OS
前回名、思わせぶりなあとがきを書いてしまいましたけど……間に合ったああああ
オークス家、食卓。
主婦であるルリが料理を机へと並べていく。
オークス一家3人と下宿人、そして不審者が一人卓に着いていた。
「なぁ、サリナ」
食事に手を付けながらアドウが問う。
「なぁに、動の賢者の……おじいちゃん?」
「グっ……。それはもう勘弁してくれ。
それはそうと、あの娘っ子は誰だ?」
クリュウの横に座る不審者こと、ドレスに身を包んだ見た目10歳前後の少女を指差す。問題の少女は小首を傾げるとアドウに向かって笑顔を浮かべた。
「やぁねぇ、」
ルリがそういう。
「動の賢者のお義父さん。もう前からいるじゃない」
「ルリさんまで……勘弁してくれ」
ルリは、アドウから見れば嫁養女なのだがこうしてアドウに対して皮肉まで言うことが出来るざっくばらんな性格をしていた。
アドウはガックリと落ち込んだ。だが、アドウが疑問に思ったこと自体サリナも気になっていたことだった。
「で、この前は聞きそびれたけど結局どこで拾ってきたのよ」
サリナはそれを下宿人であるクリュウに聞く。
「だからそれは、前も言ったじゃん。HSAかれ出てきたんだって」
それ以上はクリュウ自体も知らなかった。いろいろ訪ねる前に問題の少女がルリに攫われて行ってしまったのだから。
4人の視線が一斉に問題の少女……メーメへと向く。
「ふふふ、とうとうメーメの正体を明かすときが来たのですね」
その瞬間アドウの目に光が灯った……。
だが、サリナに睨まれると、
「…………」
口を閉じ、動の賢者が現れることはなかった。
「はいはい、御託はいいから。アナタにも帰る家があるんでしょう」
目の前に年端もいかない少女である。だから、そういう場所があって当然だとサリナは思った。
「帰る場所……なのですか? メーメの帰る場所は、ごしゅじんさまのいる所なのですよ」
サリナが冷たい視線でクリュウも睨む。
「メ、メーメ。そのご主人様っていうの止めろ!!」
まるで犯罪者でも見るような視線にクリュウは耐えられなく、そう言うしかなかった。
「うーん、そう言われてもなのですよ。一応、"マスター"という呼び方もあるのですよ」
「それ、それにしてくれ!!」
クリュウはそれに飛びついた。
「了解、なのですよ」
メーメはそう言う。
するとメーメは、力を失うように机に伏した。
「お、おい!」
あまりに突然のことでクリュウは驚く。
「う、うん」
メーメから熱い吐息が零れる。
「ま、マスタ~」
「どうした!?」
その顔は上気して、頬は赤く染まっていた。その変化があまりにも突拍子もないことでクリュウはあたふたとする。
「マスター、マスターぁあ。早く、早くぅメーメに、メーメにご命令を……そうしないとメーメはァ……」
呼び方を変えさせたことと関係があるとでもいうのだろうか。突然メーメは熱のある吐息と潤んだ視線で蠱惑的にクリュウを誘う。
クリュウの犯罪度が更に上がる。サリナがクリュウに向ける目つきが更に冷たさを増す。
「やめ、やめて。元に戻して!!」
「はい、ですよ。ごしゅじんさま」
メーメの口調は瞬時に元に戻る。
まるで、コイツ狙ってたんじゃないか、とクリュウは勘ぐってしまう程だ。
だがメーメは屈託のない笑顔をクリュウに向けるだけであった。
「で、漫才はいいとして、アンタ結局何なの?」
「メーメは、奏でる者――"オペレーション・シンフォニアン"と呼ばれているのですよ」
オペレーション・シンフォニアン……クリュウとアドウ共に聞いたことのない言葉であった。
サリナは学生ということもあり、その綴りを手に書いたりしている。
ルリに関してはそんなことまったく関せずに食事をメーメの口へと、親鳥が雛に餌を与えるように……目がハートになっていた。
「これ、略すと"OS"になるわよね」
サリナがそういう。
