Chapter-2
「おい! 俺のことを忘れるな、シャーリー!」
と、もう一匹の猫──シャム猫──が瑠璃の部屋に飛び込んできた。
「あ、リア! ごめんなさい! すっかり忘れてたわ!」
シャーリーは頭を下げた。
「『忘れてた』じゃない! いつも君はそうだ! おっちょこちょいなところはいい加減なんとかしてもらいたいところだよ!」
「だから、ごめんって言ってるじゃない!」
「あ、あのお……。 そ、そちらの方は……?」
ツインテイルが間に割って入った。
「え? あ、ああ! 双子の兄のリア・グリムフォード・テイル。 『リア』って呼んであげて」
「呼んであげて『ください』な! 敬語の使い方がまったくなってない!」
「はいはい、分かりましたよ」
「まったく……! で、こちらのお嬢さんは? ずいぶんと……個性的な格好をされているようだが?」
リアがツインテイルの方を見て訊く。
「あ……、私、二上カヲルっていいます……。 あの、男なんですけど……、なりゆきで双髪の魔法少女っていうのになってまーーす……」
ツインテイルが名乗った途端、リアは驚愕した表情を見せた。
「まさか……! なんてこった……! こんなところで双髪の魔法少女に出会えるとは……!」
「ね! すごいラッキーだったのよ! 私も彼女……いや、彼がそうだとは思ってなかったわ!」
「ほんとラッキーだ! 無理矢理にでも契約を交わさない限り、これ以上のラッキーはない!」
「あの……」
と、ツインテイルが再び間に入った。
「けっこう無理矢理な感じだったんですけど……」
「シーー! シーー!」
シャーリーはこれを制しようとするがリアは聞き逃しはしなかった。
「そんな事だろうと思ったよ……。 まったく、人様に迷惑をかけて、どう詫びるつもりなんだ、シャーリー」
「い、いや! わ、私もけっこう気に入ってますよ! ほら、この胸元のリボンとか! けっこう可愛いじゃないですかあ! アハハハハ」
「ほ、ほらあ、彼女……彼も相当気に入ってるみたいよ!」
「いや……、どう見ても気を遣っているようにしか見えないんだが?」
リアは呆れるように言った。
********
カヲルの家。
「……で、はじめから説明してもらおうか」
元の姿に戻ったカヲルはシャーリーを問い詰めた。
「え、ええ……、もちろんよ。 まずは私たちのことから説明するわ」
「ああ、頼む」
「私たちはこの人間世界とは別の次元に存在するマギレイシア王国という国で暮らしていたわ。 マギレイシアは『魔法王国』とも呼ばれていて、『魔法』の力で繁栄した国だったの。 だけど、その『魔法』を悪用する『ナイトメア』という存在が現れてマギレイシアを一晩で滅亡させてしまった。 それから『ナイトメア』はあらゆる国を滅亡させ続けた。 そして、次に狙っているのがこの人間世界だっていうわけ」
「そんなことって……」
カヲルはシャーリーの言ったことが信じられなかった。
「でも、信じるしかないんだよな……」
「どうだ、怖くなったか?」
リアがカヲルに訊いた。
「……少し、怖い……。 だけど、俺がやらなきゃ……いけないんだよな……」
「そりゃ、けっこう!」
「……そういえば、使い魔って言ってたよな? 使い魔ってどんなことするんだ?」
「双髪魔法少女のサポート、つまり、あなたのサポートをさせてもらうわ」
「たとえば?」
「そうね……。 私たち使い魔は多少なりとも邪悪な気配を感じることができるの。 つまり『ナイトメア』の気配を感じることができるわ」
「そりゃ助かるな!」
「……ど、どういたしまして……」
シャーリーはなぜか照れ臭そうに答えた。
********
次の日。
「おはよう、カヲルくん!」
登校中のカヲルに瑠璃が元気よく話しかけてきた。
「おう、おっす、瑠璃」
カヲルは平然を装って答えた。
「き、昨日は大丈夫だったか?」
「え、昨日? 何が?」
瑠璃は首をかしげた。
やっぱ、昨日のことは覚えてないんだな。
