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第18話

「……働きたくないけど、そろそろ働きたくなってきた気が、しないでもないでもないかも」


 社長室で、久々の面談。

 俺は目の前のとぼけたエルフ娘に、「どっちだよ!」と心の中でツッコミを入れる。


 エルフ特有の線の細い美貌、金糸のように流れる綺麗な金髪、上品に尖った耳。

 草色の鍔広三角帽子をかぶり、同色のローブを身に纏っている。

 で、目だけはいつも眠たそう。


 改めて面談してみたが、最初に会った時の印象とほとんど変わらなかった。

 その印象とは「この子雇って大丈夫? ちゃんと働いてくれんの?」である。


 ミィル・グラスウィンド。

 エルフでメイジ、8レベル。

 スペック上の条件だけは、確実に理想解なんだが……。


「……何か、心配してる?」


 こちらが用意した椅子にちょこんと座ったミィルが、可愛らしく小首を傾げる。

 やばい、可愛い。

 可愛いは正義、という論法で雇うなら、こいつは確実に雇う。


 でも問題はそこじゃない。


「えっと……ちゃんと働いてもらえるのかな、と思って」


 俺はひとまず心情を吐露してみる。

 この子相手に腹の探り合いをしても、何か不毛な気がする。


「……ちゃんと、働くか……?」


 ミィルは俺の言葉を反芻はんすうして、考え込むようにする。

 そして少ししてから、真っ直ぐに俺を見て、こう言った。


「……保証はできない」

「保証しろよ!」


 ……思わず立ち上がって、全力でツッコんでしまった。

 すると、ミィルは特に驚いた風もなく、少し微笑んで、


「……今のは冗談。……私、ちゃんと働くよ?」


 そう言ってきた。


 ……そ、そうか、冗談か。

 分かった、信じるよ? 信じるからな?


 そして俺は、ミィルを雇うことに決めた上で、さらに住み込み三食付きシステムによる賃金値切り交渉を行なってゆく。

 すると、俺が話を進めるにつれて、ミィルの表情がぱああっと明るくなっていった。


「……住み込み、三食付き……生活の心配しないで、だらだらできる……夢の世界……」


 ミィルの瞳が輝いている。

 お、おう、何か思った以上に食いついてきたぞ。


「……それ、すごくいい……。……だけど一つ、私からも、お願いがある。……お給料は安くてもいいから、週に四日は、休みたい……」


 ミィルはそう言って、指を四本立てる。


 しゅ、週休四日の希望だと……?

 むむむっ、どうしよう?


 えーと、相場どおりの賃金だと、ミィルの日当は銀貨13枚。

 週三日の労働日で、銀貨39枚の収入。

 で、週七日を外食・宿暮らしだと銀貨21~28枚ぐらいかかるから、残るのは銀貨11~18枚。

 で、それよりは多少、ミィルにとってお得なぐらいの交渉にしなければいけないんだから……


「うーん、それだと、払える日当は銀貨7枚とかになっちゃうけど、いい?」


 俺がそう言うと、ミィルは親指をぐっと立てて、言った。


「……最高。……社長、私を惚れさせようとしてる?」


 してない。

 完全な言いがかりです。




 そんなわけで、俺が社長業を始めて三週目の、月曜日。

 俺は、ロナ、ティアラ、そしてミィルという三人を雇って、初めて『死霊の森』というダンジョンの探索をすることにした。


 『死霊の森』は、その名が示す通り、アンデッドモンスターが跳梁ちょうりょう跋扈ばっこする森林地帯である。

 距離的には『初心者の洞窟』と同様、街から三時間ほど歩いた場所にある。


 で、辿り着いてみるとそこは、いかにも『死霊の森』だなぁと思えるような場所だった。


 森の中に入ってみると、木々は奇妙にねじくれ曲がっていたり、幹や枝や葉のあちこちが腐敗していたりした。

 森の上空に暗雲が立ち込めていることもあり、真っ昼間だというのに森の中は暗く、重たい空気が支配している。

 しかも、なんかそこかしこに、妙に毒々しい紫色を混ぜた感じのごぽごぽ泡が湧いている沼とかもあって、異世界のリアル怖いなとか思ったりした。


「……ここに来ると、いつも陰鬱いんうつな気分になる」


 エルフの魔法使いミィルが、俺の後ろでそんなことを言っている。

 ちなみに俺には、陰鬱な気分のミィルと、普段のミィルとで、見た目の区別はつかない。


「そぉか? お前らメイジが一番活躍できる場だし、むしろ気分いいんじゃねぇの?」


 俺の隣を歩くロナが言うと、背後のミィルが首を横に振った気配。


「……戦闘民族ドワーフと、一緒にしないでほしい。……戦うのは、あまり好きじゃない。……エルフは家でだらだらするのが、好き」


「それはエルフの一般的な性質じゃなくて、お前個人の好みだろ」


「……バレた。脳筋のくせに鋭い」


「……なぁ社長、あいつちょいちょいあたしに喧嘩売って来んだけど、何とかならねぇ?」


 何ともならない気がする。

 雇ってみてから分かったのだが、ミィルは意外と毒舌家だった。


 いや、毒舌家っていうのも少し違うか。

 イタズラとか、人をからかったりするのが好き、というほうが近い気がするな。


 ──とまあ、そんな感じで森の中を歩いていると、


「で、で、出ました……アンデッド……っ!」


 ティアラが震える手で、前方を指さした。

 前を見ると、視界の悪い森の中、木々の隙間からアンデッドモンスターたちが這い出て来ていた。


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