「略されてそう呼ばれていたこともあるのですよ。それにしても、おかあさま? 確かにおいしいのですけど、メーメはもう少し……こう黒くなるまで焼いたほうが好きなのですよ」
「あらあら、メーちゃんはウェルダンのほうがいいのね」
目の前の料理はステーキではなく、卵焼きであった。
「ちょっと待て!! "OS"ったらHSAに積む"オペレーション・システム"――ライナーの飛走を支えるプログラムのことじゃねぇか」
さらりと料理の話へと流れそうになった話題をアドウは引き戻す。
「システムというのは気に入らないのですが……あながち間違いではないのですよ。作られたというのとライナーを支えるという点では」
「は? 作られた!?」
目の前のメーメはどこからどう見ても少女にしか見えない。
「それに、お前が"OS"ってことはオレと一緒に乗るとでも言うのか?」
「そりゃそうなのですよ。というよりも、ごしゅじんさまはメーメ無しでどうやって"D5I4q5"――《ディーゴ》を動かす気なのですか……まったく」
やれやれとメーメは肩を竦める。
目の前の少女が語る、自称作られたということですら信じがたいのに、更に彼女は一緒に自分を乗せろと要求している。
「あー頭が痛くなってきた」
HSAに長く関わってきたアドウは次々と語られる、信じられないことに耐えられなくなり席を立つ。
「後は好きにすれや」
そう言い残して。
「あ、私も今日宿題があったんだった」
サリナまでもがそれに関わらないようにと、去る。
後に残ったのは、クリュウとメーメとルリ。そのルリも皿を片付けに台所へと行ってしまった。
「と、言うわけで末永くよろしくお願いしますなのです、ごしゅじんさま」
「つまり、どういうこと?」
頭が混乱したクリュウは、虚空に向かってそう尋ねるしかなかった。
「という訳で、《ディーゴ》の"OS"です」
「メーメなのです。皆さんよろしくお願いしますなのですよ」
皆これは、何の冗談だ、という顔で静まり返る。
(やっぱ信じてもらえないよなぁ。というかオレも未だに信じられないし)
その静寂を破ったのは、やはりあの人物であった。
「んっフフフフッフ、ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ」
普段は一言も話さないくせに、一つスイッチが入ると不気味なぐらいに喋りだす、その声の主はウエマーであった。
「ヒヒヒヒヒヒ、フフフフフん」
ウエマーは、腹を抱えて笑う。周りが静まりかえる中その光景は実に奇妙であった。
「ヒヒヒ、クリュウ君はまったく……いつもヒヒ、僕を笑い殺す気かい? ヒヒ」
笑っている本人は、いたって可笑しそうであった。
クリュウは静まり返るほどおかしなことは言ったつもりであるが、爆笑されるほど可笑しいことを言ったつもりはなかった。
「ヒヒヒッヒ、まったくどうしてそう君の中で結論付けられたか、ヒヒヒ、是非とも僕に教えてくれよヒヒヒ」
クリュウは昨日出た話題とメーメが《ディーゴ》の中にあったカプセルから出てきたことを、その欠片も持ってきて説明する。
「ヒヒ、それじゃあ、仕方がない。メーメさんは"OS"なのだろうヒヒ」
この説明で納得するの?、と誰もがウエマーにツッコミを入れたくなった。
「クリュウ君もメーメさんも嘘をついてないだろうヒヒ。ヒヒ、それにこんな嘘を付いたって意味がないだろうしね」
対して、ウエマーは、破顔する。
「ヒヒヒ、皆納得いかなそうだねヒヒ。そしたら、"OS"の性能試験の機械にでもこのいたいけな少女を掛けようじゃないかヒヒヒ」
ウエマーはそう提案した。
「ふーん。で、結局結果はどうだったの?」
「それが……並みの"OS"以上の結果をはじき出してさ」
アドウ家の居間。食後クリュウとサリナはそこで談話していた。
近頃、はそれほど邪険に扱われることもなく普通に会話が出来るほどになっていた。
「ふ~ん。よかったんじゃないの?」
サリナは興味なさそうにそう言う。
