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朝はこんな感じ

 ピリリリリ


 眠りを妨げる電子音が耳に届く。

 まだ眠いのに……。

 仰向けで寝たはずなのにどうやら俯せになっていたみたいだ。

 ちょっと息苦しい。


 ピリリリリ


 目覚まし時計代わりのスマホが鳴り続けてる。

 動くのも億劫だけど煩い。

 どこにスマホ置いたっけ……。

 ぼんやりと目を開けてのろのろと腕を動かす。

 ベッド脇にテーブルがあってそこに置いた気がするんだけど……。

 顔をそちらに向けてみるけれど視界がぼやけててよくわからない。

 腕を伸ばしてテーブルの上を漁れば何かが床にカシャン、と音を立てて落ちた。


「あ、やべ」


 今のはきっと眼鏡だ。


 ピリリリリ


 うーん、煩い。

 眉間に皺を寄せながら体を起こしとりあえずスマホっぽいものを手に取れば間違えてなかったようで、アラームを止める。

 うん、静かになった。

 テーブルにスマホを置いてから背中を丸めて床を見つめる。

 目を細めて落ちた眼鏡を探せばベッドの側に落ちていた。

 これは先に探して良かった。

 足を下ろしてたら絶対踏んでた。

 眼鏡を拾って壊れてないか確認すれば何ともなさそうで胸を撫で下ろす。

 眼鏡を掛けてぐっと背伸びをすればちょっと頭がスッキリした。


「朝ご飯作らなきゃ」


 目に掛かる前髪を掻きあげながらのそりとベッドを下りて部屋を出る。

 リビングは薄暗く電気を点けてカーテンを開ける。

 まだそこまで明るくない空だけど今日は晴れそうだな、なんて思いながら台所へ向かう。

 朝ご飯と父さんの弁当のおかず用に下拵えした諸々を冷蔵庫から取り出す。

 台所にいい匂いが漂って自分のお腹が空腹を訴えてくる。

 付け合わせ用のトマトを摘みながら朝ご飯と弁当を詰め終える。

 テーブルに三人分の朝ご飯と詰め終えた弁当を置いて時計を見ればいい時間になっていた。


「朝だぞー、起きろー」


 父さんの部屋に入れば毛布がこんもりと膨らんでる。

 声を掛けただけじゃ起きないのはいつものこと。

 気にせずに毛布を剥ぎ取れば横向きになっている父さんと、そんな父さんにくっついて丸くなってる弟が目に入る。

 そろそろ暑くなる季節なのに、こんなにくっついてて暑くないのかな。


「ねえ、朝だってば」


 軽く父さんの肩を叩くけど唸るだけで目が開く気配がない。

 父さんはなかなか起きない。


「ねえ、朝だって、起きて!」


 べしべしとこちらの手が痛くなるぐらいの強さで肩を叩いて漸く身じろぐとか。

 寝穢いと言われても仕方が無いよ、父さん。


「あう……あさ……」

「ん、朝だよ」


 父さんは起きないけど弟の方が先に起きる。

 これもいつものこと。

 そりゃ横で大きな声出されてれば起きるよね。

 起きない父さんが変なんだよ。


「おはよう、ハーフリム」

「おはよ……」

「ご飯出来てるから顔洗っておいで」

「ん……」


 目をぐしぐしと擦りながら頷く弟超可愛い。

 父さんを踏み越えてベッドを下りようとする弟に手を差し伸べて手伝ってやる。

 踏まれても呻き声も上げない父さんは強者だと思うよ、うん。

 部屋を出る弟を見送って再び父さんを叩き起す。

 文字通り叩いて起こした。


「おはよう、父さん」

「ああ……うん……」

「早く起きて。遅刻するから」

「あー……うん……」

「ほら、寝ないで!」

「んー……」


 俺だってまだ寝てたいのに。

 そんな恨みを込めて容赦なく父さんを揺さぶる。


「とーさぁん」

「おきた、おきたー」

「ホントに?二度寝してたらもう起こさないよ?」

「えー」

「えー、じゃない。ほら、起きて」

「ん……」

「おはよう、父さん」

「おはよー」

「ハーフリムももう起きたんだし、父さんも早く準備してよ?」

「んー」


 ごろりと寝返りを打って仰向けになった父さんのおでこをぺちりと叩いてリビングへ向かう。

 後ろから聞こえる恨めしそうな声は無視だ。

 リビングでは弟が椅子に座ってぼーっとしていた。


「先に食べてて良かったのに」

「いっしょがいいー」

「そうだなー、んじゃあ食べよっか」

「うん」


 僕が座れば弟が手を合わせる。

 同じように手を合わせてやっと朝ご飯だ。


「いただきます」

「いただきますー」


 二人でご飯を食べてると漸く父さんがリビングに来た。


「おはよう、ハーフリム」

「おあおー」

「こら、食べながら話さない」

「……………ん、おはよー」


 素直な弟超可愛い。

 別にブラコンじゃないよ、多分。