シャーリーによると、ナイトメアに体を乗っ取られていた人はそのときの記憶がすべて消去されるというのだ。
「い、いや! なんでもないんだ! アハハ」
「変なカヲルくん。 うふふ」
瑠璃は純真無垢な笑顔を見せた。
二人が教室に入ると、さっそく剛史が近づいてきた。
「おいおい! 二人とも何イチャイチャしてんのーー?」
「ち、違えよ! そんなんじゃねえし!」
カヲルはきっぱりと否定する。
「ホントかあ?」
「そうに決まってんだろうが!」
きっぱりと否定するが顔が赤くなるのは抑えられなかった。
「分かりやすいよな、ホント」
「……! う、うっせえなあ!!」
そう言い残すと、カヲルはさっさと自分の席に着いた。
「うふふ、カヲルくんったら」
瑠璃は再び笑った。
「……ホント、分かりやすいよな……」
「え?」
瑠璃は訊き返したが、剛史は「なんでもない」とごまかした。
昼休みになり、昼食を食べるためにカヲルは剛史を屋上へと誘った。
その日の昼休みは屋上にいる人はまばらで閑散としていた。
「静かだなあ……」
その風景を見た剛史はボソッとそう呟いた。
「まあ、俺は静かなのが好きだしいいけど」
カヲルは柵沿いに設置されているベンチに座りつつ言った。
「なあなあ、今日の弁当なんだよ?」
「いちいちうっせえなあ!」
そう言いながらもカヲルは弁当箱の中身を見せる。
中には卵焼き、鶏のから揚げ、ウインナーといった王道のおかずが並べられている。
「ベタだねえ……」
「うちの親に謝れ」
「すまんすまん」
「で、そっちの方はどうなんだよ?」
「ん? 俺のはっと……」
剛史は弁当箱を広げる。
中身は白米に梅干しが一つだけというものだった。
「いつの時代?」
「うちの親に謝れ」
「ごめん……」
「うわあ! 二人のお弁当、すっごくおいしそうだねえ!」
と、女子生徒が二人に話しかけてきた。
「……? あの……、えっと……」
「あ! 私、二宮希代子! 隣のクラスの!」
「二宮……さん? ど、どうしたの?」
カヲルが訊くと、希代子は顔を赤らめながら
「ちょっと、二上くんにお話があって……」
と、答えた。
「え、俺?」
カヲルは少しドキッとした。
何せ、女子生徒と接点があるのは瑠璃ぐらいだからだ。
瑠璃以外の女子生徒──しかも美女──から話しかけられ、カヲルは明らかに動揺していた。
「な、なんで俺なの?」
「うふふ、それは……、な、い、しょ!」
希代子は意地悪そうに言った。
「え……えと……」
「おっと、俺はお邪魔みたいだな!」
「剛史、行かないでくれえ!」
席を外そうとする剛史にカヲルは必死に泣きついた。
「おいおい、それでも男かよ……。 根性見せてやれって!」
「そんなああああ!」
「じゃあな!」
「剛史いいいい!」
カヲルは校舎への扉を開けてどんどん遠ざかっていく親友の後ろ姿をただ泣きながら見ることしかできなかった。
********
同時刻。
カヲルの家。
シャーリーとリアはカヲルの部屋で大人しく彼の帰りを待っていた。
「はあーー、待つってずいぶんと大変だわあ……」
シャーリーはうんざりとした表情を見せている。
「待つのも大事なことだ、シャーリー」
と、リアは座禅のポーズをとり忍耐強く待っていた。
「そうは言ってもねえ。 さすがに限界というものがあるわよ」
「落ち着きが足りないだけだ」
「でもねえ……。 ……!」
と、シャーリーが何かを感じ取った。
「気づいたか、シャーリー」
「ええ。 これは、何か邪悪な気配を感じるわ。 これはひょっとして……」
「ナイトメア、だろうな」
「大変! 急いで向かわないと!」
「ああ!」
シャーリーとリアは邪悪な気配のする方へと駆け出した。
********
二十分ほど遡り、体育館。
そこで新体操部に所属している女子生徒が一人練習をしていた。
「ダメだ、こんなんじゃ!」
リボンを天高くに投げそれをキャッチするが、本人は納得のいかないようだった。
「これじゃ、先輩たちについて行くなんて絶対に無理だ……」
女子生徒はそのままその場に座り込んでしまった。
