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6『ちょい休憩』

辻褄合わせのために、前作の一部を削除いたしました

OTL

なんか、格好悪いなぁ――


あと、百物語も並列で進行しておりますので、執筆速度が、極端に低下する模様……

6『ちょい休憩』

 

「ん? 久しいな、娘」

「アンタだって娘じゃないか。……久しぶり」

「そうだな。前よりは良い面構えになっている。……少し、安心した」

「へぇ、アンタ見たいな化け物でも、不安とかあるのか……つくづく、らしくないな」 

「それは大きな誤解だな。私だって、単なる小娘だ。噂や誇張が、事実を捻じ曲げているに過ぎん」

「はん、どうだか――」

「……あの、お二人はお知り合い?」

 

 おずおずと、吸血鬼、魔蝶の女の間に割り込んでみる、物語の一般人――アリス。

 

「廃墟で……」

「兄を見殺しにした女だ」

 

「客観的判断だが、アレは君の兄が悪い」

「それでも、兄は兄だ」

 それだけは、変われない事実だと、ライラは言う。

「でも死んだ」

「嗚呼、殺した奴が憎い」

「客観的に観察しても、どちらに非があるか」

「善悪の問題じゃない。私の意志だ」 

 決して譲れない、とその蒼は語る。 

 

「……まだ戻れたかもしれないのに」

「前も後ろも、私にはもう何も無いさ」

 言い放った蒼は、邪魔するなとアリスの腕を掴んで、その場を行こうとする――のを、

 

「二つだけ教えておこう。お前の兄を滅ぼしたのは、間違いなくあの白髪の少年だ」

 アズリエルの言葉に、ライラはただ……「そう」と小さく反応するだけ。

 そして、もう一つ――

「待て――私の目的は、【少女アリス】なのだよ」

 

 ライラの背を、アズリエルの腕が一閃する。

 

 

 〜〜〜

 

「で、何のつもりなんだよ」

「……ふへぇ?」

 

 今だ荒縄でがらん締めにされているアズリエルの兄上は、目覚めた。

 ……この状態で寝ていやがった。

 

「……ちょと不思議だな、おい。

俺はあずあずの夢の化身じゃなかったっけ?

なのに眠くなるってなんだろうね? 疲労かね?」

「知るか……さっさと縄抜けろ」

 

 と、見下して言うクリスだが。

 もぞもぞと蠢くアズ兄をしばし眺めてから、

「まさか、抜けないのか?」

「この姿を見て、抜け出せないと気づけないなら、君は相当の馬鹿だ」

 

 ……馬鹿にされてしまった。

 

「なんで、自分から縛れって言ったんだよ」

「そっちの方がライラっちも安心すっだろう?

さすがに両手足封じた程度では、気は抜かなかったけど、ちょうどいい具合には冷静になったっしょ」

「たった、それだけのために?」

「逆切れされてアリスちゃん殺されたらたまらんだろう?

いや、どこかのベッドの下に隠れてらした紅い少女が飛び出して、ライラを倒しちゃって、

アリスっちに正直に全部白状しちゃってたら、あっさり物事は解決してたんだがな?」

 

 ……沈黙。

 そういえば、何で俺、アリスに黙ってるんだ?

 

「ま、あっさり解決できない事態なんだがな」

「……今、なんつった?」

「ちょい休憩」

「ちげぇよ。今、何かロクでもないこと、言わなかったか?」

「だから、考え中なんで一旦休憩。

考えてる事柄について言うなら、

クリスに絶賛感染中のゾンビーウィルス。

ライラっちの復讐の成否、の結末が気になる。

さらにはアズリエルへの対応。そして俺自身の結末」

「嗚呼、確かそんな設定もあったな。俺、ゾンビになるのか?」

「知るか。最悪設定なら、放置してたらしだいに腐って紅いゾンビ少女の完成ってとこか。

最善設定でも、死んだ後ゾンビになるか。

あ、裏技で俺が秘術使って、クリスを意思持つゾンビに変えるってのもあり。正式名称リッチ。

あれ、なんで不死王リッチっつうんだろうな?」

「それこそ知るか。で、期待に満ちた眼差しやめろ! 俺を化け物にして何が楽しいんだ!」

「友達増える」

「腐ったダチなんか作ってんじゃねぇよ! 普通の友達作れよ!」

「普通なダチは早死にしちまうんでね」

「格好つけて言うな! むしろ危ねぇよ、その台詞!」

 

