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6.当主からの手紙

 調合室の片付けを済ませると、グラースさんが戻って来た。

 私達は宿舎一階の食堂へと向かい、一足先に待っていたシャルマンさんを発見した。

 こちらに気が付いた彼は、私達に向かって笑顔で手を振る。


「急な話でごめんなさいね、二人共」

「いえいえ。ご飯を食べる時は人数が多い方が楽しいですから」


 三人が揃ったところで、それぞれカウンターで昼食を受け取った。

 トレーの上には野菜とお肉の炒めものとパン、そして小皿にカットされた林檎が乗っている。それを持って奥のテーブルに私とグラースさんが並んで座り、向かい側にシャルマンさんが座った。

 すると、シャルマンさんが周囲を眺めながら言う。


「お昼時だけど人が少ないわね」

「活発化した魔物の討伐任務が激増したので、こちらに昼食を摂りに戻る者はあまり居ないのですよ。そういった者は皆、現地に携帯食を持参しています」


 グラースさんの言葉に、シャルマンさんは表情を曇らせる。


「国から冒険者への協力要請は出してあるそうだけど、魔物の数が多すぎるのかしら?」

「領主の抱える騎士団や自警団も駆り出されているそうですが、冒険者の方々はそういった戦力を持たない地方の村などの救援で手一杯だそうです。そもそも、依頼人の待つ村へ到着するまでも時間が掛かりそうだとか……」


 魔女が解き放たれた影響だろう。アイステーシス王国は、たったの数日間で魔物の活動状況が激変してしまった。

 これから各国からも近況報告が届くそうだけれど、恐らくどの国でも似たような状態に陥っているはずだ。

 幸いにも王都アスピスは湖の中心にある立地である為、メインストリートと繋がる大橋の防衛をしておけばほとんど危険は無い。

 その分王都には畑を作る土地が無い為、近隣の農場の警備や商人達の護衛でかなり人手を割かれているのが現状だそうだ。

 そういった仕事は王国騎士団に依頼出来れば無料で仕事を任せられるけれど、私達が仕事を受け続けるにも限界がある。


「現時点で近隣の農場から護衛依頼が来ています。今朝のうちに部下が警備体制の確認の為下見に向かいましたが、近日中に他の農場からも依頼が来るかもしれませんね」

「こっちも似たような状況よ。午前中は漁師さん達から頼まれて、湖から魔物が入ってこないように結界を張りに行ったの。それで湖をぐるっと一周したもんだから歩き疲れちゃって……」

「どちらも人手が足りない状況なんですね……。私ももっとお手伝い出来る事があれば良かったんですが……」


 私がそう言うと、シャルマンさんは


「ちょっとちょっと〜! フラムちゃんには魔術師団でやるはずだったポーションの量産を肩代わりしてもらってるじゃない! 製薬担当の子達も、アナタにはとっても感謝してるんだから!」


 と答えた。

 私としてはそんなに役に立てている実感は無いし、シャルマンさんのように攻撃魔法が得意な訳でもないから、討伐任務の手助けが出来るという訳でもない。

 ずっと調合室に籠ってポーションを作り続ける事だけで、本当に彼らの負担を軽減出来ているのだろうか……。

 そんな風に考えていると、彼は更に言葉を重ねる。


「それにフラムちゃんは、忙しいでしょうにこうして時間を作ってくれたでしょう? 勿論グラースちゃんもね」


 シャルマンさんは一通の手紙を取り出した。

 私に差し出されたその手紙には、封蝋がされていた痕跡が残っている。


「シャルマン団長、この手紙は……?」

「差出人はアタシの姉よ。フラムちゃんにはこの前話したわよね?」

「はい。ソルシエール家の当主様……でしたよね?」

「団長の姉君の……。その内容が私達に関係があるのですか?」

「ええ。ちょっと読んでみてもらえるかしら」


 そう言われて、私は封筒を受け取りグラースさんと一緒にそれに目を通す。

 そこにはとても綺麗な文字で、こう書き記されていた。



 我が弟、シャルマンへ


 例の件、確かに把握した。

 我が屋敷にてお前の帰りを待つ。

 それから、お前の手紙にあった炎の御子とも話がしてみたい。その娘も屋敷に招待しよう。

 ただし、お前一人では心許ないので、誰か腕の立つ者を御子の護衛とするように。

 訪問の日時はそちらに一任する。私はいつでもお前と御子を歓迎する用意がある。


 ソルシエール家当主 コンセイユ



 と、締めくくられていた。

 この内容から見るに、どうやら私はシャルマンさんのお姉さんから招待をされている事がうかがえる。

 隣で文字を追っていたグラースさんも丁度読み終えたらしい。


「シャルマン団長、何故貴方の姉君にレディの事をお伝えしたのですか?」

「アタシのご先祖様は、トネール前団長に埋め込まれていた呪具の開発者……かもしれないの。ソルシエールの家を継いだお姉様なら、ご先祖様と魔女についての手掛かりを知っている可能性があるわ。その話をする為に久々に連絡してみたのよ」


 その返答に、グラースさんは少しの沈黙の後に再び口を開いた。


「……先日、陛下がお話されていた人物の事ですね。もしや、四人の御子に関する情報も姉君はご存知なのでしょうか?」

「それを確かめる為にフラムちゃんの事も一緒に伝えたんだけど……直接会ってみないと話してくれないみたい。今日の相談っていうのはこの事だったのよ」


 そう言って、シャルマンさんは炒め物をフォークに刺した。


「私も当主様のお話を伺いたいと思います。ええと、グラースさんは私の護衛役としてご一緒する形になるのでしょうか?」

「グラースちゃんが嫌でなければ……ううん、しばらくここを空けても大丈夫かどうかだけれどね」


 問われた彼は間、髪を入れずに頷いて言う。


「私もソルシエール邸にご一緒致します。魔女に関する情報を得られるのでしたらなおの事。それに……私の剣技を信頼してのご指名だと思いますから」

「引き受けてくれてありがとう、二人共! それじゃあお食事がてら、具体的な日程を決めていきましょ!」

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