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12『御馳走様』

12『御馳走様』


アクター1『アズリエルの兄』


俺に関しちゃ、話すまでもねぇよな。

今こうして、お前と会話してんだし――まぁ、蘇ってのんびりやってるよ。


もっとも、俺ではなく、『アズリエル』として考えるなら、二年ってスパンは微妙だな。

俺は二年間も、アズリエル三姉妹を放置してたってことになる。

どう成長しているやら。だが、たぶん――かかわり合うのは更なる未来の物語だろうな。


次回の物語には、多分俺もお前も関与できない、っつかしてないだろうよ。




アクター2 『片腕の将軍』


手紙を開けた将軍、片腕の男の目に飛び込んだのはつたない、平文字の文章。

その内容は――お前らのほうが良く知ってんじゃね?


あんた、人のことお前呼ばわりするの止めた方が良いぜ?


あ、こりゃ失礼。では、クリスちゃんと。


お前でいい――

書いたのはアリスだよ。俺はあんまり、字が綺麗じゃないし、日記よく書いてたしな。

……アリス? 今いいか?


『お元気ですか? 無事、お家には辿り着けましたか?

この手紙、私たちを助けてくれた、優しいお兄さんが届けてくれると言っていたのですが、届いたかどうか、少し不安です。

ですが今読んでいるなら、それは届いたと言うことですから、嬉しい限りです。

私たちはあのあと、不思議な組織に助けられました。

クリスと同伴していたと言う、化け物のお兄さんが、最後の最後で力を振り絞って、助けてくれたそうです。

私たちは、まず――クリスのお家に帰してもらいます。実はこの手紙、そこで知り合った、二人の女の子に色々教わりながら書きました。

とても可愛い女の子たちで、すぐお友達になりました。

おじさんの方は、体大丈夫ですか? あの館での病気をうつされてないかどうか、とても心配です。

もっとたくさん書きたいことがあったのですが――そろそろクリスが目をさますころみたいです。

今までずっと頑張っていて、疲れたみたいでした。

では、いずれまた、どこかで出会えることを祈って――』


――だとさ。


……さて、何て答えたらいいだろうかね。


ん――何か言いにくそうだな。


現実は、非常でな――ただ、救いがあると言うなら、俺が『万能』ではないこと。

すなわち、この目で見ていないってことさ。


……何となく察した。


嗚呼、あのおじ様は、もう殺されてるよ。

あの人は帝都の人間、あのあと、二人の関わり合わなかった場所で、起こってしまった事象で、歴史から抹消されてしまったよ。


手紙を読み終えた後、やってきたのは彼の妻ではなく、教会の人間――

街中の、人の住む一角の中で堂々と――片腕の男は、両腕を持つ男たちに連れ去られてしまった。

その後を、知る者はいない――



アクター3『殺し屋』


……誰だっけ?


お前が乗り移ってた、今回最大の被害者だ。


死んでるだろ? 普通に考えて――


……お前、自分の興味ない人間にはとことん冷たいんだな。


よく言われる。

あの後、確かセラフの小僧たちに保護されてるから、よくて拷問死、悪くて拷問死だな。


いやな、あの事件を、特に裏側を特に知ってる奴らは、教会に消されてるってのが基本。


……あの小僧が、それを許してるかどうか。


セラフィス? ……だろうね。でもな、その後に新人の神殿騎士が入ったんだ。


をい――



アクター4 『蒼い髪の少女』


死んだのか?


……ぶっちゃけわからん。


お前、役に立たねぇな――


だって、情報収集とかするようなタイプに見えるか?

まぁ、多分生きてるだろう。


生きてるのか?


勘。


勘かよ。


あの手のタイプは、死に損ないが多いんだよ。まぁ、どんな姿になってるかまでは想像つかんがな。



アクター5『血蓮公爵』


お前のこっちゃ。


「うるさい。俺は――まぁ、今のまんまさ。

あのあと実家に帰されて、何があったかこってり絞られて――とりあえずバックれて、またアリスの親父探しさ。

ああ、親父さんは見つかったんだ。ただ別国で軍隊率いてて、会うのが大変だったな。」


ほぉ――それはまた別の物語、いや語られることはあるのだろうか……


「さぁな。アリスにでも聞いてみな」


しかし、アリス……か。日本だと花子ちゃん並の平凡な名前だよなぁ。


「は? ……名前か」


嗚呼、あそこまで普通の娘が……こうまで物語りに根深く食い込むってのは、ねぇ。


「お前、そう言えばあの時も、アリスを気に掛けてたよな」


……あのさ、普通の人間ってのはさ、死にやすいんだよ?