 一頻ひとしきり突っ込んでから、嗚呼、何か突っ込むのも慣れてきたなと感慨深げに思っていると、

「やっぱ、あずあずがキーかぁ」

 荒縄が肌に食い込んで痒いのか、時折ごろごろ転がって、辺りにぶつかりまくっている。

 

「あん? あの女……お前の妹かよ」

「ん……あの娘なら、多分、血清ならぬ、解毒法を一目で見抜ける、……はず」

「その沈黙の間はなんだ?」

「んあ、本調子の俺ならできるって太鼓判押せるんだが、今の俺では完全に不可能。素材が悪すぎる」

「素材?」

「こっちの話、まぁ良い悪いの話じゃないんだけどね……こうなったら、正攻法でいくか」

「正攻法?」

「ん、あんまりってか常套手段で忘れがちだが、あっさり終えられる方法」

「どんな手段さ」

「アズリエルに直接会って、解毒頼むの」

 

 本当に至極真っ当な答えが出てきた。

 

「だけど、その場合、ここで俺とお別れだ」

「は?」

「俺は、アズリエルに会っちゃいけない」

「……どういうことだ?」

「おいおい、俺の初期目的を忘れないでおくれよ。俺はアズリエルを守りに来たんだぜ?

だがな、アズリエルの行動を鑑みて、一つ気になる点がないか? いや、傍目は気づかないが、よぉく考えてみそ」

 

 ……味噌?

 

「……あの、王妃戦か?」

「ビンゴ。あの白髪小僧が戦闘を回避する手段を提示しながら、アズはあえてギルガメッシュに喧嘩を売った。

何故か? 違う、本当はエンキドゥを始末したかったんだ。いや、あの場で一番危ない奴を排除したってところか」

 殺し切っていないってのが、超越激甘ちゃんだけどね、と、奴はシニカルに笑った。

 

「あいつは、家族を傷つけられるのを極端に恐れている、けどな。それはどうでもいい。

裏事情を知っている俺は、その家族愛の裏側――歪んだ愛情面について、こう推察する」

「言って見ろ、鼻で笑ってやる」

「アズリエルことルルダは、俺……奴の実兄であるこの××××に出会った瞬間、人間を止めてしまう」

「……」

 結論過ぎて笑う瞬間を逃した。

 

「あいつは、俺を探すのに積極的過ぎる。まだ出会ったことすらない俺だぜ?

どんな性格で、どんな人格者で、どんな変態かも知れない、この俺を……」

「……はぁ、で、お前はなんて考えるんだ?」

「それは自分で考えな。とりあえず、俺の固執しすぎている。

出会った瞬間に、あいつは目的も行動もすべて、俺に向けるだろう。

何するかまで大体予想はしてるが、好展開に進むことはまずありえない」

「ほぉ」

「俺もあいつも、エゴイストだからな。自己を優先する。最悪、俺とアイツが戦闘に突入した場合、俺に勝ち目は無い」

「勝てないのかよ」

「今はな。っつか、妹を殺す兄が存在すると思うのか?」

「いるだろう」

「ならば答える。俺に姉妹を殺す勇気も度胸も倫理も覚悟も無い。妹ならなおさらだ」

「なんで?」

「……殺すのに飽きた」

「何人妹がいるんだよ」

「今現在、アズ含めたら、三人? アイツが妹に値するかどうかだが――どっちかってぇと双子だし。

で、妹に近い存在だったらあと一人、遠い実家に二〜三人」

「大家族だな」

「孤児院みたいな感じだからな。って家族自慢は御終い!」

「妹殺しが家族自慢かよ」

「ごめんなさい。妹モドキに訂正させてください。うん、まだ家族に手を出してはいないはず……」

「家族にって、近親そうか……」

「嗚呼嗚呼! クリスちゃんも耳年増だなぁ! チャック、口チャァァァァック!」

 

 ……なんか、からかい甲斐があるな、アズリエルの兄君。

 

「とりあえず、アズリエルと俺は出会えないのはわかった?」

「わかった。お前が妹を襲うと言うのを、理性で阻止しようと、人間の端くれの隅っこ、最後の最後の一角を死守しようと」

「お前ぇ俺に毒されたんじゃねぇのか! 手前ぇの命危ねぇってのに、何ボケてくれちゃってんの!

