#1 もげた
最初、それがなんであるかを理解できなかった。朝、目覚ましとともに起き、体を起こす。ふと見ると、布団の上にそれはあった。
睡眠時間はしっかり取っているために、普段寝起きはあまりぼんやりしないものだから、珍しく今日は寝ボケてるな、などと思う。ぶっちゃけ混乱しているという事実に気付かないほどに混乱しきっていたのだ、多分。
俺のベッドの上に転がっていたのは、どこからどう見てもチ○コだった。男の象徴。男性器。ペニス。おちんちん。
あまりにも怖いもの知らずな行動かもしれないが、そのときの俺はわりと精神状態がハイだったので、なんとはなしに手に取ってみた。あまりにも生々しい感触。十八年間握り続けた相棒の感覚だ。自分のちん子だった。さすがにわかる。これは俺のちん子だ。十八年間握り続けたのだから、わかるに決まっている。最近入れるようになった大人のお店で売っている類のおもちゃではない。まるで生きているかのように薄く脈動している。
本来なら男性の股間にぶら下がっているはずのそれが、完全に独立していた。妙に温かみがある。本来なら体と繋がっているはずの部分、つまりは睾丸の裏を見てみると、まるで最初からそういう造形であったかのように、不自然に自然な丸みを帯びた肌色があった。
俺はその時、この日のことをチ○コ・インディペンデンスデイと名付けた。ちん子独立記念日だ。
ここで、そういえば自分のモノはどうした、と股間に手をやると、やはりない。前から入れた手が何も触らずに尻まで到達してしまった。かといって女になったのかと言われれば、そういうわけでもなさそうである。びらびら(隠喩)がないし、豆(隠喩)や穴(隠喩)があるわけでもない。
夏なのでズボンは履いていなかった。だからパンツだけを脱ぎ、まじまじと自分の股座を観察する。本来ちん子があった場所に、ちん子がなかった。陰毛がなにも守っていない。
いや、よく見てみると、俺の元から独立したちん子の裏側と同じようにつるりとした肌の真ん中に、小さな三、四ミリくらいの穴が開いている。肛門ではない。触ってみる。どう考えても膣ではない。となると尿道だろうか。
さっそくトイレに行き、試してみる。案の定尿道だった。一応トイレットペーパーで拭き、パンツを履き直して自室に戻り、布団の上に自分のちん子が転がっているのを再確認してから、俺は、ゆるりと意識を手放したのであった。
……言うな。
自分でも頭おかしいと思う←