俺らのような人間・・・・・・・・から見て――


「……」


いや、これは俺の嫉妬だな。


「嫉妬?」


そう、その死にやすい人間が生きている。

それはその人間がうまく立ち回ったからか、誰かが守り通して(・・・・・)きたからのどっちかか、どっちもだ。

俺にはできなかったことさ――


「……」


素直に、賞賛するよ。クリストファー。


「……ありがとよ」



〜〜〜〜〜〜


「ん、まぁ二年越しの後付話はこれでお終いだな。なんか、ほかに聞きたいことはあるか? 俺の家族構成までならOKだぜ?」

「…………」

冷たい視線が過ぎり、黒衣の青年の口元がひくつく。


そろそろ夜もふけて、物語も終える。

青年は空になった皿を一巡し、今度は背後にいる客たちに目配せする。


さまざまな意匠を施した思い思いの若者たちが、いっせいに黒衣の青年に視線を向ける。


「終わりか?」

軽薄そうな金髪の青年が投げかけると、

「ちょい待てよ……お前らのほうこそ、飯は食ったのか?」

「俺らはともかく。アカンスやヴァルは食えねえんだけど?」

「馬鹿、雰囲気とノリだよ……やれやれ」


いい終える前に、アリスが話しこんでいた少女たちからこちらに視線を向ける。

あの部屋で出会った、二人の少女……化神の少女と、レメラ・アズリエルの基となった少女、


今、この飯屋に残っているのは、おそらく彼らだけ。


「んじゃ、縁と運命が重なったそのとき――またどこかで会いましょう、お嬢さん」

「そうだな、二度と会えるとは思えないけどな、怪しげな紳士さん」




店主が顔を出してきて、会計に入る一行。

それを見届けるとクリスは厨房に戻る。と、パタパタとアリスが戻ってきて、クリスに駆け寄る。

「懐かしい人たちだったわね」と、微笑を掛けるけど、


「もう二度と会えないよ」

冷淡に、答えた。


「……そうね。

あの人たち、一人一人、あの魔王の、靜お兄さんに匹敵するくらい、すごい人たちばっかりだったね」

「シズカ……ね。名前どおりおとなしくしてればいいのに」

「一体、あんな人たちとつるんで、何をしでかすのかしらね?」


……エプロンを畳んで、着替える。

こっちを見てる。

着替える。

によによによ……


「……何?」

「いいの? 一緒に行かなくて――ずっと退屈してたんじゃないの?」

「退屈してるのはアリスだろう。勘弁してくれ」


一つ、あの魔王も読み違いしている。

何が平凡な名前だ。どこが普通の名前だよ。だから何だって言うんだ。


彼女の正体、それは真性のトラブルメイカーだ。


自分は親父とお袋とはかけ離れた、この村と同じように、のんびりぐ〜たら、平和に暮らしていたいだけだ。


ところがどうだ? アリスと出会ってから、世界は急速に回り始めた。

親父が死んだのはこの際、赤の他人の誰かさんの仕業だ。

これはアリスのせいではないが、

……そもそも親父が真っ先にこの厄病娘を拾ってきて、おっちんでから――狂狂くるくる廻り始めてる。


あの館の火災事件に遭遇するわ。

帰ってから早々、神殿騎士団の一団にいちゃもんつけられて、村一丸で全滅(ほとんどクリスの手による)させて、えらい騒ぎになりかけるが……その際はセラフィスの世話になったりしたな。

どこぞの騎士団にアリスの父親がいるとの噂に、真っ先に飛びつくアリスに、巻き込まれたり。

その途中でなんで洞窟のドラゴン退治とかせにゃならんかったのか――これが一番の謎。

親父さんに出会った際……これが、結構面倒な内容過ぎたので思い出したくない。


どれも、ため息がつく程度に疲れたが――



クリスの隣には、常にアリスがいた。

常に――だ。

かけ離れたのは、あの館の事件だけ――


もう、二度と失いたくない……なんて、向こうは言ってたが。

やれやれ(・・・・)――だぜ。


――失いたく、ないか……



「クリス……あなた、ずっとこのまま平凡なまま終われると思う?」

「……今は、このままでいいさ」

「――そう、今は、よね」


父親と一緒に、暮らさなかったアリス。

それが、何を意味するか――


アリス自身がわかってるんじゃないか?

