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9『うぅん――』

【間章】


「嗚呼、あんときはちょっと愉快だったな――あんたの間抜け面、今でも覚えてるぜ」



9『うぅん――』


扉をいちいち蹴破るのは、扉に何か恨みでもあるのかと問われるくらい、大切な命題ではないだろうか。

少なくとも、扉の傍に陣取っていたキャスティナは、この騒がしい連中は好きになれそうにないな、と嘆息を小さく零す。


「陛下! ご無事でッッッ」

「……命令違反ぞ、チキン。我は何と命じた?」

「はっ! 『お前らは、この騎士団と小娘を町に送り届けよ』と申されました!」

「作用――何ゆえ舞い戻って来た?」


「よく、状況を見直しなよ、王様――」

とは、アズ兄――口に溜まったのか、血を丸ごと吐き出して、


「自分の言った言葉をもう一度繰り返しな――『この騎士団と、小娘』だったよな?」

「……なっ――」


ギルガメッシュ、再び乱入してきた一団を見渡す。

不良教会騎士団、ギルガメッシュ旅団、そしてあの片腕の男――だけ。


吸血鬼女と、アリスと呼ばれた少女の姿がない。


「くっくっく、おそらくあの拳銃持った子が、吸血少女を唆したのかな?」

「……おい、貴様は何者だ」

と、ようやく教会騎士団の一人、隊長格のローランがアズ兄に焦点を当てると――


「俺? 俺は今回は単なる傍観者だよ――アンタらが暴れてる裏側で、余計なもんを処分して――ぶぐふっ――」

「?……」


また、吐血。


「……兄、さん?」


ふと、零された――アズリエルの言葉に、誰もが注目する。

が――アズ兄は片手を振りかざし、


「……はっは、いや――そ〜だよな〜。そ〜なんだよなぁ――

血蓮公爵クリムゾン』に感染して、俺に感染しない話なんて、おかしいですよね?」


唐突に、空気を読まない謎の単語を吐き連ね――


「まさか――手前ぇ!」

突如、結界内に飛び込もうとした血塗れの人物に、誰もが息を呑んだが――結界が進入を阻む。


……筈が、拳を一発、叩きつけるだけで紅い結界はガラス細工のような音を立てて割れ、消滅する。


「お前も感染してやがったのか!」

「にゃっはっは――嘘つきは俺の十八番――ゲボハッ!」


ギルガメッシュとの間に割り込んで、無理やりアズ兄の胸倉を掴み上げる。


「……てかさ、俺に説教たれる前にやんなきゃならんことがあんじゃない?」

「嗚呼! 今更、俺に説教かよ!」

「馬鹿――俺の命も、お前の命もどうでもいいくらい、大切な子がいるんじゃねえのかよ?」


クリス――『血蓮公爵ちちとはは』の名を初めて呼ばれた怪人は、


「……(最後に、俺を殺していけ。この体は持ち主に返す)」

「……(あ? ……)」

「……(俺の力と技と経験――全部くれてやる)」


返す体で、血塗れの暗殺者の体を、地面に思いっきり叩きつけ――嫌な音が館内に響き渡り――


悲鳴を上げたのは、意外にもアズリエル=ルルダのものであった。



〜〜〜〜〜


「まだ生きてる! 早く治療、治癒魔術を!」

「救護班!」


前線にもはや出せなくなったセラフィスが、緊急看護班に加わる(むしろ、される側として)のは普通であり、そんな彼が、絶望的と思われていた暗殺者の体を調べ――


「気をつけて、ゾンビ感染する恐れがありますから」

「でも、唯一の情報を持っているかも――アズリエルとギルガメッシュは!」

「あの『クリムゾン』を追って、館内を徘徊中――嗚呼! 東館が爆発したそうです! って、火事!」

「あぁぁぁんの、馬鹿野郎どもぉぉぉぉぉ!」


大暴れする館内の最中、茫然自失と佇むルルダ=アズリエルに、もう一人のアズリエル、レメラ=アズリエルが寄り添い――

「……姉さん、大丈夫?」

「……違う」

「何が?」

「……あの死体、兄さんではない」

「そうね――何か変なのが、あの紅いのに移ったわ」

「――私の、見間違い、じゃない?」

「確かよ。だからキャス姉さんが追ってるのよ。姉さんのために――」



ギルガメッシュ、そして追撃しているアズリエルはキャスティナ=アズリエル。三姉妹の長姉にして大型剣の使い手。

金色の義手を振りかざし、館と言う館を組まなく破壊しては、その威力を確かめて――クリムゾンを探す。


