これがおっさんの歳の功ってやつか
ルイスとアリシアら《帝国人》。
そして、神聖共和国党の身内であるフラム・アルベーヌ。
この異色のコンビは、首都の住民を気味悪がらせた。スラム街を出た後は、みな腫れ物を扱うかのように接してくる。そそくさと距離を取る者、ヒソヒソ話をする者……
こりゃあひどいな、とルイスは思った。
すこし前までは、ルイスも帝都で同じような迫害を受けていた。万年Eランクのルイスに対し、世間はとことん冷たかった。
くだらない社会に、内心が腐りかけたことも一度や二度ではない。
だが――現在はそれの比ではない。
それだけ帝国人への憎悪が激しいのだろう。それに加えて、いまは嫌われ者の神聖共和国党の関係者までいる……
隣を歩くフラムも、ちょっとだけ悲しそうな表情だ。外面だけは凛と澄ましているが、ほんのわずかだけ頬が引きつっている。彼女と関わってまだ半日と経ってないが、ちょっとした表情変化くらいは見抜けるようになったようだ。これも歳の功ってやつか。
「ねえねえ」
ルイスの隣――フラムの反対側――を歩くアリシアが、ふいに話を切り出してきた。
彼女もやや不安そうな顔をしていたが、この女こそ過去にひどい差別を受けてきた身だ。まだまだ平気そうである。
「私たちもその……ローブとか被ったらどうかな? 黒目が見えなきゃ、すくなくとも帝国人って思われないと思うんだけど……」
「いや……。厳しいだろうな」
ルイスは静かに首を横に振る。
「その格好は神聖共和国党そのものだ。そんな姿で出歩いたらどうなるか――容易に想像つくだろ」
「あ……」
しゅんとうつむくアリシア。
そう。
ローブを目深に被り、フラムとともに街を闊歩する……。それだけでもう、どんな騒ぎになるかわかったものではない。現在のほうがまだマシといえよう。
「その、すまないな……」
フラムが後頭部に手を添え、小さい声で言う。
「あんたたちの言う通りだ。神聖共和国党はローブ姿で活動してた。その変装はオススメできない」
「だよなぁ……」
頬をさすりながら呟くルイス。
「顔を隠せそうな防具を売ってる店とか……この辺にないか?」
「あるにはあるが……二人とも、資金に余裕は?」
「……ない」
「……じゃあ、ない」
「……じゃあ仕方ない」
正々堂々、この身なりで活動していくしかないだろう。
面倒事は増えるだろうが、恥じることはなにもない。
俺たちは帝国で生まれ育った人間だ。そのことについて、なにも負い目を感じる必要はない。
すると。
ルイスは再び気づいてしまった。
フラムの微妙な表情の変化に。
気丈に澄まし顔を貫いてはいるが、眉尻は若干下がり、視線もすこし覚束ない。強がっているように見えて、実は申し訳なさを感じているように見えた。迷惑をかけてしまっている、ルイスやアリシアに対して。
だからルイスは一瞬だけ、フラムの頭をぽんぽんしてみせた。
「気にするなって言っただろ。早く神聖共和国党の謎を解いていこうや」
「……へ?」
「おまえが余計なこと気にしてないかと思ってな」
「…………」
フラムは不思議そうにルイスを見上げる。
「私も同じ気持ちですよ」
すると、今度はアリシアがひょこっと発言した。
「気にしないでください。これくらいの迫害なんて、私たち、慣れっこですから。こんな小さいことに捕らわれるより、自分の目標に向かって走ったほうがいいと思います」
――この野郎、良いこと言うじゃねえか。
俺と同様、アリシアもいい感じに成長してるってことか。精神的にも。
「……はは。なんちゅうお人好しどもだ」
フラムが地面に目を逸らして言う。
「ますますわからなくなってきたよ。大統領の発信するテイコーの愚かさが……まるで嘘のようだ」
そして、彼女がはっきりとした笑顔を浮かべるのを、ルイスは初めて見た。
「ありがとう。冒険者ギルドはすぐそこだ。早く行こう」