「全然うまくいかない……。 私……、もうダメだ……」
女子生徒は顔をうずめる。
「もう……」
《新体操が上手くなりたいのか?》
「……! だ、誰!?」
と、突然聞こえてきた謎の声に女子生徒は思わず反応する。
《この際、私の正体などどうでもよかろう。 もう一度問う。 新体操が上手くなりたいのか?》
「……私は……」
女子生徒はそこまで言うと口をつぐんだ。
《私は……なんだ?》
「……私は…………、新体操が、上手くなりたい! 先輩たちについて行けるように……ううん、先輩たちに勝つために!」
《ほほお、それは実に面白そうだ! 気に入った!! では、そなたの体を私が引き受けようぞ!》
「……え?」
と、女子生徒を闇が包み込みはじめた。
「何……これ? とても温かい……。 それにとても気持ちがいい……」
《ふふふ、そうであろう? 闇の力はとても心地がよいものなのだ》
しばらくして、女子生徒を包んでいた闇は静かに消えた。
「ふふふ、これは素晴らしい体を手に入れられたものだ」
気付けば、女子生徒の口調が明らかに変わっていた。
「さて、この体の持ち主の名は…………、ほう、姓は二宮、名は希代子というのか。 大切に使わせてもらうぞ、ありがたく思え……」
二宮希代子、いや二宮希代子だった者は体育館を出てそのままとある場所へと向かった。
********
時は戻り、現在、再び屋上。
「えっと……、は、話っていうのは?」
カヲルは明らかに動揺していた。
二宮希代子という美少女に上目遣いをされてはそうなるのも無理はない。
「え? ああ! そうだったわ。 うっかり、うっかり」
希代子は天然キャラっぽくそう言った。
「ちっくしょおおおお、可愛いなあ、おい!」
「ほえ?」
「ありがとうございまああああす!」
「二上くん? どうかしたの?」
「はッ! いかんいかん! 平静を装わなければ……」
そう言いつつも、カヲルはにやけ顔を抑えられないでいた。
「で、話というのは?」
カヲルはできるだけ真剣な表情で訊いた。
「あの、私、気づいちゃったんですけどお? 言ってもいいですかあ?」
「え? な、何を?」
「二上くんってえ……」
そう言うと、希代子が顔を近づけカヲルの耳元でささやいた。
「魔法少女、ですよね?」
「え!?」
希代子の言葉を聞いた途端カヲルは思わずドキリとした。
「な、何言ってんの?」
「気づいてますよ? 二上くんが魔法少女だってこと」
「ま、魔法少女って、俺が!? いやいや、男だからあり得ないでしょ? それに、魔法少女っていうのはフィクションのなかだけにいるんであって、現実には存在しないし……」
「不可解な言動をしている人がいたら注意した方がいいわ。 そういう人たちこそナイトメアにとり憑かれている可能性が大いにあるの」
と、昨日シャーリーが言った言葉がふとカヲルの頭をよぎった。
「もしかして……、お前、ナイトメアか!」
カヲルがそう指摘すると希代子は不敵な笑みを浮かべた。
「ふふ……、だったら?」
「そんなの、倒すに決まってるだろ!」
カヲルは制服の胸ポケットからブレスレットを取り出し左腕に装着した。
「キラキラ! ツインテイル・メタモルフォーゼ!」
カヲルは光に包まれツインテイルに変身した。
「ふッ……、私はリザドのようにはいかないのだよ」
希代子にとり憑いているナイトメアがその姿を現した。
顔はライオンのそれに似たものに変化した。
腕はすらりと伸び、手には鋭い爪が生える。
全身にふさふさとした体毛が生えた。
さらに、その全身を真っ白なレオタードが包み込む。
校内で一二を争う美少女はあっという間に、二足歩行をしたライオンがレオタードを着た奇妙な姿に変貌を遂げた。
「まったく、おかしな姿だわ」
ナイトメアの姿を見たツインテイルは一言そう言った。
《双髪の魔法少女、ここがそなたの墓場となるのだ》
そう言うと、ナイトメアは新体操をしているかのような動きをしてみせた。
「……? こんなときに踊っているなんて、ほんとにおかしな奴だわ」
