8『アレ? ちょっとまって?』+【間章】
半年以上放置して申し訳ないです。はいOTL
風邪引いて時間がだいぶ空いたこの時間を使って、書き溜めてた、Mixiにあげてた小説を、一話一話ずつあげております。それでは――終章までお付き合いくださいませ――
【間章】 間違った物語
――クリスの実家村――
「……んな事件に巻き込まれちまって、その村のアイドルさんは逝ってしまったと」
抑揚無く語る青年は、その場にもっとも相応しくない存在であった。
酒場、一日の労働の締めを飾る場所。
日ごろの労いを癒す場所……
なのに、その男は――
全身、黒衣のコート。
何の労働とも付かない、何の癒しを求めてきたというわけでもない。
漆黒――暗黒――絶黒。
ただ怪しい……以外の何者でもない。
「……で、お客さん。与太話はいいから、注文しな」
対応するのは、蓮っ葉な物言いの――気丈な娘。
年の頃はニ十代を超えたころだろうか、華奢だが綺麗なストロベリィブロンドを靡かせた、可愛らしい娘である。
いや、目つきや物言いが鋭く、可愛いというよりは格好いいと表現するかもしれない。
年頃の同い娘なら、その立ち居を賞賛するであろう。
男は適当に料理を注文すると、娘はメモを客に突きつけて、厨房にメニューを伝える。
酒場なのに、全部小料理である。
店員の娘は、その横にドカリと座った。
「で、客」
「なんだい、女中」
「……女中かよ、あんまり使わない言い回しだな」
「うっさい、メイドとでも呼べばよかったのか」
「……この衣装はメイドに見えないな」
娘はそう言うと、前掛けエプロンをひらひらさせて、その下のズボンをひらめかす。
「あんまそういうコトすんな」
「うっさい、普段はしてねぇ――店長にしかられる」
小料理が届いてから、女中もナイフを一本奪い、料理に突き刺し――
「さぁ、語ってくれよ。時の止まった物語の裏側をさぁ――」
「嗚呼、始めようか――もっとも、物語の断片でしかない。誰が、何を、どうしたか――それを全て知ってはいない。
俺はある登場人物一点の視点でしか覚えていない」
8『アレ? ちょっと待って?』
「待ちかねたぜ」
そう告げる紅い影――
「……私は、待ちかねられた、とでも返すべきなのか?」
「兄妹揃って、屁理屈が好きだな」
嘆息する影は……若い。
年若いだけではなく、体つきも幼い――まだ十代半ば。
いや、もはや居姿を確認するまでも無い。
クリストファー・エリス・ローラント。
片腕の男とアリスと共にやってきた少女……
放たれる、腐敗の気配……
「ん?」
「嗚呼、粗方片付けたつもりだが……肉片一個でも再生し始めるのか? これ」
足元に散乱する、紅……肉色、破片、異臭。
もはや物言わぬ、動かぬ塊だが――それを集めた塊が、紅い影の向こうで――
破裂した。
それは、一段と明るい紅で、すべてを焼き尽くす。
アズリエル=ルルダの視線は、ずっと紅の影に。手元で踊る筒状の何か――
簡易な爆薬だろう。何かの施設だったら、そういった薬品か、もしくは酒瓶一本あれば、容易に作れる。
「燃やしてしまえば、十分だと思う」
「と、アンタの兄貴分にも言われたさ。嗚呼、あいつはさっさと消えちまったぞ」
「……どうして」
思わず、語気が……鋭く、細く、……なる。
「アイツ、キチンだからだろう?」
「……正直に話して貰えないか?」
「別にアンタをはぐらかそうって魂胆はねぇよ。
ただ、本当に逃げやがったんだ。俺は別にアンタにあいつを突き出す分にはやぶさかじゃねえ」
「ならば、彼は今何処に?」
すると、紅い影は嘆息しながら、
「教える代わりに、頼みごとをしていいか?」
「何?」
「……俺の体がアンデッド化してるのって、気づいている?」
「そうか、この気配はおまえ自身か……」
「ん、その――何も考えずに手当たり次第ぶっ壊してたから、血液感染しちまったらしいんだ」
「ほぉ」