お前のこと考えてんのに、なんですか! 考えている俺って阿呆ですか! 間抜けですか! 実は大正解だ怒畜生!」

 

「変に自覚してるから、ワケわかんないな、お前」

 肩で息をして、荒縄(どうも深く食い込んでなおさら抜けなくなった模様)でもがきながら項垂れるアズ兄に、

「うるさい、性分だ。

人格を分割しないとやってられないネタがあったからな。自然と意識的多重人格になっちまったんだ」

「へぇ、アンタも苦労したんだな」

「話進まねぇから! 次の懸念事項……くぅ、これもあったんだな。ライラっちのこと」

「あいつが死ぬだけじゃねぇのか? 場合によってはあの白髪小僧」

「その場合ってのは多分、ねぇな」

「……なんで」

「アリスちゃん。あの子がヤヴァイ」

「アリスが何で?」

「アリスっち、アズの作った拳銃持ってやがった。

クリス、こんなT字の不思議な形状、アリスっちの懐にあったの気づかなかった?」

「……――ッッ!」

 

 あぁんの、馬鹿。

 

「まぁ、平気だと思うけど」

「どうして!」

「あの片腕のおじちゃんと、多分、あそこで拗ねてる王様が動くだろうさ。それに」

「それに?」

「小気味いい相槌打ってくれるな、話甲斐があるなぁ。なに、激甘の妹が手を打つだろう」

「他人任せかよ」

「違うね、予測だよ。皆の性格上――殺し損なったあの王妃を、アズリエルが利用すると思うしさ」

 

 

 〜〜〜

 

 ――ちっくしいん!

 ……意外に可愛らしい『くしゃみ』の音が、廊下に響いた。

 

「ずずぅ……。んじゃ、健闘を祈る。としか言えん」

 背中を衝かれ、床に落ちたライラだが、すぐに異変に気づき、立ち上がると、

「何をした」と問う。

「魔力の澱みを落とした。お前、発散方法を知らなさすぎる。

もっとも、超過魔力に加えて、死者を喰らわないと生きていけない、吸血鬼一族。最悪の悪循環だがな」

 魔力異常飽和オーバー・キャパシティ、と死者からの魔力供給による、蓄積のみの悪循環。

 

「……何がしたい」

「無様に死ぬな。成り行きとはいえ助けた命が、むざむざ死にに行かすのは夢見が悪い。

だがま、せいぜい生存率が少し増えただけだが、過信はするな」

「生き残る気は無い」

「ならば、生き続けることがお前の罪で、贖罪だ。勝手に死ぬな。

嗚呼、もう一つ理由があった。そこの娘と親父、絶対に殺すな」

「……何?」

「妹との約束でね。三人を無事連れ出してくれと頼まれたんだ。お前が殺すとは思えんが、一応頼む」

「私が? 何で!」

「大切なものがなくなる悲しみを誰よりも深く理解しているから、じゃ駄目か?」

「悲しんだ覚えは無い。絶望はしたがな」

「……そうか」

 残念だ。と、小さく頷いて、

「では、ここで私と雌雄をわかつ訳だが、どうする?」


「……な、にぃ」

「優先順位の問題。私とて万能ではないのでね。妹の涙と、お前の復讐なら、妹の涙のほうが重い。

その二人を取り返すために、ここでお前を殺す」

 その手が――ライラに伸びようとして、

「止めてください!」

 アリスが、割った。

 二人の間に立ちはだかり、

「……止めてください、レムのお姉さん」

「なぜ? お前を殺そうとしている奴よ」

「大切な人を、殺される苦しみが、判らない(・・・・)から」

 

 もし、クリスが死んで?

 おじ様が死んで?

 お父さんが死んだら? 私はどうなる?

 

「判らない。判らないけど、彼女を止めてしまうのは、違う気がする」

「私もそう思う」

 アズリエルは素直に同意した。

 

「復讐、と言うよりは決着、と言うほうが心情的には綺麗な表現だろう。

だが、アリス……」

「彼女が命を賭けているのに、私の命が賭けられないのはどうして?」

「君は、被害者だ」

「彼女も被害者なのでしょう?」

 

 ……アズリエルは、困惑、いや素直に不気味に思った。

 何なんだ、この小娘は?

