情けないおっさん
とは言ったものの。
――ちょいとカッコつけすぎたかな。
ルイス・アルゼイドは乾いた笑みを浮かべ、眼前の魔獣たちを見渡した。
多い。
十体、二十体……いや、もっといる。
ゴブリンごときに苦戦していたルイスには正直荷が重い。敵群のなかには、Aランクの冒険者でさえ苦労しそうな魔獣も混じっているのだ。どんな奇跡が起こったところで、勝てる気がしない。
――ま、仕方ねェか。
ルイスは戦闘の構えを取り、魔獣たちの出方をうかがう。
立派な冒険者になって、困っている人々を助ける。そのためにギルドに加入した。強くなりたいがために一心不乱に修行した。
むかし抱いていた理想とはほど遠いが、これだって正真正銘の人助けだ。隠し通路の知識がなければ、あの女兵士を助けることもできなかっただろうから。
と。
「ウグルァァァァァァア!」
骸骨剣士が、突如、猛烈な速度で走り寄ってきた。そのまま容赦なく剣を振り下ろしてくる。
――早ェ!
Eランクたるルイスには避けようもない攻撃だった。
「かはっ……!」
悲鳴とともに、口から血を吐いてしまう。
直撃だ。
胸部から腹部にかけて肉が抉られた。
視界が滲む。
立っていることさえ困難になり、その場に片膝をつく。
「はは……情けねえなぁおい……!」
思わずそうひとりごちた。
まさかたった一撃で沈んじまうとは。
これでは時間稼ぎにすらならない。俺が死んだあと、魔獣たちはすぐにでも皇帝を狙いにいくだろう。そうなれば世界は終わる。ずっと平和だったサクセンドリア帝国に、不穏な時代が訪れる……
そうはさせたくない。
なのに、身体がもう、動かない……
「いでよ……凄惨にして、古より封じられし大いなる意志よ……」
ふいに、聞き覚えのある女の声が響き渡った。
「我は望む。汝の覚醒を。汝の意志を。ファイア!」
直後。
壮大な詠唱の割に小さすぎる炎の球が、一直線に骸骨剣士に突撃する。
「ググ……!」
骸骨剣士は左手の盾を掲げ、寸前のところで火球を防いだ。
ばふっ、と。
情けない音を立て、火の塊は空気に溶けていく。あまりに情けない、貧弱な魔法だった。
だが――
「オオオオオオッ!」
骸骨剣士に生じたわずかな隙。
それをルイスは見逃さなかった。
がら空きになった胴体をめがけ、ルイスは全力で体当たりをかます。生きたい、みんなを守りたい――そんな切なる想いを込めた攻撃だった。
本来ならば、それでも相手にダメージは通らなかっただろう。
骸骨剣士はBランクの冒険者でさえ苦戦するような魔獣だ。ルイスには手に余る。
だが。
正規軍の代理リーダー、サクヤ。
彼女との戦いによって、骸骨剣士は疲れ果てていた。HPも残り二割を切り、すでに死にかけの状態だったのである。
ルイスのすべてを詰め込んだ体当たりは、そんな瀕死の魔獣を倒すに充分な威力を秘めていた。
「ウグァ……?」
骸骨剣士は、最期までなにが起きたかわからなかったようだ。そのままだらんと両腕を下ろすと、なにかが外れたかのように、全身の骨がバラバラと崩れていく。死んでいく。