おっさん、意味がわからなかった
決着は一瞬でついた。
ルイスの放った《疾風・極》により、黒装束どもは呆気なく倒れることとなった。
いくら連中がAランク冒険者並みに強くても、ルイスはさらにその上をいっているだけのことだ。最強スキル《無条件勝利》の前では、生半可な強さは通用しない。
「…………」
――カキン。
太刀を鞘に収めると、ルイスは無表情で黒装束らを見下ろす。起き上がろうとする者はひとりもいない。
――問題は、こいつらがいったい何者であるかだ。
もしフラムの言うように意識が操作されているのであれば、これは只事ではない。Aランク冒険者レベルの戦士を操るなど、どんな強者が裏に潜んでいるというのか……
そう思いつつ、近くにいた黒装束の仮面を取ろうとした、その瞬間――
「気をつけて! 《転移魔法》が解けます!」
背後にいるアリシアが、大声で叫んだ。
なんだ……? とルイスが思ったのも束の間。
全身を白いオーラが包み込み、ルイスの視界が無色に染まった。アリシアやフラムも同様の現象に見舞われているようで、「わわっ……!」「なんだ……!?」といった声を漏らしている。
そして次の瞬間には、ルイスたちは見覚えのある場所に立っていた。ユーラス共和国のスラム街。突然現れたルイスたちに通行人たちがぎょっとしているが、ここの住人はもともと無気力なようだ。数秒後には、何事もなかったかのように暗い顔で去っていく。
「な、なんだったんだ……いまのは……」
転移を繰り返されたせいか頭がぼーっとする。それをぶんぶん振り払いながら、ルイスは呟いた。
「すまない。私に巻き込まれた形だと思う……」
申し訳なさそうに頭を下げるフラム。両の拳をぎゅっと握りながら、太股のあたりに添えている。
「……なんなんだ、あの連中は。いったいなにが目的なんだ」
「わからない。ある日を境に、ああやって襲いかかってきてな……。あそこまで大人数で来たのは初めてだったが……」
「そうか……」
あんな訳のわからない連中と、フラムはずっとひとりで戦ってきたわけか。住民からも見放され、ギルドからも追放されかけ、それでもずっと……。
それを思うと、彼女の心痛を感じずにはいられない。
「気にするなフラム。これもなにかの縁だ。一緒に乗り越えていこう」
「え……」
神聖共和国党の件と合わせても、やることがまたひとつ増えてしまったが、たったひとりで頑張っている彼女を放ってはおけまい。
誰にも見向きされない辛さは、ルイスとてよくわかっているつもりだ。
それに――
「あの黒装束ども、たぶん俺たちとも無関係じゃないな。なんつーか、あの戦い方を見たことあるっつーか……」
「へ……?」
「あ、それ私も思いました!!」
アリシアがぴんと手を伸ばす。
「仮面かぶってたんで、はっきりしたことはわかんないんですけど……。私、あの人たちを見たことある気がします……」
「な、なんだと!?」
フラムがいっぱいに目を見開いた。
「い、いったい、共和国でなにが起きてるんだよ……」
「わかんねぇさ。だから俺たちがそれを探るんだろ」
ルイスは、自分よりかなり低いところにあるフラムの瞳を見つめた。
「おまえは俺たちが守る。だから細けぇことは気にすんな。一緒に乗り越えりゃいい」
「う……」
恥ずかしそうに視線をうろちょろさせるフラム。
「え、Sランク冒険者が守られるなんて前代未聞だ……」
「あの、ルイスさん?」
アリシアが半笑いを浮かべる。
「その、簡単にそういうこと言っちゃ駄目ですからね? 前からずっと釘差してるじゃないですか」
「はあ? 困ってる人を助けることのなにが悪い」
「…………」
はぁ、とため息をつくアリシア。
片や、まだうつむいているフラム。
――なんだこの空気。
ルイスはなんだか気まずくなり、無理やり話題を変えることにした。
「と、ところでアリシア。またさっきの場所に《転移》できないのか? 連中の正体を確かめたいんだが」
「あ、それがですね」
アリシアがすっと表情を引き締める。
「実はさっきから試してたんです。でも無理でした。なにかに阻まれているというか……」
「そ、そうか……」
アリシアの古代魔法を妨害するとは、やはり大きなバックがいるとしか思えない。まあ、彼女の魔法もまだ発展途上ではあるが。
「じ、じゃあ、ギルドに戻ろうぜ。早く登録しないと」
ルイスの呼びかけに、アリシアとフラムは「はい」と頷いた。