会話もクリュウが一方的に話すことが多いのだが、それはサリナがHSAのことが嫌いなので仕方ないとクリュウは割り切っていた。それでも聞いてはくれるし、こうして話しているうちにHSAを好きになってくれれば、という下心もあった。
「ふーん」
サリナは適当に相槌を打ちながら、雑誌をめくる。ページをめくったり、戻ったりと繰り返している。
「そんなにその記事面白いの?」
なんども同じ所を読んでいるようなので、クリュウも気になり尋ねる。
「へ!? いや、面白く……なんてないわ……よ」
珍しくサリナにしては歯切れが悪い。
「そうなんだ。さて、」
いつまでもHSAの話ばっかりしては悪いし逆効果だと思い立ち上がる。
「ま、待ちなさい」
サリナが静止する。
「こ……これ」
そう言いサリナは、何度も眺めていたページを見るように促す。
そこには、
『スカイレイル・カップ開催
ランク問わず。ただし、機乗するHSAはカスタム機(所有者が手を加えてあるHSA)であること。
試合はトーナメント方式で行い。トーナメント勝者にはエキシビジョンで大会主催者と2RBを行う権利が与えられる』
とあった。
「これ……本当かよ!!」
クリュウは目を疑う。参加資格もカスタム機であるという点を除けばとても敷居が広い。現2RB環境において大企業の売り出したHSAをそのまま乗るという傾向が強いのだが、クリュウの《ディーゴ》はそもそも原型が分からなく直しているものなのでこの条件は満たしている。
「サリナちゃん……」
「な、なによ……」
見つめられてサリナは動揺する。
まだ、HSAも2RBも嫌いなのに、とクリュウは感極まってしまう。
「べ、別にクラスの連中が話題にしていただけよ、アンタの為なんかじゃないわよ」
「じゃあ、HSA嫌いじゃなくなったんだね」
「き、嫌いよ!! 大ッ嫌いよ!!」
サリナは雑誌を投げるように床に叩きつけると、居間から出て行ってしまった。
女心が分からないクリュウには、サリナがこの記事を教えてくれたことも怒った理由も分からなかった。
クリュウはこの記事を教えてもらった後、アドウの元へと急いだ。
この2RBに出ると決めたことを報告するためである。
「……」
アドウは雑誌を見つめる。
「オレでも出られるだろ。コレ」
大会の日にちも《ディーゴ》の修理が終わる見積もりから見ても悪くはなかった。
だがアドウは渋い顔をしたままであった。
「オメエ……これに本当に出るのか?」
「なんか問題でもある?」
アドウの質問の意図が分からない。
「こいつは、ただの金持ちの道楽試合だろうが。エキシビジョンなんか設けて、わざと負けさせて自分が強いことをアピールしたいだけにしか見えん」
これは私設大会では良くあることである。賞金をつかませて、エキシビジョンで負けさせて自分の強さを見せる。ようは貴族の遊びである。
だからアドウは、2RBという用語を使わない。誇りも意地も情熱もないそのようにアドウの目には映った。
対してクリュウには、そういった貴族の意図もアドウが軽蔑する意味も理解できない。クリュウとしては、2RBに出て、飛走る、そして勝つ。それが全てであった。
「くーちゃんいる?」
ドアをノックしてルリが現れる。
「くーちゃん宛てにこんな手紙が入っていたんだけど」
その手紙には差出人の名前が無く、疑問に思いながらも中を開く。
そこには、
「スカイレイル・カップの招待状?」
話題にある2RBへの招待状が入っていた。
1週間で3話、ネタはあるけど書くのが辛いです……日々の積み重ねが大事としった呉璽立児です。
私、テキストエディタで書いていて、どれだけ文量を書いたかを容量で図っています。
今回の話実は、3KBでこの後にまだ続く予定だったのですが、気がつけば10KBに……。
この辺の配分が出来てないあたりが……まだまだですね。
では今回はこの辺で。できれば沢山の人にこの小説が目に留まることを願って。
変な所の改行を修正しました