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結構ある風景

「うーん、安いからって醤油や油纏めて買ったのは失敗だったかな」


 左右でガサガサ揺れるエコバックの重さにちょっと溜め息が出る。

 今日は特売だったからついつい買い込んでしまった。

 でも安く買えたしいっか。


 重さでちょっと痛い掌を無視して家までの道のりを急ぐ。

 急がないとハーフリムがそろそろ帰ってくる時間だ。

 鍵は一応持たせてはいるけれど、なるべくなら家に居てやりたい。

 スーパーで確認した時間を思い出してバッグを持ち直す。

 もう少し早足で、と思ったら前に大きな背中が見えた。

 真っ赤な髪を逆立ててのしのしと歩く姿は見知った後ろ姿だった。


 ……あれで僕より年下とか詐欺だよな……。


 彼の名前はティアドロップ君。

 いつもサングラスをかけているのには理由がある。


「うわっ!」


 不意に聞こえた声にそちらを向けばティアドロップ君の足元に何処かの子供が座り込んでいるのが見えた。

 何があったのかと周囲を見回してみればどうやら角でぶつかったらしい。

 座り込んだ子供がティアドロップ君を見上げて一瞬引き攣ったような顔をした後、火がついたように泣き出した。

 サングラスをかけててもこれだ。

 サングラスをかけてなくてもこうなるらしいんだけど。

 ティアドロップ君は後ろから見てるだけでも慌ててるのがわかる。

 慰めたいのに更に泣かれると思っているのか手を拱いているようだった。

 そんな二人の側に駆け寄りティアドロップ君の横でしゃがみ込む。


「大丈夫?」


 大泣きしてる子は一度僕を見てしゃくり上げた。


「どこが痛いのかな?」


 なるべく優しく聞こえるように、優しく見えるように微笑んで声をかけ続ける。

 頭をそっと撫でてやれば泣き声は小さくなったものの、ひくひくとしゃくり上げ続ける。


「あ」


 どうしたものかな、と悩むがそういえばさっきお菓子を買ったことを思い出した。

 エコバックを漁りお菓子を取り出す。

 突っ立ったままこちらを見下ろすティアドロップ君を見上げれば眉尻が下がっていた。

 一度立ち上がり手にしたお菓子をティアドロップ君の手に握らせる。


「えっ」

「これあげなよ」


 手の中のお菓子と僕を交互に見た後しゃがみ込むティアドロップ君に子供がびくりと肩を揺らす。

 僕もしゃがみ込んでにっこりと微笑む。


「やるから泣くな」


 ぶっきらぼうにお菓子を差し出すティアドロップ君と僕を交互に見た子供はおそるおそる手を差し出して受け取る。


「もう大丈夫?」

「うんっ!ありがとうお兄ちゃん!」


 笑う子供に胸をなで下ろし頭を撫でてやる。

 ティアドロップ君もほっとしたような雰囲気で、ちらりと見遣れば口元が緩んでた。

 子供の脇に手を差し込んで立たせてやれば手を振って走り去っていった。


「子供って現金だよねー」


 よっこいしょ、と立ち上がればティアドロップ君も立ち上がり頭の後ろをがしがしと掻き始めた。

 どうしたのかと見上げればサングラスの奥からこちらを見下ろす瞳と視線が交わる。


「助かった、ありがとう」

「いいえー、どういたしまして」


 ティアドロップ君は身長も高いしごついし顔つきも怖い。

 そのせいで子供に……いや、大概の人に怖がられやすい。

 確かにちょっとぶっきらぼうだけど、話してみると素直で優しいいい子なのだ。

 見た目で勘違いされやすいのが勿体無いけれど、知ってる人は知っている。

 まあ見た目のせいで余計な諍いに巻き込まれ撃退し、ここいら一帯を纏めるという副産物もあるが。

 高校の時ってそういうことあるよね。

 僕は関与したことないけど。


 面倒見もいいからティアドロップ君を慕う子も多いらしい。

 うちのハーフリムもティアドロップ君の裾を掴んでついて歩くことがあるらしい。

 これはティアドロップ君のお母さんに聞いた。

 兄さんの知らない所で何してるんだか。

 でも宿題を教えてくれたり遊んでくれたりと、ティアドロップ君が相手してくれるから懐いても不思議じゃないんだけどね。


「……買い物?」

「あ、うん。いっぱい買っちゃった」

「……持つよ」

「いいよー」

「気にするなよ、行くとこは一緒なんだし」

「あー……うん、じゃあ甘えてもいい?」

「ああ」


 そう言って微笑んでくれるティアドロップ君はホント第一印象だけで損してる。

 こうやって微笑んだ時はちょっと可愛い。