俺だって、……が痛いほど良く分かってるのに――


「もう一度、聞くわね? クリス――」

「しつこいな」

「あの化け物のお兄さんのことが――」



〜〜〜〜〜〜


「ロリコン」

「誰がロリコンじゃ」

『お前だ』

「お前ら、全員一致って何ですか、虐めですかおい? 訴えますよ、子供相談室」

「ますますロリ疑惑を深めてくれてありがとうございます。こいつ、絶対年下殺しだよ」

「嬉しくねぇ――俺は年上好みだ……年下嫌、年下怖ぃ――ガクブル」

「……よし、ネト廃人に引き込んだ成果は充分あるな」

「あぁん? おま、調子恋テルと物故抜きますよ?」

「意味とニュアンスと読みがわかりにくい! ……なんちゅう誤字脱字ルールブレイカーか」

「お前のせいだ、お前の」

金髪の青年と黒髪の魔王が吊るんで小競り合いをする最中、程よい深蒼に染まった空が彼らを見下ろしている。

まばらに点在する民家と――少しの夜道。前門には深まる森と後門を向けば星空を抱ける草原――

黒衣の一団――まるで、闇に溶け込むかのように、一種の制服のように着こなした十五人の仲間たち。


「はいはい、ネト廃人ども――自重しろ」

「俺は別にいいんだがな、俺はいい大人だ。リアルでは年下の少年少女たちの面倒を見たり、世話をしたりする、気のいいナイスガイで通っている」

「はい、リアルで乙。フヒヒ、やっぱリアル廃人であった。」

「クスさん。この二人にはそんな諌め方じゃ駄目です」

巨漢の青年の前に、小柄な少女が前に出てくる。黒衣の中で、唯一の少女にして――あの娘の基。


「……二人とも、PC電源ぶっこぬくか、サーバー落として、ついでに二度とPC使えなくなるまでぶん投げるわよ?」

『にぃ! すみまえん!』

「今、ウィルスメールとスパムメール、ついでにお給料カットの伝達も」

『に、二重工作! 汚い、さすが少女汚い!』


「うるせぇよ――」




そんな一団に、緋色の影が一つ浮かぶ。


「……よぉ、人生の後輩――いい月夜に、いい再会だわな」

「やぁ、人生の先輩――くたばってると思ったら、まだ何もしてないとか、どれだけグータラなんだよ」


蒼は、闇に沈む――

黒衣と――紅い衣。


見守る十四の黒衣と、木陰に少女が一人――


「……やれやれ、怪人が。少女の姿して化けてりゃ、普通の人生進めたんじゃねえの?」

「やれやれ、化け物に心配されるとはな。まぁ、その化けの皮だって、いずれは剥がれるもんだろう? それに――」


『格好の獲物が目の前にいる』――?

