乙女ゲームみたい(笑)チャラ男会計の場合
勢いで書きました。
「俺のかわいい子猫ちゃん」
その廊下を通った瞬間。聞こえてきた言葉に会沢ひまりは思わず
「ぶっ」
笑ってしまった。
「何?どうした?どうした?いきなり笑って~」
「いやいや、ごめんね~。あまりのことに思わず口から空気が漏れてしまって~」
「ああ、さっきのねえ~」
ひまり達は口元を抑えるが、抑えきれなかった笑いが口から洩れていた。
「そうそうさっきの~!ねえ、さっきの聞いた?ねえ、聞いた!」
「ぷぷ。聞いた、聞いた!」
「マジ笑える!ぷぷ!『かわいい子猫ちゃん』だって!心底笑えるー!!普通ありえなくない?」
「ぷぷ。そうだよねえ。まじありえねえーって!」
「だって、ここ学校だよ?しかも、公衆の面前だよ~」
例の転校生と愉快な仲間達(笑)の一人が戯れていたのだった。ようは人目をはばからず、いちゃいちゃしていたのだった。
「うんうん。まあ、百歩譲って、誰もいない所で、二人の世界ならまあ、ゆるせるっちゃあ、許せるけどさあ、その発言自体耳に入ってくることないしね~けど、ここ廊下だよ!人がいるし~」
「子猫ちゃんって、子猫ちゃんって!!」
「お前はホストかって!」
「いやいやいや、ホストさんは、ちゃんと場所を考えて言っていると思うよ。現実受け止めて、夢の世界を提供しているだけだよ!ちゃんと仕事って割り切っているからあんな、こっぱずかしい言葉も、言っているんだよ!現実じゃそうそう、言う人いないって!」
「言う人いたねえ~」
「そうだね、いたね~」
「乙女ゲームでは聞くけどねえ~」
「あれは二次元だし、現実じゃ、まずお目にかかれない世界だからねえ~」
「近頃それに近い状態にあるけどねえ~」
近頃、校内で見る、転校生と愉快な仲間達(笑)の事である。
「だからって、あれはないでしょう!」
「まあ、顔いいからまだ許せるのかもしれないけど・・・?」
「いやいやいや、そうでもないかもよ?現に思わずうっとりじゃなく思わず失笑してしまったし?心中では爆笑だし!」
けらけら笑いながら、彼女たちの笑いはなおも止まらない。
「乙女ゲームじゃないんだから、現実では痛いよね~」
あいたたと笑顔で、言った本人の心臓を抉る。痛恨の槍を放ってくる。
「確かに言われてみたいかもだけれど、現実では言われた瞬間、爆笑して笑い転げるね!」
「同感~」
「それに、言っていること自体、自覚してない所が、やばいよねえ~」
「そうそう、こういうのって先々で黒歴史になるしね~」
皆、うんうんと同意する。
「まあ、私たちはこういう発言している時点でやばいけど、まあ、自覚しているし、ぜったい先々で黒歴史決定なオタクだからまあ、しょうがないけど、一般の人が、あの発言は、ぜったい先々で、思い出してはのたうちまわるよ~」
「なるね~」
「いやいや、分からないよ~一生痛い発言だって気づかないのかもしれないから、言い続けるかも~あーそれもまた痛い・・・」
「聞いている方が、その内泣きたくなるかもしれないねえ~」
「そうそう、早く気づいて!って感じで」
そして、彼女たちは過ぎていく。
相も変わらず、爆弾という発言を、チャラ男会計に痛恨の一撃を弾丸のように降り注ぎながら・・・。
チャラ男会計は過ぎていく女の子達の後姿を、魂が抜けたようにして見つめていた。
この間に続き、今回の、何気ない会話。
自覚しよう。もうどうしようもない。
自分は痛い発言をしているらしい。
確かにくさいセリフを吐いている自覚は漠然とあった。
けれど、言い寄ってきた女達は頬を染めて喜んでくれていたはずだった。
けれど、よくよく思いかえしてみる。
自分を好きそうな人間は頬を染めていた。それは、自分が整った顔を、体を近づけていたからなのかもしれない。
そして、自分を好きそうではない人間は、心底いやそうにしていたが、甘いセリフを吐くと、どこか口の端がひきつっていることがあった。
まさか、笑いをこらえていたのだろうか・・・。
周りを何気なく見てみる。
すると、口元を抑えて、視線が合わないように慌てて逸らされる。微かに口を押さえている手や肩が震えている。
「・・・。・・・。・・・」
痛い。痛すぎる・・・!!
どうしよう、自覚した。自覚してしまった!
恥ずかしい。心底恥ずかしい!どこか穴があったら、地底の底まで入ってしまいたい!
ああ、のたうちまわりたい!うわぁー!!
今日も今日とて、会沢ひまり達は愉快な仲間達(笑)の一人を現実に戻したのだった(笑)
現実とはまさに残酷である。
けれど、残酷でもそれでも現実は存在していて。
乙女ゲームの世界だろうとそうでなかろうと、現実は過ぎていく。
今日も今日とて絶好調な会沢ひまり達は日常を謳歌している。
オタクな毎日を前世もそして今生も変わることなく生きている。
たとえ、ひまり達の会話で、チャラ男会計をなんだか奈落の底に叩き落としたとしても。
明瞭な自覚は、痛い現実を突き付けて・・・。