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第14話

 翌週の最初の日──まあ、月曜日と呼ぼう。

 俺は先週の後半と同様、ロナを雇って『初心者の洞窟』へと向かっていた。


「──で、社長、相談って何?」


 その道すがらの林道で、横を歩いているロナが、俺に聞いてくる。

 俺は今日雇う段階で、ロナに雇用条件について相談がある旨を伝えていたのだ。


 ……が、それはいいとして。

 本題に入る前に、すごく気になることが一つある。


「なぁロナ……何で俺とロナは今、手を繋いで歩いてるんだ?」


 林道を横並びで歩く俺とロナは、何故かお手々繋いで仲良く歩いていた。

 ロナがチビッ子なので、見た目だけで言えば、お兄ちゃんと歳の離れた妹が一緒に歩いているという様子だ。


「……い、いや、別に深い意味はねぇよ。ただちょっと、手を繋いで歩きたくなっただけだ。……その、嫌か?」


 ロナは何やら顔を赤らめながら、上目遣いで聞いてくる。

 ……やば、何かすごい可愛い。

 ロナってこんなキャラだったっけ?


「べ、別に嫌ってことはないけど……」


 そもそも元の世界にいた頃は、悲しいかな女子との肉体的接触なんてほとんどなかったもんだから、こんな子どもみたいな手だと思っても、女の子の手を握っていると思うとドキドキしてしまう。

 いや、ロナの場合は、中身は子どもってこともないんだから、普通に女の子の手を握っている相当と考えればドキドキするのは問題ない……ああいや、そうじゃなくて。


 そもそもの話、突然手を繋ぎ始めることに、脈絡がない。

 先週の段階から、何かチラチラこっちの様子をうかがってるなぁとは思っていたんだが、今日は街を出て二人っきりになったらすぐに、半ば強引に手を握ってきた。

 でもそれ以上何をするでもなく、妙にホクホク顔で普通に横を歩いているだけだったから、どこでツッコんだものやら困っていたのだ。


「い、嫌じゃないならいいだろ、気にすんな。──それより、何か要件があんだろ?」


 ロナは強引に話を引き戻す。

 ……まあ、別に俺にとっては嬉しいだけだし、ロナがいいって言うならいいか。


「じゃあ、本題に入るけど……ロナって今、宿屋暮らしだよね? 宿代と食費とで、働いて受け取った賃金のうち、どのぐらいが消えてる?」


「……んー? どのぐらい生活費が掛かってるかってことか? ……どうだろうなぁ、毎日家計簿とか付けてるわけじゃねぇから、厳密にはわかんないけど、多分一日で銀貨4~5枚ぐらいじゃねぇかな。あたし人よりよく食う方だからさ、食費が結構かかるんだよ。酒の分も入れたらもっとか……って、何でそんなこと聞くんだ?」


 むっ……食事は結構、量を食べるのか。

 それに酒か……そこまでは考えてなかったな。


「いやさ、うちの社屋に部屋もベッドも余ってるし、食事もうちのメイドさんにたくさん作ってもらえばいいし──つまりさ、ロナもうちの社屋で一緒に暮らせばどうかなって思ったんだ。そうしたら、毎日高い金払って宿に泊まったり、外食で高い食事しなくて済むだろ?」


 ──そう、これが、俺が経費削減のために考えたプランだった。


 雇った冒険者に、雇っている間だけ、うちの社屋で一緒に暮らしてもらう。

 そうすることで、その冒険者は生活費を安く済ませることができる。

 そしてそれによって浮いた分の一部に関して、こちらが支払う賃金を、安くしてもらえないかと交渉を仕掛けるのだ。


 住み込み三食付きの職だったら、日当換算の賃金相場が銀貨4~5枚分も安くなる。

 これは、住み込み三食付きであることによって、その分だけ労働者の生活費が安く済むからだ。

 で、そうであるならば、冒険者という職を住み込み三食付きにしてしまって、銀貨3枚ぐらい賃金を安くしてもらえば、会社も従業員もお互いに得をするだろうという寸法だ。


 で、俺のその提案を聞いて、ロナは最初きょとんとしていた。

 だけど、みるみるうちに顔が真っ赤になってきて、


「──はああっ!? な、なんで突然そんなに話が飛躍するんだよ!? いや、べ、べ、別に嫌っていうわけじゃねぇけど、でもその、いきなり言われても、心の準備ってもんが……」


 ……あれ?

 何か反応がおかしいな。


「えっと……ロナ、何か勘違いしてない?」


「……は? 勘違いって、何がだよ。あたしにお前の嫁になれって話だろ?」


 ──んん?

 何でそうなるんだ?


「違う違う。うちで一緒に暮らす代わりに、支払う賃金を少し負けてもらえないかって話だよ」


「……はい?」


 俺がとつとつとプランを説明すると、しばらくしてロナは納得してくれた。

 そして、それによって日当から銀貨3枚を差し引くことを了承してくれた。

 ちなみにお酒に関しては、ロナが自分のお金で買ってくる方向で。


 ただ、


「ったく、だったら最初からそう言えよな。紛らわしい言い方しやがって……」


 などと、恥ずかしそうに赤面しながら、ぶつくさ言ったりはしていたのだが。


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