「兄……アンタの兄さんはアンタなら解毒ができるって言ってたんだ」
「できん」
「そう、できん……なぬ?」
即答――紅い影の表情が……一瞬で崩れた。
面白い顔するな、とアズリエル。
「だいたい、私は医者ではない。分類するなら錬金術師――物質変異使いだ」
「……ガセか? アンタならできるって、言われたんだが」
紅は困惑したまま、アズリエルに問いかけるが、アズリエルは……ふと、理解した。
この方法なら、確かに彼女の感染を解く事はできる。
できる……が――
「もう一度、兄に聞いてみるか?」
「……本当にできないんだな?」
「嗚呼、わからない」
「……」
そして、紅……クリスは、嘘をついていると見抜いた。
「……まぁ、そう簡単に治してはくれないか」
と返し――アズリエルは眉をひそめる。――見抜かれた。
「んじゃ、アイツには悪いけど、あんたに会わせる為に捕まえに行くか」
「……そう、か」
「嗚呼――だけど、一つだけ」
紅はそして、一つだけ釘を刺した。
「兄貴を見付けたとしても、狂うなよ」
「……狂う? 私が――」
「何でアンタが兄貴とやらに固執しているかとか、そんだけ追い求めているかなんて、俺の中では関係ない。
俺はただ、さっさと体治して家に帰りたいんだ。それだけ済ませたら、さっさとおさらばだ。
嗚呼、治療費代わりに少し手伝えって言うなら、義理分ぐらいは動いてやる。あ、エッチィのは却下で」
「え、エッチィ? ……の?」
今度は、アズリエルが頬を赤らめた。
……意外に可愛い反応するんだな、とクリス。
「……アイツから変な影響、受けすぎたかな」
「なっ、あ、兄貴――兄さんとどんな会話をッ!」
「へ? 別に、単なる世間話とちょっとしたセクハラ発言と、セクハラ返しと……後、アイツ、童貞らしいぞ」
「ちょっ! な、何て破廉恥な。――な、何が私がエロ子よ、……姉さん。私なんか足元にも及ばないじゃない」
「…………アンタさ、兄貴探したいんじゃないのかよ」
「はっ! ……えっと、その……うん」
……変な女。
そして、階上から轟音――
「……んじゃ、馬鹿兄貴を追いかけるぜ、変態女」
「なっ! 何で変態女なのよ! ちょっと――」
〜〜〜〜〜〜
――大広間――
【女人禁制】
「?」
乗り込んだアズリエル・キャスティナ……ルルダの姉と、ギルガメッシュ王の前に現れた、巨大な文字。
踏み込んだギルガメッシュは、魔方陣の中へ入れたが、キャスティナはその手前で静止し、大広間の奥――奥への扉を陣取る人物を見据える。
「ウェルカム」
暗殺者カエン、と言う人物。
中身は――逃亡者カエンの姿を借りた――漆黒の化物。
「何者だ? 我が前ぞ、名を名乗れ――」
「山田太郎」
「そうか、山田太郎か……では、死ぬが良い」
「では、アナタは逝きるがいい」
馬鹿な会話を無視し、突貫――だが山田太郎、では無くカエンの姿を持つ、アズリエルの兄は――
「ぬっ」とギルガメッシュが目を見開く。
両腕を広げて、出迎えた。
無数の刃と共に。
「この死塗られた戦場を、生き抜いて見せてよ」
「……貴様」
浮遊する幾つ物刀剣類、あらゆる刃物の造形、種類、千差万別。
これは先の戦いで、アズリエルが放った武器形成の技そのもの。
「まぁ、俺の方が劣化版だから、彼女の創生には程遠いけどな」
無数の刃の弾丸が放たれるが、ギルガメッシュは自分に降り注ぐ得物のみを判別し、左指先で一本を挟むと、手首を返し、残りの刃をその剣ですべて弾き返す。
「ふん、たいした芸だ。アズリエルの下僕か何かか?」
「下僕だったらなんぼかマシだったかもな」
「……なんぼ?」
「嗚呼、俺の地方の方言な。あんま気にせんといて」
ケラケラと小気味よく笑う男。
「疑問。お前、何者だ?」
後方に構えたキャスティナに、男……カエンの皮を被ったアズリエルの兄は、
「……何者かと問われたとき、俺はいつだってこう思う。
嗚呼、俺って本当、何者なんだろう?
