前へ突き進め。
アリシアの《転移魔法》は、以前行ったことのある場所にしか使えない。
それがもどかしかった。
いま現在、神聖共和国党が破壊行動を行っている。なのに自分たちは、馬車を使うことも許されず、足で向かうことを余儀なくされている。
こちらには、フラム――Sランク冒険者までいるのだし、しがらみは放っておくべきだと思うのだが、共和国の差別意識はそこまで強いというのか。いったいなぜ……
だが、立ち止まっていられる時間はない。
幸い、首都ユーラスからファイ村まではそこそこ近いらしい。人の足でも頑張れば一時間もかからないようだ。ならば、現状に不満をぶつけるのではなく、いまできることをやるのみである。
だからルイス一行は懸命に走っていた。フラムを先頭にして、後にアリシア、ルイスと続く。道中、みな無言だった。
フラムはさすがSランクというだけあって、すさまじいスピードで走り続けている。その速度が緩む気配もない。はっきりいって、ついていくのがやっとである。
素のステータスにおいてはルイスもアリシアもEランク冒険者と遜色ないので、ここはアリシアの回復魔法に頼ることにした。彼女も最近は《古代魔法》を使いこなすようになってきたので、数回のスキル使用ではなんともないはずである。
そのように走り続けていると、ふいに前方を駆けるアリシアが声をかけてきた。
「ルイスさん。今回の襲撃、どう見てますか?」
「ん?」
「神聖共和国党は本来、国のために活動してきました……。それが失敗に終わって、味方だと思ってた人たちにも見捨てられて、居場所を失ったとしたら……」
「…………」
ルイスは数秒だけ黙りこくってから言った。
「まあ、だからといってテロは許されることじゃねえよ。帝国でも共和国でも、見境なさすぎだろあいつら」
「はい。ですが……」
「わかるさ。おまえの考えてることは」
もしアリシアの推測が正しいのであれば、これは神聖共和国党だけの問題ではない。
連中を見捨てたユーラスの大統領。そしてやたらと差別意識の強い国民たち……
きっと、なにか裏がある。
「なあ、フラム」
「…………なんだ」
「答えづらい質問かもしれないが……神聖共和国党の活動は、昔はどう評価されてたんだ? いまみたいに叩かれてたのか?」
「……いや。そんなことはない」
こちらに背を向けたまま、フラムは低いトーンで続ける。
「むしろ積極的に評価されてたよ。大統領も、立場的にはっきりとは言わなかったが、かなり好意的に評価してたと思う」
「そうか……やはりな」
おかしいとは思っていた。
帝国と共和国を繋ぐ警備門は厳重に警備されていた。その徹底ぶりはルイスたちも身をもって痛感している。あれはそうそう容易に突破できるものではない。
いったい、奴らはどうやって帝国にやってきたのか。それこそ、強大な後ろ盾があったのではないのか。帝国の王城へ繋がる隠し扉も、一介のテロ組織が知っていたとは思えない。
「…………」
ここにきて、ぼんやりと全容が掴めてきた気がする。神聖共和国党の裏にひそむ陰謀……とてつもなく大きななにかが。
「正直、私は悔しいよ」
フラムの声音が、すこしだけ沈んだ気がした。
「父は愛国心は強かったけど、テロなんて起こすような人じゃなかった。なのに急に家からいなくなって……気づいたときには、国民みんなから白い目で見られて……」
彼女の瞳から、雫が後方に流れていくのが見て取れた。
「だからこそ、私は負けたくない。たとえ多くの人から迫害されても、私は……!」
「ああ。わかるぜ。その気持ちは」
――痛いほどにな。
立ち止まってはいられない。
帝国での襲撃事件。
その全容を解明するためにも、ルイスたちは全力で前へ突き進んだ。
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