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第10話

 ちゃらららっ、ちゃっちゃっちゃーっ♪


 ──などと、どこかで聞き覚えのあるファンファーレが聞こえたわけでもないのだが。

 朝起きて何となくプレジデントプレートを眺めていた俺は、その事に気付いてしまった。


 俺のレベルが、2レベルに上がっていたのだ。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 名前:アーヴィン・マクダレス

 種族:人間

 性別:男

 クラス:ファイター

 レベル:2(+1)

 経験値:56/150


 HP:346(+10)

 MP:11


 STR:31(+1)

 VIT:33(+1)

 DEX:35(+1)

 AGL:27(+1)

 INT:12

 WIL:22

 LUK:25(+1)


 武器:ロングソード

 盾:スモールシールド

 鎧:スケイルアーマー


 ATK:183(+3)

 DEF:63(+1)

 HIT:117(+1)

 AVO:39(+1)


 スキル

 ・ソードマスタリー(Lv1)

 ・ダブルスラッシュ


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 カッコ内の+幾つという数字が、1レベル時のステータスから上昇した値なんだが……わりと地味だな、上がり方。

 まあでも、エフィルとかロナがあのレベルであんな感じのステータスなんだから、こんなもんと言えばこんなもんか。


 それに、多少地味だと言っても、少しでも強くなっているのは嬉しいことだ。

 何せ、俺のレベルはいくら上がっても、支払わなければならない賃金に響かないからな。




 さて、俺が冒険者カンパニーの社長を始めて、今日で三日目だ。


 一昨日、昨日とかなり大幅な安全マージンを取って『初心者の洞窟』を探索していたが、必要な情報も出揃って来た感じがするし、そろそろ補助輪を外すべき頃合いかと思う。


 というわけで、だ。


「社長~、本当に私たち二人だけで大丈夫なんですか……?」


 『初心者の洞窟』の入り口前。

 いつもの残念お姉さんことティアラが、びくびくと俺の後ろに隠れながら、洞窟の中を見ている。


「……ねぇ、ティアラ。キミもさ、仮にも銀貨7枚で雇われてる冒険者なんだから、もうちょっとシャンとできない?」


「無理ですよぉ! 私こういう性格なんです! これが私の個性なんです!」


 その個性、心底要らねぇ……。

 仕事においてはその人なりの個性を発揮することが大事だ、とか言う大人が元の世界でいた気がするが、あれは絶対嘘だな。


「最初の面談のとき、雇ってくれたら社長である俺に尽くすって言ってたよね? 何でもする、とも言ってた」


「あ、あれはそのぅ……その場凌ぎの方便と言いますか、何かそういうアレでございまして……」


 ティアラはごにょごにょと、しどろもどろの言い訳をする。


 うわぁ……本当にダメな人だな、この人……。

 ほかの冒険者カンパニーから雇ってもらえずに、行き倒れそうになっていた理由が分かった気がする。

 これは早まったかもな……。


 いや、今日は雇うのは一人だけにして、俺含めた二人で『初心者の洞窟』を踏破できるかどうか狙ってみようと思ったのだが。

 正直なところ、雇うのをロナにするか、ティアラにするか、かなり迷ったのだ。


 ロナを雇うと、戦力的にはかなり安心できるが、ヒーラーがいないという欠陥が発生する。

 もっとも、街では銀貨1枚で『ヒーリングポーション』なるアイテムが売っていて、これ一本がプリーストのヒーリング一発分よりも幾分か弱い程度の回復力を持っているらしいので、その気になればそれで回復を賄うこともできなくはない。


 だけど、ロナの賃金も含めて考えるとやっぱり高くつきそうなので、少し不安要素は大きい気がしたけど、ティアラを雇うことにしたのである。

 初日にエフィルが言っていたように、プリーストもわりと前線で戦うものらしいから、彼女と二人掛かりで戦闘に挑めば、俺一人で戦うよりは少ない負担でやれるだろうという目算もあった。


