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スタート

『ライナー達よ、己がマシン、己が技術で勝利を掴みなさい!!』

 貴賓席からのアイザによる一声で、スカイレールカップは幕を開けた。

 開会式には、出場する8機のHSA(ハイサ)が全て並んだ。

 SCはこの8機によるトーナメント方式で行われることになる。そして、このトーナメントの勝者がエキシビジョンへと進むことが出来る。

 この並んだ状態はパドックという。2RBはただのスポーツではなく賭博でもある。観客はここに並んだHSA(ハイサ)を見て一試合ごとの勝者、大会の勝者を選択する。目が利く者であれば見た目だけでその戦い方を看破するであろう。

 その中でも一際目を引くHSA(ハイサ)がある。

 漆黒の塗装を施し、胴体に大砲のようなシルエットを持つ重量感があるHSA(ハイサ)――クリュウが駆る《ディーゴ》である。

 歩くたびに地響きがしそうな見た目、風を切る流線型とは程遠いフォルムを見た観客の一人は、

「ありゃあ、見るからにハズレだな」

と漏らした。

 ライナーの情報を見れば、

 まったくの無名の新人である。

「誰がアイツに賭けるんだ。ププ」

 クリュウたちは観客の冷笑を誘っていた。



「……」

「……」

「デオさん?」

「なんだぁ……」

 デオとロドは本日非番であり、他にも休みの守備隊仲間と共に観戦に来ていた。

「あれ……"大筒"ですよね? 」

 暗闇ではっきりと見えなかったとはいえ、あのシルエット、モノライトは見間違えするはずも無い。

「間違いねえな!」

 デオが咥えていた煙草がひしゃげる。

「おい、デオ。オメェはどいつに賭けるんだ? 」

 デオの同期の一人が肩を叩く。

 デオとロドの前には新聞が開かれる。

 順当に行けば、開催試合毎に付けられる番号で言うと、3番のライナー・ワミが駆る《テンウィン》か8番であるヴァインという名の賞金稼ぎが乗る《オーツク》が本命である。

 ワミは、典型的な優等生的2RBテクニックで徐々に功績を上げて来たBランクライナーだ。SC出場ライナーの中では最もランクが高い。

 それに対して賞金稼ぎのヴァインは、悪名が高い。資料上の戦跡はそれほどでもないが、野良試合を加えれば、勝率は計り知れない。

「それにしても、あの4番は駄目だな。あんなのに賭けるのはよっぽどの物好きくらいだろうぜ」

 その一言で爆笑が巻き起こる。

「アイツに負けるHSA(ハイサ)乗りがいたら、そいつはHSA(ハイサ)から降りたほうがいいぜ。クックク」

「ああ、俺はアイツが勝ったら、魔油液をジョッキで飲み干してやってもいいぜぇ。おい、誰か賭けろよ」

…………

……

「言ったな……」

 デオが新聞を握りつぶす。

 その気迫は、近年誰も見たことのない物だった。

「来い!!」

「ちょ……デオさん!?」

 デオはロドの首根っこを捕まえて、窓口まで連行する。

「4番に全財産!!!」

 ドン!と卓上に札束を叩き出すデオ。

「な、なんで僕まで」

 泣きながら、大金を無理やり出されるロド。

 その二人の蛮勇行為を端から見た物は、「正気じゃない」「おい、馬鹿だ、馬鹿がいるぞ」「背中が煤けて見えるぜ」とか揶揄された。



「ヒヒ、随分な言われようだね」

「当たり前だろ」

 ウエマーとアドウは話す。

「その割には、随分と払ったじゃないかヒヒ」

「はん……あれは香典みてぇなもんだ」

 アドウは顔を背けながら半券で顔を仰ぐ。



「悪りいなぁ、クリュウ。俺様は金が欲しいんだ」

 タヌキは一人本命に賭けた半券を見てそう呟きほくそ笑む。



「お母さん、アイツの試合まだ?」

 サリナは自宅でテレビの前にいるルリに尋ねる。

