10『降参!』
【間章】
「実はあんとき、ぜんぜん焦ってなかっただろう? お前――」
10『降参!』
館崩壊の真の原因――それは、剣の暴走。
ギルガメッシュの新エクスカリバー(義手)もそうであるが、キャスティナの持つ、大型剣……性格には技巧剣には、無数の魔剣をつなぎ合わせて作られた、特殊な魔剣であり、一振りで魔力を放つものさえある。
そんな二人が、何を考えてか馬鹿な正面衝突を起こしたのだ。
「邪魔するな! アバズレッッッ」だとか「死ね、死ねばいい、死ぬと言い」と珍しく目を暗く落としたキャスティナが、大広間まで戻ってきて戦った際には、ルルダとチキンらが総勢で止めに入って、ようやく事が収まったと思いきや、屋根は抜けるわ壁は瓦礫に変わるわ――火の手は回るわ……
火の手――
この時点で、捜索は断念――再び脱出したのだが、新たな一団が、彼らを待ち構えていた。
新たな神殿騎士団。ただし、掲げる紋様がセラフィスたちと違っていた。
漆黒の鷹をあしらった、蒼い騎士団は――中央に歴史上の偉大な功績を残す人物を佇ませ、そこにいた。
ザックス・バーンフレア導師。
最高導師の登場に、まずセラフィスが負傷の状態のまま、あわてて前に出るが、
「セラフィス隊長か、ご苦労。負傷の身であろう、代わりに状況を説明できる者は?」
と、温和な笑みをたたえたまま、ローランが代わって現れる。
ギルガメッシュ旅団、アズリエル一行、そして……少女たちを失った片腕の青年一人。
「理解した。この近くはカルマ地方の町が近いか。そこまで同行しよう」
導師の言葉に、騎士団が一団となって列を作り、彼らを取り囲む。
「…………嗚呼」
その中で、アズリエル=ルルダだけが――違和感を覚え、そして悟る。
「そっか」
「……ん、どうした?」
「この匂い」
死者の匂いだわ――
〜〜〜〜〜〜〜
「これが、あんたらが後の真実を書類に残さなかった――いや、隠蔽した真実、だろう?
はっはっは、もう降参ってか?
? なんだ、それくらい、ばれてるとも感づいてたか、つまらねぇ」
場面は、酒場――彼らしか居ない場末どころではない、廃墟の酒場に戻る。
ラックス・ネヴァーエンドなる【真実屋】が語った顛末は、ローランとたちの出会った事実と合致する。
「そう、あんたたちはあの吸血鬼に狙われているんじゃない。
邪教団の真の教祖、あのザックスって爺に付け狙われてしまった訳だ。
隠蔽したのはあんたらの教団の混乱故、かな――さすがに最高導師を敵に回すのは骨が折れるレベルじゃない。向こうは最大の帝国の教団だしよ。
それにおい、騎士団を抜けたらしいな――クックック、あのセラフィスの坊ちゃんも泡食ってんだろうな」
「隊長は教会にお残りになった。残った父君と母君の真意を――確かめたいと」
「はっは、デュッカとスウィーか――あの夫婦もしたたかだからな。末端とはいえ、教会同士……なんらかの繋がりが会ったって不思議じゃない。その後の顛末も話そうか?」
「良い。あのあとアズリエルが一人暴れた。それで十分だ」
アズリエルの噂は話すこともあるまい。戦場をただ一人で血に沈める戦女神の話に過ぎない。
「たしかに――ふっふ、【Dシリーズ】の一人にして、錬金術を操る、妹――か」
「【Dシリーズ】?」
「嗚呼、あんたらが言う魔王の俗称を俺たちは【D】と呼んでな。その魔王を量産しようって言う短絡な計画さ。潰れたけどな。
彼女はその試作みたいなもんだ。生まれたのは事故だがよ」
「ったく、魔王ってのは、唯一にして無二だからこその【王】なんだよ」
ラックスは雄弁に語ると、彼らの望む本題に入る。
「あの後は、お前らが良く知ってるだろう。
彼女が気づいて、大暴れ――彼女、ルルダが暴れだしたらレメラでもキャスティナでも止められない。
錬金術は魔法の中の魔法だからな。無から有を生み、生を死へ変える最高峰の魔法だ。どこそかの一個に、隕石みたいな大穴空けたとかって話もあるぜ。
