第16話
そんなわけで、火曜日以降はロナとティアラの二人を雇っての探索行となった。
ヒーリングの魔法を潤沢に使えるので、ヒーリングポーションを一所懸命にケチっていた昨日までと比べて、リスク管理は相当楽になった。
その点も考慮すると、ティアラにはもう少し多めの日当を支払ってもいいかもしれないと思ったりもした。
ただ、何だろう……人間関係は、随分めんどくさいことになってきた。
「えっ……ロナさん、どうして社長にべたべた引っ付いてるんですか?」
『初心者の洞窟』へと向かう道中の、いつもの林道。
ロナは、ティアラの目を人目と思わないという暴挙に出て、月曜日同様に俺にべったりと張り付いていた。
「どうしてって……何となくだよ。別にいいだろ」
「いいわけがないですよ、羨ましい! だったら私もべたべたします!」
そう言ってティアラは、ロナがくっついているのと反対側の俺の腕を取り、ぎゅっとしがみついて来る。
……何だこれ?
右腕にロリッ子がしがみついて。
左腕にへっぽこお姉さんがしがみついて。
文字通り両手に華なんだが……やっぱり何だこれ?
これはいわゆる、金持ちの社長にすり寄ってくる女たちというような見方もできる気はするんだが……それもまた、何か違う気がする。
もっと何かこう、甘えてもいいお兄ちゃん扱いされてたり、愛玩動物扱いされていたりとか、そんな感じだ。
「なあ社長、今日あたし、社長と一緒のベッドで寝たいんだけど、いいか?」
「はああああっ!? いいわけないでしょう!? 何なんですかあなた、本当は私よりも年上のくせに子どもぶって!」
「お前に聞いてねぇよ。あたしは社長に聞いてるんだ。……な、頼むよ社長。変な意味じゃなくて、本当にただ普通に、添い寝したいだけなんだ」
「きいいいっ! だったら私も、私もアーヴィンくんと一緒に寝るうううっ!」
「ごめん、ティアラは無理。俺の貞操の危機を感じる」
……うん、なんかあまりにも話のピントがズレすぎて、俺の発言までおかしくなってきてるな。
常識さん、頼むからちゃんと仕事してくれ……。
とまあ、そんなすったもんだがありながら、俺が社長業を始めてからの二週目が過ぎ去って行った。
週六日労働で、一日休みという働き方は、変わらない。
探索しているのが『初心者の洞窟』であるという部分も変わらず、収入面では先週と大きな開きはない……あ、いや、先週みたいにダンジョン踏破できなかった日はないから、その分だけ今週の方が上か。
ただそれよりも、今週は先週と比べて、大幅なコストカットに成功したということが大きいはずだ。
それによってどのぐらい利益額が変わったか──お楽しみの収支発表といこう。
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●収入
・討伐報酬とトレジャー売却の合計額……銀貨184枚
●支出
・ロナへの賃金……銀貨54枚
・ティアラへの賃金……銀貨10枚
・ヒーリングポーション代(ティアラを雇っていない初日分)……銀貨3枚
・社屋の維持費……銀貨15枚
・食費等……銀貨16枚
・役所に提出するリスク管理積立金……銀貨20枚
支出の合計額……銀貨115枚
今週の利益……銀貨69枚
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「──よっし!」
俺は社長室のソファーの上で計算を終え、小さくガッツポーズした。
銀貨69枚。先週の銀貨23枚の3倍の利益額だ。
さて、これならリアナさんに、銀貨6枚の日当を支払えるかな。
──と、思ったのだが。
まいったな、これでも厳しいのか。
銀貨6枚を六日分だと、銀貨36枚。
払えないことはないが、そうするとまた俺の受け取り額のほうが少なくなるから、多分受け取ってくれないだろう。
結局、その後リアナさんと話し合った結果、リアナさんは日当で銀貨5枚相当の、銀貨30枚の週給を。
そして俺が、残った銀貨39枚を受け取ることになった。
ちなみに、俺の冒険者としての実力はティアラとどっこいなのだから、この銀貨39枚という額は、結構な額と言えるだろう。
日本円に直して考えても、家賃と光熱費、それに基本的な食費も払わなくていい条件下での好きに使えるお金が週に4~5万円も貰えたというのは、結構いい額な気がする。
……とは言え、もうこれ以上は、『初心者の洞窟』に潜り続けている限りは、望めないだろうな。
リアナさんに先代の頃に貰っていた満額の賃金を支払ったり、あるいはティアラに実力相応の賃金を支払うためには、次のステージを目指す必要があるだろう。