 それに、いざやってみて洞窟踏破が無理っぽかったら、途中で帰ればいいのである。

 そうしたら、今日の収支は赤字になるかもしれないが、明日以降はまた戦力構成を模索し直して、最も収益が出るラインを探し出せばいい。


 そんなわけでティアラを選んだのだが……正直、能力面しか考えてなくて、性格までは考慮してないんだよなぁ。

 言っても雇用契約は成立しているのだから、最低限、ちゃんと働いてくれるとは思うのだが……。




「てぇいっ!」


 ティアラが放ったメイスの一撃が、ゴブリンの頭部にめきっとめり込み、そのゴブリンは頭から血を流して倒れる。

 そのゴブリンの胴には、俺の剣がバッサリと斬った跡があって、二人の攻撃で合わせ技一本といった具合だ。


 だがその、一体のゴブリンにトドメを刺したばかりのティアラに向けて、もう一体のゴブリンが小剣で斬りかかる。


「きゃああああっ!」


 その攻撃に対し、ティアラの盾による防御は間に合わず、革鎧の上から胸部を斜めに切り裂かれた。

 ティアラの血が宙に散り、彼女はその場に尻もちをついてしまう。


「あっ……あ、あっ……」


 その尻もちをついたティアラの前に立ち、小剣を振り上げるゴブリン。

 ティアラは怯えて動けずにいるが──


「──させるか!」


 俺は横合いから、ゴブリンに向かって突進する。

 しょうがない、使うか──届けよ!


「──ダブルスラッシュ!」


 俺はファイターの戦闘スキルを発動させる。

 俺の腕から剣にかけてが、一瞬だけ青い光を発し、それが洗練された軌道を描いて振るわれる。

 右上段よりの袈裟けさ斬りから、流れるように上へと剣先が滑って、左上段よりの逆袈裟さかげさに繋がる。


 この0.5秒ほどの時間で繰り出された斬撃は、ゴブリンの体に十字状の断ち傷を生み、それからワンテンポ遅れて、その傷から十字に血が噴き出し、ゴブリンは地に倒れた。


 ──ふぅ、どうにか倒せたか。

 このスキルを発動させても、ゴブリンを一手で倒せるかどうかは、いいとこ五分五分なんだよな。


「ティアラ、大丈夫?」


 俺は尻もちをついているティアラに、手を差し出す。


「うう~、痛いです~」


 ティアラは俺の手を取って、立ち上がる。

 ティアラの胸部には、斜めに切り裂かれた革鎧の下に切り傷が走っていて、そこからわりと多量の血が流れている。


 いや、「痛いです~」で済む傷でもない気がするんだが……相変らずこの世界の冒険者のタフネスは凄いな。

 実際にダメージを受けている本人より、それを見ている余人からの方が痛そうに見えるというのは、「包丁で手をぱっくりと切っちゃいました、てへぺろ♪」っていうのに近いのかもしれない。


「社長~、ヒーリング、使っていいですよね……?」


 涙目で訴えてくるティアラ。


 うーん……洞窟入って一戦目、一撃受けただけでヒーリング使うのは、ちっと厳しいんじゃないか……?

 だってこの洞窟踏破するまでに、だいたい十数回ぐらいは戦闘があるのがこれまでの経験則。

 それに対してティアラのヒーリングの使用回数は、2レベルに上昇した今も変わらず一日六回だ。


 俺は荷物からプレジデントプレートを取り出し、そこの数字を確認する。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 アーヴィン  HP:346/346  MP:9/11

 ティアラ  HP:223/310  MP:19/19


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 マジかティアラ……一撃受けただけでこのダメージか……。

 でもヒーリングは、もうちょっとやられてからで、大丈夫だと思うんだけど……。


 いやでもなぁ、万一死んじゃった場合、銀貨1,000枚だろ。

 そのリスクを考えると──


 ……うん、ダメだ。

 このリスクには、踏み込むべきじゃない。


「ちょい厳しいけど、いいよ、ヒーリング使って。それ使わなかったせいで死なれるよりマシだ」


 俺がそう言うと、ティアラは少し不満そうな顔をした。


「うー……社長いま、私の命、お金で勘定したでしょ」


「うっ……」


 何故バレた……エスパーか? 読心の魔法か?