テンションによっては、俺、何様のつもりなんだろうとか、自分、何奢っちゃってるの? とか――まぁ、ようは俺は調子のりって言いたいんだが」
「愚答。答えになっていない。いや、何となくわかるが――わかるが、ならば核心を問おう。
貴様、ルルダの兄上なのか?」
それは間をおくことなく告げられた。
「Yes。ルルダ=アズリエルか……いや、名前を変換するとそうか。確かにルルダになるな。
始まりの文字を組み込んだか……。
あ、でも本体は絶賛封印中。いやなんでかは秘密ね。まぁ、亡霊か生霊みたいなもんと思っておくれ」
「……生霊、だと? それでこのレベルか」
キャスティナは魔方陣の結界を蹴り飛ばし、光の反射を生む。
「嗚呼、さすがにお姉ちゃん相手にゃ、手ぇ出すと後が怖いから」
「後が?」
「色々隠し設定があるんだよ」
茶化した様子のアズリエル兄なのだが、【女人禁止】結界は確かなようで、ギルガメッシュは先ほどの剣雨を交わす際に、結界に入り込んだのだが、彼女はその結界の中すら入れなかった。
いや、さらに言うならその結界の中でしか、剣は存在できなかった。
「……紅世の夜――ダチのネタだが借りさせてもらう。この結界内なら、だいたい全力出せるわな」
魔方陣の内側からほとばしる、紅色の世界――まるでその中だけが赤い空気でも満ち満ちているかのように、薄赤く、ほの赤く、それでいて――熱い。
「全力か――ならば、文句はあるまい」
「おぅ?」
「全力で向かって潰されたなら、文句はないと言っておる。聞こえたかタワケ?」
台詞の終わるころには、ギルガメッシュの巨腕が、アズ兄の顔面に押し迫っており、紙一重で交わしたタイミングで、ようやく無数の刃がギルガメッシュに届くはずが――
「遅いな」
一払い、しかも足で伝説の武器たちを蹴り飛ばして、再び追撃の左を叩き込んでくる。
作法も武術も何もない、単純な一撃が――(やっべ、死ねる!)背筋が凍るほど、恐ろしい。
そして、地面を一撃で抉りとるあたり、その直感は正しいと証明される。
「うっひゃあ、規格外を舐めたらあかんな。単純な一撃ほど怖いものもねぇってパターン?」
「ほぉ、余裕だな――褒めてやろう」
「キツキツだよ!」
ただ、隻腕というのがアズ兄の回避に一役買っている。ワンテンポ、ただそれだけが生き残る抜け道となっている。
無数の刃の雨、蹴り返す、迎撃。――無数の雨。
この間がなければ、迎撃が何度か繰り出され、アズ兄の――カエンの体は一瞬でひき肉になっているだろう。比喩ではない。
「……づあぁぁぁ! 『炎の民よ、踊れ!』」
ギリギリ――だったのは事実。故に、その紙一重が重なった瞬間――恐怖にゆれたアズ兄が打って出る。
ギルガメッシュに纏わりつく、新たなる赤――火炎魔術。
(短詠唱かッ! ――ッッッ)
間合いを敷いて離れたギルガメッシュだが、その一瞬を刃は逃さない。
崩れた体制を狙って、生み出された無数の刃が――いっせいにギルガメッシュを貫かんとして、
「……おい、相棒――いつまで眠っておる」
ギルガメッシュは低く唸る。
「貴様の主は誰ぞ?」
『っせぇ〜な! ダァホ! 黙って死んでりゃ後で助けてたっての!』
「……うげぇ」
アズ兄の視線の先に――アズリエル:ルルダが立ち尽くしていた。
同時に――無数の剣閃を飲み込むまばゆい光とともに、ギルガメッシュに向かって一筋の刃が――鉄拳の形となって現れて、
「お――ラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ
オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ
オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ
オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ……
ブルヲアァァァァ!」
刃はすべて砕け、結界までも砕け、すべてが砕けちった――
呆然と立ち尽くすアズ兄に――
銀色の義手をまとったギルガメッシュが立ち尽くす。
「ほぉ――中々いい形になって帰ってきたではないか、相棒」
『っさい! 誰のせいで形状変更したと思ってんだ』
鉄色に反射する義手が、ギルガメッシュの意思によって閉じ、開かれ、その繋がりを確かなものとする。
指の間接細部にわたるまで、確かな動きに――
「……ちょ、あの妹。あんな器用なモンまで作れるのか?」
「作用。私の愛剣も、妹――そこのルルダが作ってくれたのだ」
と、自慢の妹を紹介するように――キャスティナは、今しがた現れたルルダ、そしてその傍に現れた紅い怪人を見据え――
「……」
「……」
ルルダと、アズ兄の間で――時間が止まる。
のを、ぶっ壊す巨大な破壊音――
『国王陛下ぁぁぁぁぁ!!』