賞賛に値するのは、あんたらセラフィス騎士団にギルガメッシュ旅団を完全に見分けて、冷静に戦いきったって事だよな。
話を聞いてると、どうもアズリエル=ルルダってのは、まだ【雛形】っぽいからな」
「雛形、とは?」
「本家の大魔王はあんなレベルじゃねぇってことだ。生半可なことじゃ【殺してくれない】。
生き地獄って知ってるか? そんなでっかい要領の兵器を、扱いこなすことが困難だってことさ」
「……兵器」
「嗚呼、アズリエルと友達になりたいなら、まずはその大前提を抑えておきな。
友達には成れる。が、その前の境界線はしっかり敷いておけってことだ。自分と相手、自分と他人しかり。
自分と犬、自分と猫、自分と動物、自分と武器、自分と道具、その前提を忘れて同格と付き合うってのは愚の骨頂、単なるエゴからくる同情にすぎん」
そう言うと、ラックスはいったん足を組み替えて、
「あいつらはそのまま逃げ出したよ。ただそんだけ――色んな禍根を残したが、その処理は別の誰かがすんだろう。次の話で」
「次の話?」
「嗚呼、これはお前たちとは関係ない物語になるさ。忘れちゃいけない。
この物語を主に置くなら、主人公はお前たち、皆がある意味主人公だったが――」
物語の大筋は、彼女なんだぜ――
「さぁ、そろそろ終幕だ――帰った帰った」
「は?」
「御代は結構――さぁ、さっさと帰りな! ここで俺の物語りは終焉なんだよ。これ以上は俺の『物騙り』になっちまうだろう?」
「な、どういうことだ?」
「これからまだ起こっていない事象を、予想してツラツラ語るのは詐称ってもんだろう?
さっさと外の連中の後始末もしてくれ――こっちはいい迷惑だ」
と、蹴りだされたローランたちだが、荒廃した地に広がる、青の騎士団の姿に、全員が身を強張らせる。
……神殿騎士団。ガルフォニア式の甲殻鎧を纏った騎士団も混じっている。
帝国まで敵なのか……ローランたちに死が過ぎる。
物量的に、違いすぎた。
数で圧倒されている以上、そして神殿騎士と言う身分を捨てた以上、
自分たちを処分するのに、もはや後腐れはない。
「元神殿騎士、ローラント・ウォーケン。素直に出頭してもらおう」
中央の法衣と尖がり帽で顔を隠した導師が、一枚の書類を突きつけて、ローランに詰め寄る。
理由は、何とか導師暗殺容疑とか、おいおい――でっちあげるにも容疑がでかすぎるなぁ、このためだけに殺されたんならその導師も浮かばれなさ過ぎないか?
と、碌な宣誓もないまま、導師が手にしていた杖をローランに向け、紫電を……あら、即処刑ですか――
だけど、その電気を帯びた腕が――もぎ取られた。
「ッ!」
「……き、君は」
ローランが見開いた先には……
そう呟いた刹那――眼前に現れた少女は、またたくまに騎士団、帝国騎士たちを相手に暴れ狂う。
さらに追撃にと言うばかりに、あの真実屋がなにやら得物をもって現れ、乱闘に参加する。
手に装着したあの蟹の鋏のような得物、それがまたたくまに敵の首を砕く。
少女が片手で顔面を掴むと、みるみる人間が枯れていく――
人間業ではない、この一団――
さらにシャットの真横を、一人の長身の男が横切り――どこかで見たような、あの大型剣を振るい、次々と騎士団を肉の塊に変えていく。
そんな乱闘の最中、ふたたびラックスがローランたちの前に現れて、
「では、この舞台にお立ち頂き、まことにありがとうございます。
お帰りは屍の道先と成りますが、再び見えるなら、今度は仲間としてご協力いただければ、幸いでございます」
慇懃無礼な態度とともに、屍の帰り道に佇む、巨大剣の青年と、どこかで見たツインテールの少女……
「お前たち、何者なんだ」
「……俺たち? 魔王を退治するための勇者のチームさ」
Knights' stories continue.