 他者の立場になって考えると言う話ではない。もはやその他者に依存しているに近い。

 

「……お前、気持ち悪い」

 ライラは、素直に吐き捨てると――アズリエルの横を抜け、

「気持ち悪い、気持ち悪すぎる」

 

 不気味な沈黙の後、寡黙な騎士は、

「売り言葉に買い言葉」

 とだけ残し、アリスの手を引いて、ライラに従っていった。

 

「もう、ついてくるな。気持ち悪い、去れ」

「では、せめて裏口でも教えてもらいたい」

「そんなもの、アイツの兄貴・・にでも教えてもらえ」

 

 それは、封印を解き放つ火種。

 そして、引鉄となる――

「アイツ、の兄貴?」

「嗚呼、貴様の兄貴を名乗る化け物が――」

 

 そして、歯車が狂いだす。

 

「詳しく話せ」

 

 

 〜〜邪教団‐地下大聖堂〜〜

 

(……嗚呼、初仕事と言うか、初殺人ってところか)

 大した感慨も、……無く、クリスは茫洋と、元人間だった塊たちを見据えて、一人心地る。

 

 とりあえず、部屋中の解毒法を漁ろうとして、その解法が魔術に関連があると言う記述に、半ば絶望が込みあがってきた。 

 やはり、アズリエルに頼るほか無いのか。

 

 ピチャリ、ピチャリ……

 

 この『血』……この血こそが、その『呪い』――ゾンビ化の媒体らしいのを、荒縄のアズ兄の翻訳から読解。

 次に邪教団の面子に交渉しようと、まずは手軽く暗殺を試みたら、つい……全員殺してしまった。

 

「ついってなんだよ、ついって、僕……」

 思わず、平穏な村の好少年、クリスに戻ってしまう。

 

『そんだけゾンビーズの血を浴びてるんだ。感染していない線は絶望しな。

腐敗臭とかじゃねえ、なんかそういうヤバ目の気配ってのが、すでにお前から放たれてんだよ』

 とは、アズ兄の弁。

 

 で、肝心なゾンビ製作者に訊ねるのが、最短の筈なのに、

「これだし」

「……が、ががが」

「あ、生きてた」

 

 ラッキーなんて言いながら、そそくさと生存者にむかう。

 ナイフ四連閃。たんに指の間に挟んだナイフを、爪に見立てて切り刻んだだけ――ナイフ術にそんなものがあるか、クリスには不明だが、相手を即死させる気はまったくなかった。

 手早く二〜三人、さっさと殺して、脅迫に使おうと思ったら、呪文が聞こえてきたので、真っ先にその……

 あそっか、何か変な魔法でも唱えられたら、マジやばかったしね。うん。

 

 自分で自分を納得させつつ、唯一? 生存したっぽい奴の顔に近づく。

 

「大丈夫?」

 殊更優しく訊ねると、

「が、がばぁっ! ……ま、前が見えん。お、お前は……誰だ」

 もうなんか手遅れっぽいです。

「心配するな、傷は治る」

 クリスは少女ですから、嘘だってつきます。

「ほ、本……当かぁ」

「嗚呼、だがゾンビ化の恐れがある、血清が何処にあるかわかるか?」

 腹黒いです。さすがは暗殺者と将軍の娘。

「ぞ、ゾンビ化? 血清? な、なんのことだ!」

「……ぁ?」

「どうも、おっさんらも噛ませ犬っぽいな」

 と、荒縄から脱出に成功したのか、アズ兄がひょっこり顔を出す。

 ……いや、まだ蓑虫の状態だった。


「お前も、感染したんじゃないのか?」

「いや、お前みたいに真っ赤になる気は無いから」

 赤は俺のトレードマークだったんだが、今回は譲ってやる、だそうな。

 

 たしかに、器用に死体や鮮血から外れたコースを進んでいれば……確かに時間はかかるが、チャレンジブルな精神である。

 

「血清は、ない?」

「作るにも時間かかるし。神殿騎士団がゾンビ用の解毒を持っていることに期待するか。成分がわからない以上……ん?」

 ふと、クリスとアズ兄は、同時に――天井を、階上を見上げた。

 

 ロビーで激しい馬鹿騒バッカーノぎが始まっていた。

 


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