逆にキャスティナは暴れはせず、館内を見渡し――鋭く一瞥してから改めて別の箇所を捜索していく。

広い館内だ。おそらく、全館を回る余裕はあるまい。

と、キャスティナの目の前に――紅い影が現れ――戦闘に入る。


致命傷を――狙ってはこない。


やはり、殺意がない――あのクリムゾンと暗殺者の一瞬の間――。

あれを聞き取れたのはごく少数だろう。傍に居たギルガメッシュ、そして――戦闘に最初から魅入っていた、キャスティナ


クリムゾンは逃げているのではない。

探しているのだ。

愛しい少女を、大切な少女を――


その証拠に、その目を見ればわかる。

妹と同じ目をしている。白く、芯のある黒い瞳。


そして会話から――おそらく、感染している。

何に? キャスティナももう少し教会の情報を仕入れていれば、理解できただろうが――何か病気を持っている程度で、それが命にかかわるのがわかる程度の空気は察した。

だから――捕らえる。


大剣を振るう――自分の身長くらいはある巨大な剣を、壁や柱などを問答無用に切り砕いて――


「そこかッ!」

だが、邪魔が入る。ギルガメッシュ――この馬鹿は何を考えて追い回してるかわからない。

多分、戦闘の邪魔をされたことと、アズ兄をあっさり崩したこと――何より、暴れたりないからだろう。

命の保障くらいはありそうだが、それ以外の保障がなさそうだ。


最悪、ギルガメッシュの体に『アズ兄』が乗り移ることも考慮する。


キャスティナが気づいたのではない。

レメラが、一瞬で見抜いたのだ。


「……姉さん、あれ――兄さんじゃない。兄さんの【化神】」

「化身?」

「化神――精神だけ飛ばしてる感じ。あの肉体は、兄さんのじゃないから、制御できてない――でも――」



かなり頑丈な体を持ったりすれば――



〜〜〜〜〜


アズリエルの長身の方と、ギルガメッシュが何故か同士合いを始めたので、クリスはその場を離脱。

だが――焦る心は落ち着かない。


そして、自分の身に宿ったはずの、アズリエルの兄の声も、もう届いてこない。

ただ、ウチに溢れる確かな力が――無駄に滾っているだけである。


魔力か何か知らないが、クリスには門外漢――多分一切使えない。

ただ、お荷物を背負い込んだだけのようで、正直何の役にも立たない。


熱い――なんでさっさと逃げないんだよ。アリス――


「……クリス、何処に行ったのかしら?」

「だから、無駄だと言っている――せいぜい、死体確認くら……い」


「だから、何で――さっさと――!」


脱出した、あの地下室の入り口の向こうで――



血塗れのクリスは、純白のアリスと再び巡り合った。


「クリスッ! 良かった……」

「……アリス」


その横で、呆然と座り込む……吸血鬼の娘、ライラ。


「……お、お前が――友達、だと?」

「そうよ、私の素敵なお友達」

「……ば、化け物だろう」

吸血鬼おまえが言うかよ」


吐き捨てたクリスだが、まんざらでもないな、と。

なるほど、あの馬鹿野郎はこんな心地で、この暴言を聞き捨てていたのか。


「さぁ、脱出しましょう」

とのんきに答えるアリスだが、クリスはただ立ち尽くしたまま。


思い返して、後が――なくなっていた。


アズリエルの兄を、実質殺したと思われ――

その姉に追われ、次にあの馬鹿王が狙っている。


その後、あの教会騎士団も事情を聞きだすだろう。

アリスはそれでいい。だが自分は……父と母の過去がある。


故郷は、どうなってしまうのだろう。


このまま、素直に投降すればいいのだが――

何故だろう、信じてもらえない気がする。そう――この『男』のせいで。


「クリス、どうしたの?」

「行け……私はもういい」


と、アリスの足元で、ずっともたれ掛かっていたライラはふと、その場に崩れた。


「……お迎えの時間だ。私の時間はここまでさ」

「ライラ、さん――」

「ふん、小娘――あんたの勝ちだよ。あんたは友達を信じた。私は兄に絶望してしまった。それだけよ」


そう言いながら、吸血鬼の娘は――瞳を閉じた。


「……ライラ」

「行こう。……『僕』らでは、どうすることもできない」


……落着いて、よく考えて――

そして、脱出することを選んだ。




地下への入り口が塞がっていた。



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