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第6話

「『初心者の洞窟』なら、何ヶ月か前には、飽きるほど踏破してたぜ。あそこならまあ、ぺーぺー揃いとは言え、こんだけ戦力がいれば楽勝だろ」


 『初心者の洞窟』への道中の林道で、俺の前をのんびり歩くロリッ子が振り返り、可愛らしい八重歯を覗かせながら言う。

 彼女の背には、彼女の身の丈ほどもある無骨な大斧が括り付けられていて、何というか実にアンマッチな感じがする。


 エフィルとティアラを雇って、初めて『初心者の洞窟』を踏破した、その翌日。

 俺はティアラともう一人、別の冒険者を雇って、『初心者の洞窟』へ向かっていた。


 そのもう一人というのが、彼女──ロナ・ドーバンだ。

 ロナは小学校低学年ぐらいの背丈のドワーフで、ポニーテイルにした栗色の髪をぴょこぴょこ揺らしながら歩いている。


 パッと見だと、ちょっとぽっちゃりした体型の人間の子どもぐらいにしか見えないのだが、もちろん彼女は、れっきとした大人である。

 それどころか、彼女は7レベルのウォリアーで、冒険者としては俺やティアラよりもよっぽど先輩だ。


 そのロナの賃金は、一日あたり銀貨12枚。

 本当は、もうちょっと低レベルでも賃金が安い冒険者を雇いたかったのだけど、今朝応募してきた中では、ティアラを除けば彼女が最も賃金の安い冒険者だったのだから、やむを得ない。


 まあ、その分だけ安全マージンが大きくなっているのだと考えておけばいいだろう。




 それからしばらく歩いて、『初心者の洞窟』の入口に辿り着いた俺と被雇用者二名。


「あたしと社長が前衛、ティアラが後衛ってことでいいか?」


 そのロナの提案に、俺は素直に頷く。

 エフィルがいたときは彼女に任せっきりだったが、今回はエフィルのようなオーバースペックな人材はいないので、普通に協力して挑むべきだ。


 ちなみに、ロナに一人でこの洞窟を踏破できるかどうか聞いたところ、「さすがにそれは無理」という返答が返ってきた。


「そりゃ19レベルのベテランと比べたら、あたしもヒヨッコみたいなもんだろうけどさ。そもそもガードってクラスが、格下と相性がいいってのもあるんだよ。普通で言えば、一人でダンジョン踏破なんて話はねぇって」


 というロナの言葉を聞いて、ですよねー、なんて思ってしまった。

 やっぱりエフィルが普通じゃないんだよな。


 と、そんな話をしながら歩いていると、


「おっと、来たぜ社長──犬っころのお出ましだ」


 進む先、洞窟の奥から、コボルトたちが現れていた。




 現れたコボルトの数は、三体。


 ロナは斧をぶんと振り回し、駆け出してゆく。

 俺も剣を抜いて、襲い掛かるコボルトたちに斬り込んでゆく。


「行っくぜー──おりゃあっ!」


 ロナは裂帛れっぱくの気合を込めて、戦斧を振るう。

 その一振りで、コボルトの首が一つ飛んだ。

 そのコボルトは、頭部を失った首から血を噴き出し、どうと倒れる。


 その一撃必殺の攻撃力は、エフィルを彷彿ほうふつさせる。

 いや、攻撃力だけ見たら、エフィル以上だろう。

 だけど──


「くっ……!」


 別のコボルトが突き出して来た短剣を回避しきれずに、ロナはわき腹を、鎧の上からガッと斬り裂かれる。

 鎧によって軽減されたダメージは、致命傷というほど重くはないが、無視できるほど軽くもないという負傷に見えた。

 防御面では、エフィルのようにはいかないわけだ。


 一方、ロナが二体のコボルトを相手取った傍らで、俺は残った一体のコボルトと戦っていた。


「──はっ!」


 先制で俺が振るった剣は、過たずコボルトの胴体を捉える。

 が、ロナほどスマートに、一撃必殺とはいかない。

 コボルトの腹部を生半可に断っただけのその一撃では、コボルトの活動は停止しなかった。


 俺の剣の一撃に耐えたコボルトは、反撃として、短剣による攻撃を放ってくる。


「くっ……!」


 俺はそれを、どうにか盾で弾いて凌いだ。

 そして次の反撃で、剣を胸部に突き立て、ようやくそのコボルトの息の根を止めることに成功する。


「……ふぅ」


 一体のコボルトを倒した俺は、一息だけついてから、ロナの加勢に回ろうと彼女の方へと注意を向ける。

 だがそのときにはすでに、ロナは二体目のコボルトの胴を、上下真っ二つに両断していた。


「痛っつー……ちっ、トチッた。かわし損ねちまった」


 ロナは片手で、斬り裂かれたわき腹を押さえていた。

 その手がべっとりと、血の色に染まってゆく。


「す、すぐにヒーリングをかけますねっ」


 ティアラが慌てて駆け寄り、ヒーリングの魔法で傷を癒そうとするが、それはロナ自身が静止する。


「そこまで大した傷じゃねぇって。包帯使って止血だけ頼む。ヒーリングは、あと数発もらってからでいいよ。こんな傷で使ったんじゃもったいねぇし」


 そんなことを言うロリッ子ロナちゃんは、大変男前に見えた。

 うーん、傍から見てるとすげぇ痛そうなんだが、実際そうでもないんだろうか。


 そう言えば、昨日俺がコボルト三体と戦ったときも、結構えぐい怪我をしていてティアラが戦闘後に飛んできたんだが、自分としてはそう気にしていなかったな。

 俺自身、日本人をしていた頃より、なんか色んな意味でタフになっているのかもしれないし、この世界の冒険者ってのはそういうものなのかもしれない。


 でもそうすると、ティアラのあのリアクションは……いや、あれは単純に性格か。


 さておき、俺は荷物からプレジデントプレートを取り出し、ロナの現在の状況を見てみる。


 すると、ロナのHPは443/468と表記されていた。

 つまりあの怪我でも、HPはほとんど削れていないことになる。


 まあ、HPが100%削られたときは、イコール死ぬときだって考えると、HPの5%程度の負傷っていうのは、こんなもんと言えばこんなもんなのかも。

 冒険者ってのも大変なもんだな。


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