第11話
「ぜー、ぜー……」
「はー、はー……」
俺を愛で疲れたティアラと、愛でられ疲れた俺。
洞窟の通路で俺たちは、くたびれきって倒れていた。
「……お、俺たちは、洞窟の中で一体何をやっていたんだ……?」
「そ、そういえば、そうでした……モンスターに襲われなくて、良かったですね……」
「ホントだよ……」
とまあそんな感じで、緊張感のないやりとりをしたりもした俺たちだったわけだが。
ダンジョン探索自体はというと、これは決して余裕のあるものではなかった。
何しろ、ティアラの防御面での不安がかなり大きく、そこに関するリスクは徹底的に排除していかないといけない。
ということは、どういうことになるかというと、ティアラが一撃でも敵の攻撃を受けて怪我をしてしまったら、その段階でヒーリングの使用が確定してしまうということだ。
で、俺とティアラの戦闘能力で、そうそうノーダメージで完封できるわけもなく。
一回の戦闘につき、俺かティアラのいずれかに、合計で一、二回ぐらい被弾するケースが多い感じだ。
かと言って、ティアラを前線から下げて俺一人でモンスターと戦うとなると、今度は俺のほうが、戦闘一回ごとにヒーリングを貰わないとお話にならないような大ダメージを受けてしまう。
そんなこんなで、『初心者の洞窟』というダンジョン全体の半分も進まないあたりで、ヒーリングを使うために必要なティアラのMPが尽きてしまった。
いや、厳密にはあと一回分のMPは残っていたのだけど。
モンスターを掃除した後の帰り道には基本、モンスターは出ないものだとは言え、実際には何があるか分からない。
なので、そのぐらいのリソースはセーフティーネットとして残しておいた状態で、俺たちは街への帰路につくことにした。
「ほらぁ、だから二人だけで大丈夫なのかって、言ったじゃないですか~」
「……いいんだよ、これも計算のうちだ」
俺はティアラの指摘にムスッとしながら、『初心者の洞窟』をあとにしたのだった。
で、いつも通りに夕方に街に帰ってきて、役所で清算タイム。
トレジャーも確保できてないし、モンスターの討伐数も少ないし、厳しいだろうなぁ……。
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●討伐証明
コボルト×6……銀貨3枚
ゴブリン×2……銀貨1.5枚
ジャイアントラット×2……銀貨1.5枚
殺人コウモリ×3……銀貨3枚
●トレジャー
なし
合計額……銀貨9枚
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うぐっ……厳しいだろうなぁとは思ったが、思っていた以上に厳しいぞ。
銀貨9枚って、ティアラに賃金払っただけで、銀貨2枚しか残らないじゃないか……。
「いいよなぁ、固定給が貰えるやつは」
「……?」
ティアラに7枚の銀貨を、震える手で渡しながらする俺のぼやきに、ティアラが首を傾げる。
……まあ、そうは言っても、ティアラも日雇い労働者だしな。
どこからも雇ってもらえなかった日には一切収入なしという、不安定な暮らしをしているわけで。
ティアラの立場を羨むのは、隣の芝生は青いっていうだけの話だろう。
それにしても、いや、改めて思うわ。
どうせ異世界トリップするなら、もっと世知辛くない異世界にトリップしたかったよ……。