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1.空から舞い降りた美男子

 ソルシエールのお屋敷を訪ねた一週間後。

 騎士団の宿舎一階の会議室で、ティフォン団長の口から衝撃的な内容が告げられた。


「スフィーダ王国の国王陛下より、我ら王国騎士団と魔術師団による救援要請が寄せられた。これから午後までに支度を整え、第一から第四までの部隊、そして治癒術師による救援部隊を結成する」


 テーブルを囲む団長、副団長、各部隊長、そして私。

 かつてない程に緊迫した様子の団長さんに続き、グラースさんが説明に入る。


「スフィーダ王国が世界最大級の火山を有しているのはご存知ですね? 二日前、その火山の火口から古代種と見られる巨大な魔物が出現し、周辺の町や村に多大な被害が出ているとの報告が入りました。現時点での死傷者は少なくとも五千人は超えており、古代種が出現した影響か、小規模な噴火も発生している模様です」

「ヴォルカン王子は軍を率い、住民の避難と古代種を抑えるべく奮戦している。だが、話を聞くに、その古代種は俺達が仕留めたブー・クロコディルを遥かに凌ぐ力を持っているらしい」


 以前、ベルム村の近くに現れた鰐の姿をした古代種──ブー・クロコディル。

 強い酸性の沼と特殊な性質を持った泥の鎧を纏った巨大な魔物は、団長さんやグラースさん、シャルマンさんにクヴァール殿下、そして多くの騎士さんと魔術師さんが力を合わせて倒した強敵だった。

 しかし、火山から現れたという新たな古代種は、そのブー・クロコディルすらも上回る強さを誇っているのだという。

 周辺に住む人々が傷付き倒れてしまったのは、あまりにも辛く心が痛む。

 これ以上被害が出る前に──そして、私の治療が間に合うように、一刻も早くスフィーダ王国へ向かわなくてはならない。


「ですが……そんなに強力な古代種を相手に、勝ち目はあるのでしょうか……。あの古代鰐との戦いも、とても危険なものでした。それ以上に危険な相手を、どうやって攻略するのですか……?」


 グラースさん達は強い。私が知っている中で、彼らより頼りになるような人は居ない。

 けれど、既に多くの死者が出てしまった災害のような魔物を、何の策も無しに倒しに行く訳にはいかないだろう。

 そんな不安を感じ取ったグラースさんが、私を安心させるように小さく微笑みながら言う。


「救援に向かうのは私達だけではありません」

「え……?」

「魔女復活以降、クヴァール殿下はアイステーシスをはじめとする四大国間での同盟を進めておりましたが……通信魔道具を通じてではありますが、本日無事に同盟が成立する運びとなったのです」


 彼が言うには、魔女討伐または再封印を目標に、アイステーシス王国、スフィーダ王国、カウザ王国、そしてフェー・ボク王国による同盟が結ばれる事になった。

 同盟を成立を確かなものにする為、後日改めて調印式が行われる予定だったそうなのだけれど……そこへ飛び込んで来たのが、スフィーダ火山の古代種による襲撃事件だったらしい。


「この件に魔女が絡んでいる事も考えられるからな。一刻も早い同盟成立を図る為、各国の代表と救援部隊が現地に向かい、そこで急遽調印式を執り行う事になったんだ」

「幸い、火山の古代種は日中のみに活動が活発になるそうです。ですので、日が沈んでいるうちに調印式を執り行い、四カ国合同での作戦会議を進める予定になっています」

「魔女が現れた時の為に、そこで四属性の御子の顔合わせと情報交換もしておきたいらしい。御子全員が揃うのなんて歴史的な出来事だ。アイステーシスの炎の御子として気をしっかり持つんだぞ、フラム」

