
さすがにぎょっとしてしまうルイスだった。
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