《ふふ……、そなたには私が、ただ踊っているようにしか見えないのか?》
「なんですって?」
じっくり目を凝らしたツインテイルは、ナイトメアの周囲を赤いリボンが漂っているのを捉えた。
「り、リボン!? それが一体なんだっていうの!?」
《リボンはこういう使い方もできるのだよ》
ナイトメアは、ツインテイルには聞き取れないような小声で何かを呟いた。
すると、まるで意思を持ったかのようにリボンが動きを見せた。
「なッ!?」
ゆらゆらと予測不能な動きをするリボンはツインテイルの体に纏わりついた。
「しまった……!」
体に纏わりついたリボンのせいでツインテイルは身動きが取れなくなってしまった。
《ふふふ……、戦いにおいて油断をすることがどれほど命取りなことになるかを思い知るといい》
「う、動けない……!」
《体の持ち主が新体操をやっているらしくてな、実に利用するに値する才能であった。 彼女も喜んでいるであろう、私にその才能を使ってもらえるのだからな》
「そんなの……、違う……! そんなことをしても絶対に二宮さんは喜ばないわッ!!」
《身動きすることすらできない状況で私に歯向かうとは、愚かなり……》
ナイトメアはグッと拳を握りしめた。
すると、それに呼応するかのようにリボンが収縮した。
「ああッ!!」
体が締め付けられツインテイルは思わず声を上げた。
《ふふ……、ふははははははッ! いいぞ、もっと苦しむのだ! その苦しみが私の糧となる!》
「くッ……!」
《さて……、飽きたからもうおしまいにでもするか》
ナイトメアは不敵な笑みを浮かべた。
ツインテイルは意識が朦朧とするのを感じていた。
まずい……!
このままじゃ……!
ナイトメアはツインテイルの前に両手を突き出す。
《私の魔法でそなたを木っ端微塵にしてくれる》
そう言うと、ナイトメアの手が光り輝いた。
「ちょっと待ちなさああああああい!」
と、シャーリーがナイトメアの顔をめがけて飛びかかった。
《……!? な、なんだ!?》
ナイトメアはシャーリーを顔から引き剥がそうとする。
「シャーリー!?」
「もう、情けない姿を見せないで、ツインテイル! こんな奴、さっさとぶっ飛ばしちゃって!」
「……うん、分かってる! でも、このリボン、なかなか解けなくて……!」
ツインテイルがリボンを解こうとするが上手くいかない。
「どうやら、そのリボンには魔法がかかっているらしいわね。 ちょっと動かないでね」
「え? う、うん……」
シャーリーはナイトメアを一蹴りする。
その衝撃でナイトメアは柵まで吹き飛ばされた。
「リボンよ、解けなさい!」
シャーリーは自身の魔法をリボンに込めた。
《…………ふッ……、無駄なことだ、シャーロット・グリムフォード・テイル。 そなたの白魔法では私の黒魔法が施されたそのリボンを解くことなど到底できまい》
「それはどうかしら? やってみないと分からないことだってあるのよ?」
《ふッ……、くだらない。 その前に私の魔法で貴様を葬り去ってくれるわッ!!》
ナイトメアは再び先ほどの体勢をとった。
「シャーリー!」
「大丈夫よ、ツインテイル。 リボンよ、解けなさい!」
シャーリーはリボンに魔法を込め続けた。
すると、ツインテイルの体を締め付けていたリボンがわずかだが緩んだ。
《これで終わりだッ!! ハハハハハハハハッ!!》
ナイトメアは高笑いをした。
「リボンよ、解けなさいッ!!」
「……!」
と、リボンが完全に解けた。
《なッ……! 何ッ……!?》
想定外の出来事にナイトメアは驚きを隠せずにいた。
「ツインテイル、今よッ!!」
「分かってるわッ!!」
束縛から解放されたツインテイルは両手を前にかざした。
「剣よ、出てきて!」
ツインテイルは出てきた剣を掴み再び呪文を唱える。
「瞬間移動!」
ツインテイルはその場から消え、次の瞬間にはナイトメアの背後に現れた。
《ぐッ……!》
「でやああああああああ!」
ツインテールは剣を振った。
が、剣は空を切った。