「まだよー。くーちゃんの2RBは二回戦よ。まだ始まってもいないわよ」

 サリナは先程から落ち着かなそうにテレビの前を行ったり来たりしている。

「そんなに応援したいなら、会場に行けばいいじゃない」

「ぶっ! 別にそんなこと無いわよ!!」

 サリナは一目散にいなくなる。

 ルリはまたすぐに来るだろうとテレビに視線を戻した。



 そしていよいよ、一回戦が始まる。

『ゴオオオ!! シフトカラーズ!!』

 MCのアナウンスと観客の歓声と共に2RBが始まる。

 そして一回戦が始まる。

 戦いは1ホワイトバードと2オペーアの2RBだ。

 速度重視の《ホワイトバード》がスタート直後、前を行く。

 二機のHSA(ハイサ)は既に海上へと飛走(はし)り去っていった。

 観客は戦いが映される大画面に釘付けとなる。

 その中クリュウは、大画面ではなく二機が描くスカイレールを見つめる。スカイレールの軌跡はHSA(ハイサ)の戦いの軌跡そのものである。

「それにしても、無意味な改造してるなあ」

 クリュウの横にいる、青年がそう分析する。

「無意味って?」

 クリュウがそういうとその青年がこちらを向く。

「見てみなよ、あの1番」

 クリュウが拡大された大画面を見る。

 高速で飛走する《ホワイトバード》が一瞬宙に浮いた。

「機体が軽すぎるんだよ。あんなHSA(ハイサ)じゃ、小突かれた瞬間に落ちるのが山だね」

「そんなものか? 」

 HSA(ハイサ)のセッティングは自分が望んだ最高の2RBを行うためにギリギリの改造を施すものだ、とクリュウは思う。

「ギリギリの改造なんて今更流行りもしないよ。HSA(ハイサ)の改造は緻密なバランス設定をして、妥協しながら行う物さ。ほら見なよ、ちょっと接触しただけで……」

 《ホワイトバード》がグラリと浮き上がる。

 だが、なんとか姿勢を持ち直す。

「テクニックは確かにあるね。あれなら、無改造機に乗っても2番には勝てるんじゃないか?」

 試合は危なげない場面が多いが《ホワイトバード》が優勢だ。

「第一、EoM(エオム)無しであそこまでスピードを出す必要があるなんて、僕にはとても思えないね」

 青年はそれに、「まぁ」、と補足する。

「重過ぎるよりは、軽すぎるほうがマシだろうけど」

 用は皮肉だった。

 これには、いくら鈍い、鈍いと言われているが、HSA(ハイサ)がらみということもあり、クリュウも気がつく。

 カチンと来た。

 だが、戦意丸出しなのはクリュウだけだ。青年はその気迫をさらりと受け流す。

 喧嘩は空でやればいい。クリュウは《ディーゴ》に残したメーメの様子を見に戻る。

「まったく、次の相手の試合を見ようともしないとは……これだから、新米ライナーは……」

 まぁ、初戦が勝てる相手で良かったと、青年・ワミは安堵する。


 クリュウにとっては次の相手も大事だが、《ディーゴ》のことも気に掛かる。熱くなりかけた気持ちを落ち着けながら、メーメの元へと向かう。

「どうだ、調子は?」

 そうクリュウが問うとコックピットの下からメーメが煤けた顔を出す。

 《ディーゴ》は他のHSA(ハイサ)とは違い、走る前にエンジンをかけるのではなく常に炉に火を灯しておかなくてはならない。

「素材が悪いのよ。煙ばっかり出るのよ」

「それならそれでいいんだ」

 クリュウはタクティクスを練る。戦況は合わせる物じゃない、自分で作る物だ。クリュウはそう思っている。

 《ディーゴ》は確かにじゃじゃ馬だ。だが、そのコンディションによって戦い方は如何様にも存在する。乗りこなせる程の腕と、それを管理するOSがそろっていれば、《ディーゴ》は勝てるはずだ。ようは自分次第だ。クリュウは自分自身に渇を入れた。

 