――声が重なる。


少女は間違う。何度でも、何度でも――

それは、少女が少女であるが故、


少女が、化ける一歩手前であったがゆえ。


「人生、色々ある。間違えて進むもまた一興」

「うるさいな――とりあえず魔王、どんな悪事働こうとしてるか」


一斉に、闇が剥がれ落ち――

民家が――

村が――


目覚める。


「洗いざらい吐いて貰うぜ。先輩」

「……」

魔王、絶句――


村の人々が総勢――総出で、黒き一団を囲んでいる。

その誰もが年配に達するかどうかの、歴戦の武勇を称えるかのような無骨な刀剣や、鎧を纏った――兵士たち。


「……そういえば、そんな話もあったな。やれやれ。

まぁ、お別れパーティにはこれくらいの馬鹿騒ぎ(バッカーノ)がなきゃ、駄目だよな」


動じない、黒の一団。

戦慄を帯びた村の老兵団――


「しっかし、本当アイドルだよな、後輩。年配者は大切にしろよ」

「言われなくたって大切にしてる」

「その結果がこれか――ふっふ」


微笑を零す。同時に――瞳をバンダナが覆い、塞ぐ。

黒衣にして、全身黒――その両手には緋色と蒼穹の刃が一対、生まれ出でる。


「――とりあえず、知りたかったら、乗り越えてみな、後輩」

「言われなくても、この二年――散々、退屈・・してたんだよ」

「だと思うわ――俺、最凶だから」


緋色と黒色が――交錯する――



〜〜〜〜〜〜


残念だが、皆に記せる歴史はここまで。

後日談程度だが、この村はこの黒歴史を機に、歴史の世界から消える。


〜〜〜〜〜〜


さて、最後の黒歴史をご覧入れよう。

といっても、私が彼女に聞いたなりの話と、アズリエルの大暴れのお話にすぎない。

物語を告げる上で、彼とクリスの視点からあぶれた、そう、彼女たちの記録だ。


……それと、次の彼女の話。


〜〜〜〜〜〜


アリスとライラ――


それは、物語の終盤――

館から帰路に着くはずのアリスの話。

このまま立ち去れば、黒歴史は黒歴史のまま埋もれてしまうはずだった。お話。


「お願い、力を貸して」

「――――」

朦朧としていた、アリスの意識に覆いかぶさる言葉。


なぜ、私が――

「もう、貴方しか頼れそうにないから……」

「……馬鹿、が――もう、誰も生き残ってなど」

「クリスは生きてる。だって、無茶苦茶強いんだから!」


「――死ぬぞ?」

ライラは、犬歯をむき出しにして、笑って見せた。嘲笑だ。

「無力なお前は、ただただ不死者に食い破られて、仲間入りするだけだ。私にすら食われかねんぞ?」

こいつは、ただ私がもう食えないと、瀕死だとわかりきっているからこそ、こうして頼み込んできたのだ。

「……構わない。クリスに会いたい」

「……何」

「クリスと一緒にいなきゃ。クリス、一人ぼっちなんだよ」


ライラにどんな心境が渦なしたか、私には理解しかねる。

ただ、ライラは最後の最後で、少女を背負って――館に掛け戻った。


入り口の中――死闘を繰り広げるアズリエルの兄君と、ギルガメッシュ。

気配を察し、裏口から潜入し――

「……私は、地下に下ろせ」

「ライラ?」

「……もぅ、ぃぃだろう? 少し、疲れたんだ――」

「でも」

「頼む――奴らに、会いたくない」

「……ありがとうございます」


そして――

地下室で、彼女は眠りにつくはずだった。


〜〜〜〜〜


ここで、アズリエルの話。


彼女がまぁ、暴れた仔細を記す。

なぜかはあとでわかる。


事件の幕が下りるその刻――アズリエルたちが、最高導師・ザックス・バーンフレアと邂逅したその時。

死者の匂い――それはあの館のゾンビを生成した、その気配。

それを察知したアズリエルは、まっさきにザックスに切りかかろうとして――


「っ――止めんか!」

機転を利かせたのが、何故かあの馬鹿王ことギルガメッシュ。

アズリエルの腕を掴んで、引き剥がすのだが――

生成された百の刃が――ザックスの周りに構えていた騎士団を次々貫き――周囲に動揺が走る。


「嫌悪。お役所は嫌いだ――特に死者の匂いがする面子はな」

続いて、キャスティナ・アズリエルが刃を抜いて――


「……お前ら皆、黙れ」

レメラ・アイオンス・アズリエルが絵文字を使わず、言葉を放ち――世界を支配する。


ルルダ、あの魔王の半神たるアズリエルだけでも厄介なのに、三人が三人揃って暴れだしたのだ。

結果――燃え盛った館を、今度は跡形もなく消し去り……錬金術の等価交換の結果らしい。

ザックスの騎士団の過半数を死亡させ、なおかつ――吹き飛ばした。


再び、一行は散り散りになる。

神殿騎士たちは帝都へ――

当てもなき旅路の旅団は再び旅へ――

逃走の旅となるアズリエルたち――


……


〜〜〜〜〜〜


そして、次の物語の担い手として、彼女が登場する。


吹き飛ばされた跡地に足を踏み入れる――

「いやぁ、結構微弱な反応だったけど、間違いないっすね。

