序章:情報屋
前作品
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【幻想魔蝶 異端録-魔蝶の女-】をお読みいただければ、
よりいっそう、お楽しみいただけると思います。
荒んだ室内に、生活感の失われた酒場に、不慣れな一団が訪れる。
白い一行がその酒場に踏み入った瞬間、「いらっしゃい」と投げやりながらの声が届く。
「……アナタが、情報屋」
「情報屋、ねぇ――下手な小説じゃあるまいし。別に情報一個で世界ががらりとかわるものかね」
情報屋としてはあるまじき発言に、やってきた一団、いや「客」たちはいぶかしむ。
無礼儀にもカウンターの奥で椅子に座り、足を投げ出してカウンターで足を組む。典型的な不精な姿。
「アンタたちはさ、情報を何か勘違いしてないか? 情報っていうのはさ、結局【言葉】なんだよな?
人の様子とか状態とか、そう【曖昧なもの】を、【言葉】と言う伝達手段に変換して、相手に伝える。
ただ、それだけなんだぜ?
それだけに、命の次の次のそのまた次くらいに大切なお金を置いて、聞いて帰るって――
阿呆らしくないか?」
小ばかにした男の態度に、巨漢の青年が前に出て――カウンターに立つ。
「我々が知りたいのは、アズリエルの消息、その後についてなのだ。情報屋、が間違いなら訂正しよう。
【真実屋】のラックス」
「それこそ【曖昧】だ。曖昧中の曖昧ちゃん、【真実】とは、観測者の前ではすべて、異なる。
お兄ちゃん、お前には俺が【何色】に見える」
問われて、巨漢の青年――ローラントは青年の不精な様相を再び一瞥する。
まるで洗濯されていない、襤褸切れのようなバンダナに、使い古されたベスト――どちらも、まだ紅い彩りを放ってはいる。
「……赤だ」
「素直な答えだ。
だからこそ、理解できないし、理解されないし、理解できないし、理解しなくても良い。
だいたい、当事者だったら俺よりリアルにその場の事実を体験してる筈だろう――」
不意に一団から、挙手。黄色い声が上がる。
「はいは〜〜〜い! 僕、黄色に見えるよ〜」
「そりゃお前の脳みその色だ。猫目の騎士さん――
そういえば、そっか……君らは確か、一旦はぐれたんだっけ?
だから、ギルガメッシュ旅団とセラフィスの顛末、そして片腕の将軍の正体もわからないと――」
沈黙は肯定と看做される。
「……じゃ、改めて話をすらっと通そう。
・三つの集団が、ある館に集って、そこでゾンビ軍団に襲われた。
・だがその館には、すでに二つのグループが存在していた。
・一つは【邪教団】。この世界を滅ぼそうって思想かどうかはしらないが、邪悪な思想をよしとする集団。
・もう一つ、それが【アズリエル】。
嗚呼、俺たちは【三姉妹】を揃えて【アズリエル】と呼んでいる。
・【邪教団】の目的は、アズリエルの確保。なぜかの理由は不明。
・続いて、【アズリエル】たちの目的は、あての無い流浪の旅路。
まるで狙ったかのように、現れた君ら三グループと、邪教団のゾンビが鉢合わせ――
さらにアズリエルの中核、ルルダ=アズリエルまで巻き込んで、結果的にアズリエルは離脱。
巻き込まれた旅団と騎士団は、調査を続行し――邪教団の全滅と生き残りを確保。
全滅の原因は不明ですが、屋敷はギルガメッシュの手によって倒壊。もう更地になる予定でしょう?
事件は解決じゃないですか?」
投げやり気味な青年の言葉――だが。
「……紅い化物」
この言葉には、反応し、そして一瞬で反応は終わった。
「嗚呼、血蓮公爵。
彼に関しては微妙ですな。彼が頑張ったのはせいぜい、邪教団の皆殺し程度ですけど?」
「ッ!」
「ただ、もう死んじゃってますし。数年前に」
何の興味もなさげに言い終え、ふたたび自堕落な体勢で眠りにつこうとし、
「一体、何なんだ! もったいぶっていないで教えてくれ」
「教えたって理解できねぇよ。だいたい、お前らさ――
その物語において、誰が主人公だったかって、
そこのところ、ちゃんと判っている?」
やれやれ、と青年は投げ出した足をカウンターにしまい、
立ち上がり――手近なグラスを手にして、水をいれ……
「やれやれ、まずアズリエルがあの身体能力でどうして人間、か。
加えて、物語に参加しなかった、裏側の登場人物たちからの紹介しなきゃ、
あんたたちの筋は晴れないわけだ。
それだけじゃない、それだけでは【真実】にはたどり着かないが、
今のあんたたちにはそれで十分だろう。――いいぜ、話してやる」
――これは、間違った女の子のお話だ――