 父さんも席について食べ始める。


「今日は父さん遅いかも」

「そうなの?」

「うん、会議あるかもしれないから」

「わかった。でも家でご飯食べるよね?」

「うん」


 うちは母さんがいないから家事はもっぱら僕の仕事だ。

 面倒だけど弟はまだ小さいし父さんは仕事があるから仕方ない。


 僕達は父さんの転勤で数ヶ月前に越して来たばかり。

 父さんの仕事は公務員としか知らない。

 あんまり気にしたことがなかったから聞く機会を逃しっ放しだ。

 見た目は優しそうで雰囲気もどこかのほほんとしてるけれど、これが意外とがっしりとした体つきなんだよね。

 僕と似た眼鏡をしてるんだけど、この眼鏡が雰囲気に拍車をかけてるのかもしれない。

 柔道と剣道で何か賞状があった気がするんだけどどこにやったかな。

 僕も父さんも所謂平凡、って感じ。

 茶色の髪に同じく茶色の瞳。

 くせっ毛で寝起きの今は毛先があっちこっちに跳ねてる。


 弟は小学生。

 つい先日七歳になったばかりの一年生だ。

 転勤の話も学校に上がる前に、って言って三月はバタバタしたものだ。

 今の所弟も学校を嫌がる素振りも見せずほっとしている。

 僕や父さんよりも髪がふわふわで寝癖なんだかセットしてるんだかわからないぐらい。

 ちょっと羨ましい。

 僕は水で濡らして直さないと寝癖だってすぐわかるから。

 目がくりくりとしてて、ぱっと見だと男の子か女の子かわからないぐらい可愛い。

 ちょっとぼーっとしてるっていうか、おっとりしてる。

 可愛いよ。


 僕は元々この近くの大学に通うことになってたから逆に大学が近くなって有り難かった。

 電車で通う時間が短縮出来たから家事をする余力がね。

 父さんの稼ぎで生活出来るからバイトより家事、って感じで主夫みたいだけど。


 朝ご飯を食べ終えると食器をシンクに置いて洗濯機を回す。

 部屋に戻って服を着替えたら次は弟の準備を手伝う。

 といっても弟も自分で出来る年になったし仕上げだけだけど。

 その間に父さんは仏壇に手を合わせてる。

 着替え終わった僕達も父さんの後ろに座って手を合わせる。

 飾られた母さんの写真は父さんがちょくちょく変えてる。


 今日も父さんとハーフリムに何事もありませんように。

 宜しくね、母さん。


 着替えた父さんと弟が出るのを見送ってから食器を洗う。

 冷蔵庫の中身を確認して買い物リストを手早く書き上げていると洗濯機に呼ばれるから洗濯物を干してしまう。

 簡単にだけど掃除機をかけていると時間なんてあっという間。

 鍵と財布とスマホは必需品だから忘れないようにして、身だしなみを整えたら漸く僕の支度も完了。


 これが僕の朝。

 戸締まりを確認して僕も大学へとレッツゴー。

 近い分朝に家事が出来るから楽になったなぁ、なんてしみじみしながら歩いているとご近所さんと鉢合わせ。

 ご近所さんって言っても同じマンションの住人でお隣さんなんだけどね。


「おはよー」

「おはよう」


 お隣さんのブロウバーは何ていうか隙がない感じの男だ。

 ストレートの黒髪が風でさらさら揺れてて、和風な雰囲気を醸し出してる。

 僕より身長が高いから見上げる形になるんだけど、下から見てもブロウバーは多分イケメンに分類される男だと思う。

 羨ましい。

 ご近所さんの話を聞く限りでも、文武両道なブロウバーは多分イケメンなんだろう。

 羨ましい。

 大事なことなので二回言った。

 眼鏡のレンズの上部がバーになったタイプの眼鏡をかけてて、きりりとした目つきが更に強調されてちょっと近寄りがたい雰囲気があるけれど、何ていうかオカンタイプだ。

 オカンは羨ましくない。


 引っ越しの挨拶でお隣さんに伺った時にたまたま僕の通う大学の話になったんだけど、それを聞いてたブロウバーが道案内を申し出てくれたりした。

 子供じゃないんだけどね、僕。

 弟の話になった時も集団登校の班長さんを調べてくれて一緒に挨拶に行ったり。

 これは有り難かった。

 僕の寝癖を直してくれたりもする。

 ハンカチは持ったか、忘れ物はないかと声をかけてくれたりもする。

 今日はスーパーで何がお買い得とか知ってたり。

 始めはおばさんがうちの事を知ってブロウバーに言ってたらしいけど、今じゃあブロウバーが調べておばさんに教えてるらしい。

 うん、オカンだと思う。


 大学までの道のりはブロウバーのお得情報を聞く時間になってる。

 今日は卵が安いらしいからオムライスでも作ろうかな。

 そんな話をしてたらもう大学に着く。

 さて、今日も一日頑張りますか。

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