第21話
そんなわけで、あっという間に一週間が経過した。
ミィルが週三日勤務希望なので、週のうちミィルが稼働できる月・水・金の三日間が『死霊の森』探索、残りの三日は戦力不足のため『初心者の洞窟』探索となった。
ちなみに、今週からティアラにも、レベル相応に銀貨6枚の日当を支払うことにしている。
『死霊の森』の探索には彼女のプリーストとしての能力が不可欠であり、であるならば、中途半端に不公平な扱いを続けるべきではないと思ったからだ。
さて、そんな感じの今週だったわけだが。
どんな収支計算になるだろうか──
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●収入
・討伐報酬とトレジャー売却の合計額……銀貨270枚
●支出
・ロナへの賃金……銀貨54枚
・ティアラへの賃金……銀貨36枚
・ミィルへの賃金……銀貨21枚
・ヒーリングポーション代……銀貨4枚
・社屋の維持費……銀貨15枚
・食費等……銀貨19枚
・役所に提出するリスク管理積立金……銀貨20枚
支出の合計額……銀貨169枚
今週の利益……銀貨101枚
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──よっし!
俺はいつぞやのように、社長室で小さくガッツポーズ。
ティアラに正当に賃金を支払っても、先週の銀貨69枚より、利益が大幅に上回っている。
『死霊の森』様々だな。
苦労してる甲斐があるってもんだ。
で、銀貨101枚だ。
これならいい加減、リアナさんに払うべき給料が、払えるんじゃないか?
リアナさんに銀貨6枚の日当を渡すとすると、週6日分の賃金は銀貨36枚。
これを渡しても、俺の手元には銀貨65枚が残る。
これならいくら何でも、正規の賃金として受け取ってもらえるだろう。
「……はい、確かに受け取りました」
俺が社長室にリアナさんを呼んで、36枚の銀貨が入った小袋を手渡すと、リアナさんはそれを、大事そうに受け取ってくれた。
そして──感極まったように、その体で俺を包み込み、抱き締めてきた。
「──社長は、ご立派になられました」
少し震えた声で、リアナさんが言う。
彼女の胸に顔を抱かれた俺には、その表情は分からない。
そんなことよりも、メイド服の布地の、いい匂いがする。
豊満な胸が顔に押し付けられて、俺の男の子な部分がやばい。
……えっとえっと、俺だいぶ頑張った気がするし、ちょっとぐらいヤンチャしちゃってもいいかしら?
いいよね。
いいってことにするよ。
「……そんなの、リアナさんのおかげだよ」
俺はそんないい感じの台詞を吐きつつ、どさくさまぎれでリアナさんの腰の後ろに腕を回して、ひしっと抱き締めてみた。
「しゃ、社長……?」
リアナさんの、ちょっと戸惑った声。
おっと、普段クールなリアナさんのこんな声は、結構新鮮かも。
「ごめん、リアナさん……こういうの、嫌?」
俺はリアナさんの胸に埋まった自分の顔を引っ張り出して、リアナさんを見上げて言う。
やばい、確実に調子乗ってるな俺。
だけど、俺と目が合ったリアナさんは、何やら一瞬ドキッとした顔をしてから、視線を外して答える。
「……い、いえ。嫌ということは断じてございませんが、幼少の頃に母君を亡くされたアーヴィン様が、私にお母様の代わりを求めておられるのでしたら……私程度でご期待に添えるかどうかは、その……自信がございません」
何だかリアナさんは、斜め上の方角に全力で勘違いしてくれていた。
……ごめん、違うんじゃよ。
完全に単なる、エロ根性なのじゃよ。
でも──
「違うよ。リアナさんは母さんの代わりなんかじゃない。そうじゃなくて、リアナさんはリアナさんとして、俺にとって大切な人なんだ」
それはそれとして、俺の口からは何かよく分からないけど、さらさらっと綺麗目の言葉が垂れ流される。
そしてさらにぎゅーっと、リアナさんを強く抱きしめる。
それに対してリアナさんは、いつになくあわあわと慌てていたようだった。
いつもやりこめられてばっかりだから、たまにはこんな仕返しもしたくなるのです。
一見草食系に見えたって、男の子を人畜無害だと思い込んでると、危ないんだぞ。