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10.復讐劇の再演

 意識を取り戻した私は、銀の指輪を手に床に座り込んでいた。

 指輪に刻まれた記憶を見届けたからだろう。あのままレヴリーの工房で待機していたグラースさんが、心配そうに私に声を掛けてきた。


「大丈夫ですか、レディ。顔色があまり良くありませんが……」

「……平気です。ご心配をお掛けして、済みません」


 彼が手を差し出してくれたので、私はその手を取って立ち上がる。

 すると、壁に背中を預けていたコンセイユさんが言う。


「さあ、次はどちらが記録を見る?」

「アタシが観るわ。グラースちゃんは、もうしばらくフラムちゃんの側に居てあげて。少しショッキングな内容だったみたいだから」

「ええ、勿論です」


 シャルマンさんは私から指輪を受け取り、同じように指輪に魔力を流し始めた。

 体感的にはそれなりに時間が経っていたように感じたのだけれど、実際はほんの数分の出来事だったらしい。すぐにシャルマンは意識を取り戻し、何とも言えない複雑な表情を浮かべていた。

 続いてグラースさんに指輪が渡り、これで全員があの出来事を目にした事になる。


「どうだった、初代の残した記録は」


 私達にそう問い掛けたコンセイユさんは、グラースさんから返された指輪に視線を落とす。

 ソルシエール家初代当主、レヴリー。瘴気を吸収する呪具を作る為、魔女と契約し、自らの命を捧げた男性。

 彼の決意と最期を見届けた私の中には、新たな疑問が浮かんでいた。


「……私は、以前から魔女について疑問に思っていた事がありました。四人の御子と大精霊、そして多くの人々の手にやってあれだけの封印を施された魔女──彼女が何故世界を恐怖に陥れようとしているのか、その理由が少し分かったような気がしたんです」

「ほう? 何だ、言ってみよ」

「指輪の記録が終わる直前、魔女がこう言っていましたよね? 『そなたのような男に出会えていれば、わらわの人生も少しは違っていたのやもしれぬな……』──と」


 私は、これまで魔女が世界に牙を剥いていた理由なんて考えた事が無かった。

 それはただ単に、彼女が『悪い魔女だから』としか思っていなかったからだ。大魔女と呼ばれた程の力を持った彼女が、何故たった一人で世界の全てを敵に回したのか……。


「魔女は……ジャルジーは、誰かに裏切られたからあんな事をしたんじゃないかって……そう、思ったんです」

「アタシもそこが引っ掛かっていたの。彼女が初代様に呪いを……アタシ達ソルシエール家の男子だけに愛の呪いをかけた事も、それが理由だったように思えて……」


 シャルマンさんが言った事を、私も同じく感じていた。

 どうせ呪いをかけるのであれば、ソルシエールの血を引く者全てにすれば良いはずだ。それなのに、わざわざ男性だけに狙いを定めたのには、何らかの意図があるはずだもの。

 すると、私達の意見を聞いたコンセイユさんが小さく笑った。


「ああ、察しが良いな。魔女ジャルジーは、ある男に裏切られ、男という存在全てに対し燃え上がるような復讐心を抱いている」

「それが切っ掛けとなり、彼女の復讐劇として始まったのが……太古の大戦だったのですね」

「そうだ。初代当主は、この指輪以外にもいくつか記録を残していてな。それらを全て確認した結果、魔女の弱点になり得るものも発見している」

「魔女の弱点? そんなものがあったんですか⁉︎」


 弱点があるならば、復活した彼女を再封印するのに役立つだろう。

 その情報に思い切り食い付いた私に、コンセイユさんがそっと手招きする。

 不思議に思いながら近付くと、彼女は懐から一枚の紙を取り出して私に手渡して来た。


「あの、これは……?」

「シャルマンからの手紙にあった話で、その可能性を見出したのだ。そなたがこれをマスターすれば、役立つ場面がきっとあるはずだぞ」

「は、はい。ありがとうございます」


 折りたたまれたその紙を広げると、そこにはとある魔法の名称と、その詠唱が記されていた。

 言い方が悪くなってしまうけれど、こんな魔法が魔女の弱点になるのかしら……?


「それからこれも渡しておこう。指輪と共に保管されていた、初代特製の魔道具だ」


 そう言って彼女が私に手渡したのは、透明な水晶がはめ込まれたブレスレットだった。

 これも何かを記録したものなのだろうか?

 そんな事を考えていると、コンセイユさんがすぐに説明してくれた。


「これは、相手の魂を封じ込める道具……だと言われている。残念ながら動作確認は出来ていないらしいから、上手く動くかは分からない」

「あの、これをどうして私に……?」

「先程も言ったが、そなたが御子である事は近い将来、魔女派の者達の耳にも入るだろう。刺客に狙われた時にでも役立つやもしれん。念の為、そなたが持っておくと良い」


 魂を封じ込める魔道具……?

 それも、上手く使えるかどうか分からない……?

 彼女の気持ちはありがたいけれど、素直に喜んで良いのかどうか、よく分からない。

 私が頭を悩ませていると、彼女が思い出したようにこう言った。


「ああ、そうだ。そろそろ夕食の支度が整う頃だろう。部屋もジュリアに用意させてある。今夜は泊まっていくと良い」


 こうしてレヴリーと魔女ジャルジーの情報を得た私達は、彼女の厚意に甘えて、ソルシエール邸で一夜を明かす事になるのだった。



 ******



 女は一人、夜の空を飛んでいた。

 彼女の名はジャルジー。大魔女と呼ばれ恐れられる、災厄をもたらす存在だ。


「……見えた」


 ぽつりと言葉を漏らしたジャルジーの眼下には、ドロドロと熱く燃え盛る溶岩が、大河のようになって流れている。

 その溶岩が噴き出す先こそが、彼女が目指す場所であった。

 目的地に到着したジャルジーは、溶岩が流れる岩山──スフィーダ火山の火口に向けて手をかざす。


「目覚めるが良い、我が(しもべ)……我が手脚となりて、世界に破滅をもたらすのじゃ……!」


 彼女の手から放たれた魔力の球が、火口へと呑み込まれていく。

 それを見届けたジャルジーは、僅かに反応を示した微量な魔力を感知し、ニタリと口元を歪ませた。


 彼女の復讐劇は、まだ終わらない──。

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