第7話
俺たちはその後も、『初心者の洞窟』を探索して回った。
モンスターと遭遇すれば、戦闘終了後には俺かロナがそこそこの怪我──例の、致命傷というほど重くもないが、無視できるほど軽くもないという程度の怪我だ──を一つぐらい、負ったり負わなかったりするという程度には消耗していった。
ただ、俺たちのパーティには、ティアラのヒーリングが六発分ある。
いい加減、怪我の量が嵩んできたなと思ったら、ティアラにヒーリングを使ってもらう。
すると、ティアラの手から放たれる温かい光に全身が包まれ、負っていた怪我が、まるで魔法をかけられたかのようにすべて綺麗に治癒されてしまうのだ。
……いや、魔法をかけられたようにっていうか、魔法そのものなんだけどね。
元の世界にいた頃、ゲームの中では当たり前のものとして使っていたけど、実際自分の身に受けてみると、凄さが分かるわ。
ちなみにティアラのヒーリングは、三個か四個ぐらいの「そこそこ怪我」だったら、きれいさっぱり治癒してくれるぐらいの力があるようだ。
プレジデントプレートに表示される数字で言えば、150点前後ぐらいのHPを回復させてくれる模様。
とまあ、そんな流れで『初心者の洞窟』を踏破した頃には、プレジデントプレートに表示されるパーティの状態は、こんな感じになっていた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
アーヴィン HP:284/336 MP:3/11
ロナ HP:404/468 MP:6/12
ティアラ HP:310/310 MP:10/19
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
見ての通り、戦力的にはまだまだ余裕が残っているという状態だ。
このダンジョンのモンスターやトレジャーがすぐに復活するのであれば、もう一周ぐらいはイケそうな気がする。
とは言え、実際には夜にならないとモンスターは復活しないし、トレジャーである水もすぐには溜まらないので、現実問題としては一旦帰るのがベターなんだけど。
ちなみにだが、この世界のモンスターは、一度倒してもその日の夜の一定時間の間にわらわらと「湧く」んだとか。
この「湧く」場所はある程度のエリアで決まっていて、例えばこの『初心者の洞窟』というのは、そういった場所の一つに該当する。
ただ、このモンスターを一日、二日と倒さないで放置していたら、二倍、三倍とモンスターが増えてゆく──というわけでもないらしい。
「湧く」のは、その場所からモンスターが排除されたときだけなのだとか。
だったら湧いたモンスターなんて放っておけばいいじゃないかと思うのだが、そう単純でもないらしく、モンスターが湧く場所にモンスターを生存させたままで放置しておくと、その場に『瘴気』とかいう、何か良くない力が溜まっていくのだそうだ。
で、この『瘴気』なるものが臨界まで溜まってしまうと、何かとんでもないことが起こるらしいので、このような場のモンスターは定期的に掃除しなければいけないということで。
まあまあ、詳しいことは分からないんだが、とにかく言えることは、『初心者の洞窟』のようなモンスターが湧くポイントは、なるべくこまめに、定期的にお掃除したほうがいいということだ。
そんな感じで、今日も少し安全マージンを高くとりすぎたかなぁなんて思いながら街への帰路につき、夕焼けが彩る夕方に街に着いては、役所の冒険者窓口に清算をしに行った。
狩ってきた討伐証明部位とトレジャーを提示すると、役所の冒険者窓口の人が弾き出したのは、こんな数字だった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
●討伐証明
コボルト×14……銀貨7枚
ゴブリン×8……銀貨6枚
ジャイアントラット×4……銀貨3枚
殺人コウモリ×6……銀貨6枚
●トレジャー
『初心者の洞窟』の水……銀貨10枚
以上の合計額……銀貨32枚
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
昨日より総収入が銀貨2枚分も多かった。
これは助かるな。
で、ここから。
ロナに支払う賃金が、銀貨12枚。
ティアラに支払う賃金が、銀貨7枚だ。
そうそう、そう言えば、だ。
生意気にもティアラのやつ、要求賃金が1枚上がっているのだ。
ただ、これはティアラが強欲になったわけじゃなく、昨日の探索で彼女のレベルが一つ、上がったことによるものだ。
冒険者を雇う際の賃金相場は、銀貨[レベル+5]枚というのが常識のようで、2レベルになったティアラは、当たり前に銀貨7枚に賃上げ要求したというだけの話である。
俺としてもこの辺、実力に対して正当な賃金を支払うことには吝かではないので、普通に通したという具合。
お前は性格がへっぽこだから銀貨6枚な、とか言うわけにもいかないし。
そんなわけで、ロナとティアラに支払う賃金の合計額が、銀貨19枚。
収入である銀貨32枚からこれを差し引くと、残るのは銀貨13枚だ。
……んー、会社としては一応の黒字が出たわけだが、この額で満足していいものか。
でもとりあえず、メイドのリアナさんには、銀貨6枚の賃金を払えそうだな。
ひとまず彼女に、賃金を渡すついでに、今日の成果を伝えてこようか。