第17話
「『初心者の洞窟』の次のステージって言ったら、『死霊の森』だろうな」
社長室。
いつものようにソファーに座る俺の背中には、ロナがべったりとしがみついている。
俺の背中とソファーの背もたれとの間に挟まれたロナは、首から先だけを俺の顔の横に出し、俺と一緒にプレジデントプレートを眺めている。
……こいつはひょっとして、ある種の妖怪か何かなんじゃないだろうか。
俺はへばりついているロナのことを努めて気にしないようにしながら、プレジデントプレートを操作し、『死霊の森』のモンスター情報を表示する。
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スケルトン……HP:220/ATK:120/DEF:35/HIT:100/AVO:25
ゾンビ……HP:360/ATK:145/DEF:10/HIT:95/AVO:15
イビルフラワー……HP:350/ATK:135/DEF:25/HIT:100/AVO:20
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表示されている数字を見る限り、出てくるモンスターの強さは、『初心者の洞窟』で遭遇するモンスターと、そう大差はないように見える。
ただ、一度に現れるモンスターの数がかなり多いとのことで、そのせいで『初心者の洞窟』とは一線を画する水準のパーティ戦力を要求されるようだ。
「俺たち三人で、イケると思う?」
俺は背後のしがみつき妖怪ロナに、見解を求める。
ちなみに三人というのは、俺、ロナ、ティアラの三人のことだ。
「んー、ちょっち厳しいんじゃねぇかな。『死霊の森』に挑む際のパーティ人数の目安は三、四人ってとこだと思うけど、あたしらの場合、レベルも低めだしな。あたしが7レベルで、社長が4レベル、ティアラがまだ3レベルなんだっけ?」
「そんなとこ。ティアラももう少しで、4レベルになるとは言ってたけど」
そう、社長業を始めた当初は1レベルだった俺も、黙々と金稼ぎに没頭しているうちに、いつの間にか4レベルだ。
当初逆だったのに、今はティアラより俺の方が先行しているのは、ティアラが誰からも雇われずに街で干からびていた期間の分だろう。
ちなみに今の俺のステータスを確認すると、2レベルのときと比べて、こんな感じに地味に上がっている。
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名前:アーヴィン・マクダレス
種族:人間
性別:男
クラス:ファイター
レベル:4(+2)
経験値:381/650
HP:366(+20)
MP:11
STR:33(+2)
VIT:35(+2)
DEX:37(+2)
AGL:28(+1)
INT:13(+1)
WIL:23(+1)
LUK:26(+1)
武器:ロングソード
盾:スモールシールド
鎧:スケイルアーマー
ATK:189(+6)
DEF:65(+2)
HIT:120(+3)
AVO:41(+2)
スキル
・ソードマスタリー(Lv1)
・ダブルスラッシュ
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「おっ、社長、VITが35に上がってんじゃん。チェインメイル買ってきたほうがいいんじゃねぇ?」
俺の後ろからプレジデントプレートを覗き込んでいたロナが、そこに表示した俺のステータスを見て、そんなことを言ってくる。
「チェインメイルは、VIT=35以上が推奨値だっけ?」
「うん、確かそう。今社長が使ってるスケイルアーマーがVIT=30以上、あたしが使ってるラメラーアーマーがVIT=40以上で、チェインメイルはその間だったはず」
そのロナの助言に、俺はふむと考える。
この世界では、鎧のランクに応じて『推奨VIT』なるものが提示されている。
要は、重量があって強力な鎧を着るためには高いVITの値──つまり体力が必要ということで、この条件を満たしていない「重すぎる」鎧を装備してしまうと、鎧の重さのせいで逆に戦闘能力が激減してしまったりする。
で、先日のレベルアップで、今来ている鎧よりもワンランク上の『チェインメイル』という鎧にVITが届いたので、それを買って来たらどうかということなんだが。
「チェインメイルって、値段はいくらぐらいする?」
「あー、いくらだったっけなぁ。確か何ヶ月か前にあたしが買った頃は、銀貨60枚だか70枚だか、そのぐらいだったと思うけど」
むっ……結構高いな。
今の俺の所持金はというと、銀貨40枚とちょっとぐらいしかない。
もちろん、会社の金に手を付ければ、買えないことはないが……。
「金が足りない……」
「……へっ? だってアーヴィン、社長だろ? 銀貨何千枚かぐらいは持ってないと、社長やれないって聞いたぜ?」
「それは会社のお金な。俺個人が持ってるお金は、多分ロナより少ないよ」
「んん? 社長のお金と、会社のお金って、一緒じゃねぇの?」
「いや、それは、そうとも言えるし、そうじゃないとも言えるし……あまり難しいこと聞かないでくれ。俺もその辺、よく分かってないんだよ」
「はぁ、そういうもんなのか。──まあいいや、話戻すけどさ。死霊の森に行くんなら、多分もう一人ぐらい雇った方がいいぜ。実力的にはあたしと同格か、それ以上が理想。あとはアレだ、死霊の森のモンスターはあらかた火に弱いから、メイジがいるといいと思う」
もう一人雇う、かぁ……。
で、ロナと同格以上のレベルで、メイジで……って、あれ?
そういえばそんな冒険者が、わりと毎回応募に来ていたような──