アクター3『殺し屋』
アクター3『殺し屋』
そうそう、少女とさっきの『片腕』のおじさんが地下で出会った『殺し屋』。
この人が何だったんだって話が出ると思いますが――ぶっちゃけ〜前の三人と同じですよ。
? まだご理解ない? だから、あんたら騎士団といいギルガメッシュ旅団といい将軍は――【巻き込まれた側】だってことですよ。
騎士団は現地の調査。旅団は野営地。将軍だって旅の経由地に過ぎなかったんですから――
こいつは単なる、落ちぶれ殺人鬼。依頼主すら獲物でしかない、歪んだ殺し屋。
(殺人鬼の考察)
別に殺人鬼を名乗った覚えは無い。それに俺にゃ――カエンって名前がある。
……ただなぁ、あの時の事件に関して、実は記憶にねぇんだよな。
いや、俺はさ――その【血蓮公爵】に襲われて、生き残ったってだけだからな。
あの日は変な日だったよ。
適当な部屋でくつろいでたら、急に曇りだしたり雷が落ちたりよぉ。
で、気配を辿ったら――見知らぬ小娘がくつろいでて、ガヤガヤとギャラリーが増えやがって。
こりゃ楽しそうだな〜と思ったら、仕事だったんだとさ。
あの黒服の女――っつかガキと残り二人、妙齢の女――出来る限り生きて捕縛しろって。
おいおい、俺を何でも屋と勘違いしてやがるッて吐き捨てながら、食いはぐれている手前、渋々承諾したんだがよ。
……冗談じゃねぇ――
すっぱり見抜けたよ。
こりゃ俺の手に負えねぇって――
まずはギルガメッシュ、話にならねぇ。ガキなのにあの体型で、あの戦闘力で、人外の怪力。吸血鬼でも怪力にゃなれるが、あれはその規格すら抜けていやがる。なんで気光波とか撃てるんだよ?
次に神殿騎士――嗚呼、何人か教会相手にツテがあって、依頼を受けたり遂行したりはあったが、あの小僧が不味い。
未成熟体質――大人になれない子供たち。
それはすなわち【成長し続ける】って逆の意味なんだ。
やつらは無限に近い魔力を【喰らい】続ける。そして精神だけが成長し、体の発育は永遠に止まっちまう。
利点ばかり目立つが、弱点と言う弱点は寿命が短い程度だ。
成長しないってことは【体が完成しない】ってことだ。免疫系、新陳代謝の成長が、極端に低下する。
有毒系の技術があるにはあるが、解毒の術式は連れの誰かがもっているだろうさ。ちっ――
最後に……あの片腕、どっかで見たことがある。
つい最近【紅蓮剣】が、どこぞの馬の骨に殺されたって聞いたが。鮮血公も片腕、奴は……銀髪?
そして、あの黒衣の女――
アズリエル……こうして拝むのは初めてだが、そんなに危険な気配はしねぇんだがな――
……ギルガメッシュとの戦闘をみて、理解した。
嗚呼、こりゃ駄目だ。
戦う次元が違いすぎる。
俺は【暗殺者】で、ギルガメッシュは【勇者】だ。
暗殺者は、こそこそと……卑屈な言い方だが、隠れて何事も無かったように、対象だけを素直に抹消する。
対して、勇者は戦うだけではなく、そこに名声と栄誉と、それを背負う度胸がいる。
俺が背負うのは金と殺戮への快楽だけだ。
だが、アレは……なんだ?
形容する言葉がねえ――あの勇者がてんで相手にならない。
勇者を超える力を持つのは、神か魔王かどっちかしか思いつかねぇぞ?
勝敗が決まっても、驚きはしなかったが――戦慄は変わらなかった。
アレは人間とか、化物とか、そういったレヴェルの存在じゃねぇ――
……引き際は心得ているつもりだ。
こいつは手に負える負えないのレヴェルじゃねぇ、チキンと蔑まれても別に良い。
あんなのを相手に出来るかッ。
勇者や神魔族を倒したから、と言うだけでも驚嘆ものだろう? だが、それさえも違う。
アレは、誰にも倒せない――
『へぇ、アンタ、結構鋭いな』
……ッ?
『貴重だぜ、珍しいぜ、とっても珍種だ。その天性の勘って奴が、お前のようなチキンを生かしてきたのかもな』
まずい――
なんか、いろんな意味でまずい。
だって、俺よぉ――
何も喋ってなんかいないんだぜ?
振り返ったら、世界が真っ赤に染まった――