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おっさん、アリシアと迫害に立ち向かう

 ルイスは冒険者ギルドの前で立ち尽くしていた。


 あとはこの扉を押してしまえば、あの嫌な空間――オルスやその他の冒険者が大勢いる場所――に出ることになる。


 しかも今回はフラムも一緒だ。さっきより騒がれるだろうことは想像に難くない。いくら迫害に慣れているとはいえ、なじられて無感情でいられるほど悟っているわけでもない。


 でも、とルイスは思った。


 ここで前に進まなければ、なにも始まらない。ルイスの本来の目的も達することができない。


 ――行くしかない。


 気づけば、アリシアがルイスの裾をぎゅっと握ってきた。


「……きっと大丈夫です。行きましょう」


「ああ。そうだな……」


 覚悟を決め、ルイスはギルドの扉を開ける。


 ギィ……と木のこすれるような音とともに、扉は内部の様子を晒しだした。


 さきほどと人数はあまり変わっていないようだ。

 あのAランクの冒険者――オルスもいる。美人の受付嬢と無駄話をしているようだ。Aランクなんだからしっかり働けよ……


 他にも、掲示板に貼られた依頼書を眺める者、休憩スペースで歓談する者など、大勢の冒険者がいた。


 のだが。

 その賑わいは、ルイスたちが姿を現したことで一気に静まった。


「…………」


 凍てつくような視線。

 みながこちらに冷たい目を向けてくる。


 ルイスは一瞬だけ半笑いを浮かべるが、ここで引くわけにはいかない。堂々と、建物のなかに入っていく。


 ――ん?

 そうしながら、ルイスはあることに気づいた。


 カウンターにいる受付嬢が、そそくさと遠くへ移動していくのだ。


 あとに残されたのは、あの気の弱そうな新人の受付嬢のみ。また嫌な役回りを押しつけられているようで、いまにも泣きそうな顔である。


 それを、

「おいおい、またおまえかよ」

 オルスが再び阻んできた。受付嬢とルイスの間に割り込んできた形である。


「クソったれのテイコーめ。なんの用だ」


「依頼の達成を報告しにきただけだ。なにか問題でもあるのか」


「あ? なに馬鹿言ってやがる。薬草の採取がこんなに早く終わるわけ……が……」


 オルスの言葉が途端に弱々しくなる。続いて現れたフラム・アルベーヌに、文字通り言葉を失ったようだ。


「お、おい……。なんであんたがここにいるんだ……? たしか看病でしばらく働けないと……」


「母は治った。この人たちのおかげだ」


「なに……?」


「見ろ、これがサイン済みの依頼書だ」

 言いながら、フラムは一枚の書類をヒラヒラ見せびらかす。

「これで依頼は完遂。ルイスとアリシアはいまから共和国うちの冒険者登録をするところだ。そこをどけ」


「……ぐぐ……!」


 さすがにSランクとAランクでは格が違う。オルスは悔しそうにじりじりと後退し始めた。


「あ、ありえない……」

 オルスはかすれるような声を発した。

「ここから薬草の採取場所はそこそこの距離があったはず……。こんなに早く終わるわけが……!」


「なにグチグチ言ってやがる。そこをどけ。聞こえないのか」


「あ、そうか! わかったぞ!」

 ふいにオルスはいっぱいに目を開き、意地の悪い表情を浮かべた。

「フラム・アルベーヌ! おまえ、自分に味方がいないからテイコーと組もうとしてやがるな! この恥さらしめ!」


「な、なんだと?」


「それ以外にありえないだろ! おまえだってテイコーのことは嫌ってたじゃないか! なのになぜ、いまになってそいつらを引き連れているんだよ!」


「ふざけるな。この二人はな……!」


 いきり立ったフラムの肩を、ルイスは優しく叩いた。


「もういい。いいんだ」


 ここで面倒事を起こしても得することはない。さっさと用事を済ませて帰るのが利口だ。


 ルイスはオルスに目を戻して言った。


「高潔なユーラス国民様のことだ。約束はちゃんと守るんだろうな?」


「ふん」

 オルスが偉そうに腕を組む。

「まあよかろう。おまえたちがどうしてもギルドに登録したいのならば――好きにするがよい。その代わり、分をわきまえることだな。昇進などありえないと思え」


「そうかい。万年Eランクってやつかよ」


「そうだな。貴様らにはそれが似合いだ」


「はいはい……」


 それにしても、なんとも不思議な光景である。さっきも思ったが、共和国こっちのギルドはオルスが仕切っているのだろうか。ギルドマスターはいないのか?


 だが、聞いたところでまともに答えてくれるとも思えない。ここは登録だけ済ませて、いったん離れよう。


 ルイスはそのまま歩きだし、新人の受付嬢のもとに歩み寄っていった。



 

 

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