「……!」
ツインテイルは即座に消えた相手を探した。
《ふふふ……、惜しかったなぁ。 あと少しで私を倒せていただろうに》
ナイトメアは自身に翼を生やして空に浮かんでいた。
「なッ!? そんなのズルいわよッ!!」
シャーリーはナイトメアに文句を言った。
《戦いに『ズルい』などという言葉はない。 私は様式美にはこだわらない。 勝てさえすればそれでいいのだ》
「そんな……」
シャーリーは悔しそうな顔をした。
「大丈夫よ、シャーリー」
と、ツインテイルがシャーリーに声をかけた。
「え……?」
「あなた、言ってたじゃない? 私と初めて出会ったときに」
ツインテイルは笑ってみせた。
《ふふ……、辞世の句はもう読み終えたか? では……》
ナイトメアは両手を前にかざした。
《今度は確実に仕留めてやる。 死ねッ!》
ナイトメアの手が光り輝き、そこからエネルギーの塊のようなものが多数出現した。
それがツインテールとシャーリーを目がけて放たれた。
しかし、ツインテイルはシャーリーを抱えてその場から動かない。
《どうした? 絶望に打ちひしがれて動けないでいるのか?》
「浮遊!」
と、すんでのところでツインテイルは呪文を唱えた。
すると、シャーリーを抱えたツインテイルは地面から大きく離れ空中に浮かんだ。
エネルギーの塊は誰もいない場所で虚しく爆発した。
《な、何ッ!?》
「勝てさえすればいい戦いなんてありはしないわ! 私がそれを証明してみせるッ!! 瞬間移動!」
ツインテイルは再び消えた。
《ふんッ! 何をするかと思えばまたそれか! 無駄だと気付かないのかッ!!》
ナイトメアは背後に向けてリボンを放った。
「くッ……!」
リボンはツインテイルが持つ剣に絡みついた。
《これでその剣を使うことはできまい!》
「このときを……、待ってたわッ!!」
《何……?》
「高速移動!」
そう言うと、ツインテイルはもの凄いスピードでナイトメアの周囲を駆け回った。
《なッ……! 一体何をッ!?》
「はああああああああッ!」
と、ナイトメアの体にリボンが絡みついた。
《こ……、これは……! ぐッ……、う、動けんッ!!》
「あなたにとってこの剣は脅威。 万が一にもこの剣でご自慢のリボンが断ち切られてしまうかもしれないからね」
《ぐッ……!》
「そこであなたはこの剣にリボンを巻きつけて動きを封じた。 だけど、それが逆に仇となったってわけ」
《このおおおおおおおお!!》
「あなたなら簡単に解けるでしょ? でも、それを待っているほど私は優しくはない。 剣よ、出てきて」
ツインテイルは両手をかざして再び剣を出現させた。
「これで最後よ」
《やめッ……!》
ツインテイルは剣を振りかざし、そのまま振り下ろした。
リボンとともに怪物も真っ二つに切られた。
《くそ……、まさかこの私が、小娘なんぞにやられる……とは……》
ナイトメアはそのまま消滅した。
「だから……、私は男だってば……」
ツインテイルは少し不機嫌気味に言った。
「だーーかーーらーー! 俺のことを忘れるなって何度も何度も言っているだろ、シャーリー!」
と、リアが遅れてやって来た。
「あら? なんか前にもこんなの見たような気が……」
と、シャーリー。
「お、ま、え、の、行動もな!」
リアは両手でシャーリーの頬をつねった。
「いだだだだだ! わ、悪かったわよお!!」
シャーリーは少し大げさなリアクションをした。
「ふふふ、なんか二人──二匹?──って夫婦みたいよね!」
ツインテイルはシャーリーとリアの様子を見て笑った。
「それは勘弁」
と、リア。
「してほしいわ!」
と、シャーリーがそれぞれ言った。
「やっぱり夫婦みたい!」
ツインテイルはさらに笑った。
『だーーかーーらーー!』
と、二匹は息を合わせて言った。
ツインテイルはこの二匹の姿に涙が出るほど笑った。
その瞬間、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。
<次回へつづく>