錬金術――あれを素材も何もなく一瞬で精錬できるウデなんざ、この世界に存在しないっすからね」


真実屋の姿。

その背後には背の高い、金髪の青年が無言で佇んでおり、身の丈に近い、大型の剣を背負っている。


そして――彼女。

背の高い男の背後で震える娘――って彼女違う! 彼女はオマケ……単なる普通の娘だ。いや、金髪青年の安全弁、といったところか。

その意味では、このメンバーにおいて、彼女は必要な存在の一人だ。


この仲間たちを率いている、少女がいる。

だが、姿は見えない。


「あれ? 姐さん?」

「姐さんならさっき、木陰でいなくなっちゃいましたよ」

と、普通の少女。

さきほどからおびえているのは、森の中で出会った蛇や動植物に驚かされてばかりだからだ。


「――アルマはいなくなるのはザラだから良いとして、姐さんまでって何よ」

「……死体に用があるとか」

寡黙そうな、背の高い男が――体に似合う、落着いた声音でこたえる。



では、その姐さんに視点を向けるために――

再び、ライラの視界に移ろう。


そのライラは――もはや動いていなかった。

喋りもしない、瞳も何も写しておらず、心すら粉々に砕け散っていた。


そう、人が言うなら【死んでいる】と言う状態。なのだが――


「おやおやおや、そこの通りすがりのお嬢さん? ……の遺体さん♪」

通りすがってもいなければ、遺体にさん付けと言うセンスは非常に滑稽である。


むろん、聞こえてはいない。ライラの意思や思い、願いなど、そこにはない。

ただただ、あるのは遺体。肉と骨といった、人だった何かだ。

「そうよね、骸よね? だけど、アンタに構う気はないの。私はこの子に興味がわいたの」

……、…………

「そうよね? 貴女にはわかるわよね? この体はすでにこの少女だった意思も思いでも過去も何もないけど――【記録】は刻まれるものね?

ふふふふふのふ」


――貴女なら、私の存在に気づけるのも頷けるけど、これはルール違反ではなくて?


「興味ないわ。

貴女にとって、私たちなんて今回の事件のオマケなんでしょう? 誰に読まれるかもわからない、存在しない書物の物語の番外編じゃない。

さって――貴女のお名前は♪」

そういって、その手をライラの頭に翳し――


……鬼畜。


「あんたに言われたくないわ――それに物語を残す気がないなら、代わりに私が残してあげる。

これは、【反魂法】――ようは死者蘇生の一種よ、魂だけだけどぉ〜。

で、あなたライラって言うの? ……ふぅん――あ、私今、【物の記録アカシックレコード】読んでるだけだから。

まだ魂呼びきってませ〜〜〜ん。

……あ、来た来た来た――ほら、ライラの意識戻ってきたわよ。亡霊だけど」


――最低。


「……このまま私が話進めていいのかしら?」

沈黙が肯定っぽいから、私が起こったことを残してあげるわ。


瞳に光なし。ふふ、死体は死体よ――でも、魂はここに戻った。

それに、アカシックなんとか何て大法螺吹いたけど、ようはサイコメトリーなのよね。物の記録にゃ間違いないけど、一気に情報が飛び込んでくるから、素人にはお勧めしないわ。


「……アタシがわかる? 反応はいらないわ」

死人に口なし。

彼女に言葉はない――だが、記憶は刻ませてあげる。

私との出会いが――貴女のとびっきりの不幸でありますように♪


「何があったか、洗いざらい吐いて欲しいから、黄泉返らすわね」

背後から、ラックスたちがのそのそやってきたので、見せ付けるように私は舌を、少女の朽ちた泥肌に這わせ――


首筋に――ゆっくり歯を当て、貫く――





ご馳走様♪


〜〜〜〜〜〜


……ごめんなさい。最後は私のほうが聞くに堪えなくなって去ってしまった。

できることなら、最後の記録は皆の思い出から消し去ってもらって構わない。

特に彼女――あれは、物語をぶち壊しかねない。いや、勝手に介入してしまった私が告げる立場にはないのだが――アレはそういう存在であり、そういうものなのだ。

私が、こういう存在であるように――


一応、これが記された私なりの事実であり、話せる瑣末な事象である。

ザックスは――もしかしたら、アズリエルに私の存在を重ねていたのかもしれない。

歴史の真実――私から言わせれば、そんなものは存在しない。なぜなら、私はその無限の真実を、いくつも垣間見てきたのだから。

アズリエルの兄が乱入しなかった世界。血蓮公爵が現れなかった世界――ちゃっかりギルガメッシュ一人で解決してしまった世界。

ただ、私たち組織が選んだ歴史が、ただこれだっただけだ。


アズリエルを、私たちの組織に加えるために――

あの魔王と呼ばれた馬鹿の、もしものための代わりに置き換えるために――


「おぉ〜い、リナっちぃ〜。ご飯〜♪」

……でも今は、今だけは。


私もただの、家族としての、ぬくもりを感じていたい。

できれば、永遠に――



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