『Winner!! ホワイトバァアアアアド!!』

 MCが盛大に勝者を伝える。

 勝利の余韻も引かぬ間に第二回戦のアナウンスへと移る。

『2回戦は、Bランクライナー・ワミの《テンウィン》VS(バーサス)無名の新人Cランク・クリュウが乗る《ディーゴ》の2RBだあああ!!』

 大画面では機体の外にいるワミがアピールをしていて、そのまま《テンウィン》に乗り込む光景までが映される。

 会場に大歓声が沸く。

 続いて《ディーゴ》が映ると、ブーイングとまでは行かないがパラパラとしたお世辞程度の拍手しか沸いてこない。

『では現在手元に入っている、各機のプロフィールだ!

 《テンウィン》はクロバ工業の《283系》をデフォルトに、ファクトリー・ニッスイのペンデュラム機構を搭載、EoM(エオム)はあの有名EoM(エオム)開発会社OUNYが作成している。更に、整備とメンテナンスは、これまた有名なピーアが行っている。2RBだけでなくHSA(ハイサ)も隙がないぞ、ワミ!! 』

 MCは名だたる大企業の名を連ねる。

『それに対して、《ディーゴ》…………な、ななななああんとお!! 整備、メンテは、あのオークス工房だ!!』

 オークス工房といえば、小いさな工房とはいえ人の記憶に名を残した幾つものHSA(ハイサ)がある。近年ではやはり、アイザのHSA(ハイサ)達であろう。

 会場にどよめきが起こる。

『続いて基礎HSA(ハイサ)…………じゃなくて、修理? 復元? 珍しい項目だがこれには…………とりあえずものすごい人数の名が書かれているぞ!!』

 MCは割愛する。

 これには、

「馬鹿野郎!! 名前を呼びやがれ!」

「ふざけんじゃねえ」

と、いった数人による野次が飛んだ。

『そして、EoM(エオム)は…………おいおいこれは本当なのか? MADなことで有名なMr.ウエマーの名が書かれているぞ! 』

「おい、馬鹿にされてるぞ」

「ヒヒ、褒め言葉だね」

 ウエマーはほくそ笑む。

『ともかく、どうやら飛走都市の中小企業が送り出したHSA(ハイサ)のようだ。元となったHSA(ハイサ)の記述もなく、不気味だぞ《ディーゴ》!!!』



「それにしても何なのかしらあれ? 」

 アイザ自身、パドックに並んだ《ディーゴ》を見た瞬間鳩が豆鉄砲を喰らったような顔になった。それに乗っているのが他の誰でもないクリュウらしい。

「まったく、一体何処まであたしの裏をかけば気が済むのかしら、アイツ……」

 ふぅ、とため息を零すものの表情は緩んだままだ。

「さぁ、飛走(はし)って来なさい。あたしのいるココまで」

 一体クリュウはどんな走りをしてくれるのだろうか。



 そんな外の様子を聞くでもなく、《ディーゴ》の中のクリュウとメーメは調整にてんてこ舞いであった。

「ごしゅじんさまぁ……もう限界なのよ」

「もう少しだ、我慢しろ」

 クリュウは命令する。

「もう駄目……出ちゃぅ、出ちゃうの」

「もう少し、もう少しだから」

 ここは何とか我慢してもらわなくてはいけない。

「あああん、爆発、爆発するのぉ」

 メーメが弱気な声を出す。

『さぁ、準備はいいか? 2機ともスタート地点に付いてくれ』

 MCの声を合図に、《ディーゴ》と《テンウィン》はスタート地点へと向かう。

『さぁ、2回戦の始まりだ。3テンウインVS 4ディーゴ……』

 歓声が徐々に収まり静寂が訪れる。


『ゴー!! シフトカラーズ!!』


「シフトカラーズ!!」/『ゴー! シフトカラーズ!』

 クリュウ初めての2RBが今ここに始まった。


 


こんばんわ。呉璽立児です。


飛走(はし)ろうと思ってたのに、飛走(はし)らずに終わってしまった。

是非次回にご期待下さい。



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