 ギャップってやつだなぁ。

 重い荷物も軽々と持ってしまうし、筋肉分けて欲しいぐらい。


「あ、片っぽは持つよ」

「いいよ、持てる」

「いやいや、申し訳ないから」

「気にするなって」

「気にするって」

「持てるって」

「僕も持つって」


 押し問答の末、なんとか荷物の一つを受け取り並んで歩く。

 ティアドロップ君よりひょろいけど、なんか扱いが女の子とか子供相手にされてるみたいで落ち着かない。

 まあ、仕方無いのかな。

 もう少し筋肉がつくといいんだけど、なかなかつかないし。

 悲しい……。


「……ハーフリムは?」

「へ?……ああ、もう帰ってくるんじゃ……あ、ハーフリム!」


 噂をすればなんとやら。

 ちょうどマンションの入り口に向かうハーフリムを見つけた。

 声を掛ければまだ大きいランドセルを揺らしてこちらに駆け寄ってくるハーフリム可愛い。


「おにーちゃん」

「おかえり、ハーフリム」

「ただいま」

「おかえり」

「ただいま、ティアおにいちゃん」


 ほわんと笑うハーフリム可愛い。

 可愛い以外認めない。

 陽の光で髪がキラキラと輝いて天使みたいだ。

 僕の顔が緩む。

 荷物を持っていない方の手を伸ばしてハーフリムと手を繋ぐ。

 ティアドロップ君との間にハーフリムが立ち、ティアドロップ君とも手を繋ぐ。

 手を繋いで三人が並ぶとハーフリムがとても嬉しそうだ。

 クソ可愛い。


「ティアおにいちゃん」

「ん?」

「あそびいっちゃう?」

「いや」

「ぼくとあそぼ?」

「ハーフリム、宿題してからね?」

「じゃあティアおにいちゃんとする」


 期待に満ちた目でティアドロップ君を見上げるハーフリムにティアドロップ君は微笑む。


「じゃあ食堂でみてやるよ」

「え、迷惑じゃない?」

「構わない」

「ごめんね、ティアドロップ君」

「大丈夫。飯まで時間潰せるし」

「ありがとう。僕も行くよ」

「ああ」


 嬉しそうなハーフリムに手を引かれてまずは荷物を置きに僕達の部屋へ向かう。

 ハーフリムの宿題を持たせて、待つと言ってくれる二人を先に行かせてしまう。

 冷蔵庫に買ったものをしまいながら小さく笑う。


 僕達が住むこのマンションは多世代交流をテーマに設計されたマンションだ。

 共有エリアが一階にあり、マンションの住人だけでなく地域の人もよく集まっている。

 子供達が集まって宿題をしたり遊んだり。

 シニアの方も集まって歓談したりと、誰かがいつもいる気がする。

 ハーフリムも楽しそうに友達と遊んでいる。

 僕自体は交流が得意ではないけれど、ハーフリムには良かったと思える。

 同年代との交流だけじゃなく、小さい子や年上との交流はハーフリムにはいい人生勉強になっているだろう。


 荷物を片付け僕も課題を手に食堂へ向かう。

 そこに居る人達に挨拶をしてハーフリムを探せば、ティアドロップ君と並んで宿題をしている姿が見えた。

 どうやら友達も集まってきていたようでティアドロップ君の周りに小さな頭がいくつもある。


「ありがとう、ティアドロップ君」


 後ろから声をかければサングラス越しじゃない力強い瞳が僕を見上げる。


「気にするな。見てるだけだし」

「それが助かってるんだよ」

「アンタも宿題?」

「うん、あっちでやるよ」

「おにーちゃん、しゅくだいおわったらあそんでいい?」

「勿論、気をつけて遊ぶんだよ?」

「うんっ」


 ハーフリムの頭を撫でてから少し離れた席に荷物を置く。

 宿題が終わった子達がはしゃぐ声をBGMに僕も課題を片付けてしまおう。


 気がついたら目の前の席にジュース片手に興味津々の二対の瞳があった。

 どうやら他の子達は帰ってしまったようだ。


「あれ?」

「あ、きづいた」

「もうそんな時間?」

「ああ」

「わー、ごめんね」

「んーん」

「今日はありがとう。ティアドロップ君」

「気にするな」


 晩御飯を作らなくちゃいけない時間をちょっと超えてしまったけど、課題がいい感じで進んだなぁ。

 拡げていた課題を手早く片付けて席を立つ。

 ハーフリムと手を繋げばティアドロップ君とも手を繋いでまた三人で並んで歩く。

 エレベーターの中で別れて家へと帰る。

 いやぁ、多世代交流ってありがたいなぁ。

登場人物の名前は眼鏡の形になります。

そしてそれぞれその形の眼鏡を掛けています。

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