 でも、だってしょうがないじゃん!

 社長やってたら、絶対考え方こうなるって!


「アーヴィン社長、見た目だけならこんなに可愛いのに……」


 ティアラは自分の怪我をヒーリングで癒してから、俺の前に立って、俺の頭を愛おしそうになでてくる。


 ……そうか、お前も俺を子ども扱いか。

 でもちょっと、なでられて気持ちいいと感じてしまう自分が憎い。


「そうやって子ども扱いするなら、こっちも子どもの振りして抱き付くけどいい?」


 俺は自分の顔が赤くなっているのを自覚しながら、ジト目でティアラを睨みつける。

 アーヴィンのほうがティアラより若干背が低いので、少し上目遣いの形になる。


 しかしティアラはきょとんとして、


「えっ、いいですよ? むしろそれご褒美すぎるんですけど」


 とか言ってきた。

 えっ、マジで……?


「……本当にいいの?」

「はい、こっちとしては、願ったりかなったりですけど」


 ……あれ、あれあれ?

 何これ、貞操逆転世界?


 ……いや、違うな、これが容姿の力というものか。

 アーヴィンくん、鏡で見ても、自分でもびっくりするぐらいお姉さん好きしそうな美少年だもんなぁ……。


「そ、それじゃあ失礼して……」


 俺がそう言って恐る恐るティアラに抱き付こうとすると、ティアラがそれを静止する。

 そして人差し指を立てて、俺に説教してきた。


「違うでしょ。アーヴィン社長は、『子どもの振りをして抱き付く』って言ったんだから、そうしてください」


 え、ええー?

 何だその、謎のこだわりポイント……。

 まあ、別にいいけど……。


「わ、分かったよ……えっと……『わーい、ティアラお姉ちゃん、抱っこ~。ぎゅーっ』」


 俺はしょうがないので、何かこうテンプレっぽい子どもの振りをして、ティアラに抱き付いてみた。


 ……あー、うん、何だろう、お互いの鎧が邪魔なんだけど、でも何か気分はいい。

 それにしてもティアラの胸、大きいなぁ……ひょっとするとリアナさんより上かもしれない。

 あと運動した後の汗のにおいが、いい感じに……って、これ以上言うと変態的すぎて引かれそうなのでやめよう。


「…………」


 で、一方のティアラはというと、俺に抱き付かれたままの姿勢で硬直していた。

 抱き付いている俺からは、表情がよく見えない。


 ……あれ、ひょっとして、怒ってる?

 さっき言ってたの全部冗談で、俺、やっちゃった……?


 とか思っていたら──


「ふぉおおおおおおっ! アーヴィンくぅぅぅぅんっ!」


 突如ティアラは、俺にがばっと抱きついて、ぎゅーっと締め付けてきた。


 えっ、ちょっ……な、何だ……く、苦しい……!

 つかお前、どこにこんな力が……!


「アーヴィンくん可愛いよぉおおおおおっ! 社長それヤバイっすよ、マジヤバっす! それ売れますよっ! てか脱がしていいですか!? 押し倒していいですか!? はうぅぅぅううううっ、アーヴィンくぅぅぅぅんっ!」


 ……暴走したティアラは、恐ろしいケダモノだった。

 俺は好き放題に振り回され、抱き締められ、ちゅっちゅされて……


 そう、俺は後悔していた。

 目覚めさせてはいけない獣を、解き放ってしまったのだと……。


 もうお婿に行けないよ、俺……。


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