「は、はい……!」


 炎の御子である私と、大地の御子のヴォルカン王子。

 残るは私の生まれ故郷、カウザ王国の水の御子と、フェー・ボク王国の風の御子。

 いつかは彼らと協力して魔女と戦う日が来るのだから、それぞれの戦い方や性格なんかを知っておくのは重要になるんだろう。

 そういえば、カウザの御子って確か……。


「何か質問はあるか? 無いようなら、これから急いで遠征の準備を始めるぞ!」

「「「「はっ‼︎」」」」


 考え事をしていた私の思考を掻き消すように、私達は早速スフィーダへの旅支度を急ぐ事になった。



 そしていよいよ、太陽が真上に登った頃。

 クヴァール殿下率いる王国騎士団と王城魔術師団の合同救援部隊は、出発の時を迎えた。

 アイステーシスからスフィーダまではかなりの距離があり、どう頑張っても一週間程度の長旅になってしまう為、カウザとフェー・ボクの救援部隊より到着が遅れてしまう。

 しかし、そこに救いの手を差し伸べてくれた人が居た。


「おっ、来たなぁ! ほら、見てみろフラム!」


 お城の前に集合した私達が見上げる空──団長さんが指差した先に、ぽつりぽつりとこちらへ向かって来る白い点がいくつも見える。

 それは次第に大きさを増し、その輪郭がはっきりと確認出来るようになっていく。

 白い巨体と、地面に影を作る大きな翼。

 今日の空の色よりも深く澄み渡った色をした、鋭い瞳。

 その群れが引いているのは、沢山の荷物や人を乗せて運べそうな荷台らしきものがある。


「こ、この方々が、フェー・ボク王国の白竜騎士団……!」

「私もこの目で実物の白竜を見るのは初めてですが……迫力がありますね」


 目の前に次々と降り立つドラゴンの群れに驚愕する私に対し、隣で感想を述べるグラースさんは至って冷静だった。

 白いドラゴンを操るエルフで構成されているという、白竜騎士団。

 彼らは魔法が得意であるうえに、磨いた剣の腕とドラゴンとの連携戦術で名を馳せる有名な騎士団だ──と、ティフォン団長が言っているのを耳にした事がある。

 すると、一番に降り立ったドラゴンの背から、一人の鎧騎士が華麗に着地を決めた。


「初めまして、アイステーシス王国のクヴァール殿下。自分はフェー・ボク王国白竜騎士団の団長、シャール・プラティーヌと申します」


 シャールと名乗った銀髪の彼は、エルフの特徴である長い耳と甘いルックスを持つ美男子だった。

 彼がクヴァール殿下と並ぶと、殿下に引けを取らないとんでもないイケメンだというのがよく分かる。というか、殿下の顔が整いすぎているせいなのかもしれないけれど。


「シャール騎士団長。この度の作戦協力、陛下に代わり深く感謝する」

「いえいえ、我が国と貴国は同盟を結ぶ間柄。この程度のお力添えは当然の事です」


 私が会話する二人を眺めていると、ふいにグラースさんがそっと耳打ちしてきた。


「先程からミスター・シャールに熱い視線を送っているようですが……私の事は、もう飽きてしまいましたか……?」

「へっ……⁉︎」


 急にそんな事を訊ねられ、戸惑う私は彼の顔を見上げる。

 捨てられた仔犬のような目をして見詰めてくる彼。もしかして私がさっきからシャールさんを見ているから、嫉妬……したのかしら?

 私はなるべく騒ぎにならないよう、頑張って背伸びをして彼の耳元に顔を近付け、小さく囁いた。


「わ、私は……グラースさんの方が、もっともっとかっこいいと思いますっ……!」


 私は、彼に思っている事をそのまま伝えた。

 いくらエルフが美男美女である事が有名な種族で、そんなエルフ達の中でもエリートであろう白竜騎士団長が目の前に居ても、私は彼なんかよりグラースさんの方がずっと好きだ。

 私の為に喜び、笑い、悲しみ、私を好きになってくれた心優しい彼。

 ちょっぴり嫉妬深いかもしれないところもあるけれど、それは私の事を誰よりも考えてくれているから生まれる感情だ。

 そんな彼に飽きるだなんて、とんでもない。

 むしろ、私の方が捨てられてもおかしくない普通な女だ。こんなに素敵な騎士さんに大切に想ってもらえる事自体、私にとっては奇跡なんだから。


 かかとを地面につけ、改めて彼の顔を見上げた。

 すると、グラースさんはまるでいたずらっ子のような笑みを見せて、


「ふふっ……ありがとうございます。意地悪な質問をしてしまいましたね」


 と返して来た。

 なんて……なんて破壊力のあるスマイルなんだ……!

 ただでさえ普段から直視するのも勇気がいる程の美男子なのに、そんな笑顔を見せられたら怒る気だってどこかへ飛んで行ってしまうじゃないの!


「ですが、私という存在が、それだけ貴女の心に刻み込まれている事を実感出来ました。それに……慌てた表情を浮かべた貴女も、とても可愛らしい。もう二度とこのような意地悪はしませんから、どうかお許し下さい」


 可愛い顔をしたのは、グラースさんの方だと思うけどね……!


「……許します。許しますけど……」


 私はもう一度、彼の耳元に背伸びをした。

 二度目は彼の方も少し屈んでくれたから、体勢がちょっと楽になる。


「私も、グラースさんに飽きられないように頑張りますから……ずっと、私だけを見ていて下さいね……?」

「…………っ!」


 その言葉を聞いたグラースさんは、口元を手で抑える。

 彼の耳は、みるみるうちに真っ赤に染まっていく。

 それに気付いた私はちょっぴり彼に仕返しをしてやったような気分になって、思わず口元が緩んでしまうのだった。

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