表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/21

それぞれの思惑

 アイザの記者会見はHSA(ハイサ)界を震撼させた。

 現チャンピオン、Sランク保有者、最強ライナー、アイドルライナー等の様々な冠を有するアイザ・ヨーの発言力の強さが伺えた。

 表向きはWCCが2RB最高峰の大会であることは変わらない。だが、前回のWCCチャンピオンが別の大会を開催するとなると具合が変わってくる。

 WCCはトーナメントながら挑戦者とチャンピオンの雌雄を決するという趣旨が強い。これがSCの開催――エキシビジョンによって優勝者とアイザの決戦という条件によって、WCCは一番の目玉を失った。

 アイザの行動は2RBのあり方を観戦者に問いかけるものである。

 2RBファンは、一体WCCとSCどちらを選ぶのであろうか。



 ここはHSA(ハイサ)を販売する大企業であるクロバ工業。その中の2RB営業室、室長であるトチは、膝を揺らしながら椅子に掛けている。

「ほ、本社から、このような事が上がっていまして……」

 彼の部下は冷や汗をハンカチで拭いながら、報告する。

「フン、たかが小娘一人が開催する大会が何だというのだ」

 上からの命令に対してトチは息を上げる。

 トチは現在の職場が嫌いであった。彼はクロバ工業軍事部門の出身者の中でもエリート社員で彼の功績を会社が評価して2RB部門に転属となった。だが、彼はそれを左遷と考えた。トチの中ではHSA(ハイサ)を用いて2RBをすることは、"遊び"でありそれを許容することが出来なかった。

「それでは、困る……そうです。このままではギドレー・マイルがWCCに勝っても知名度を得られないのではないかと」

「まったく、何が問題だというのだ。対抗馬が減って良かったではないか」

 WCCはおそらくアイザがいないことによって、ギドレーの勝利で終わるだろう。そうなれば、チャンピオンの座はギドレーの物となる。

 2RBについて興味も関心もないトチは知らない。WCCが大きな大会へとなっていったのは、ファンの力があってこそだ。チャンピオンという座もファンに認められなければただの自称に過ぎないことである。もし、WCCではなくSCにファン達の目が行けば、大衆からチャンピオンと呼ばれるのはアイザかもしくはSCの勝者であろう。

「そこまで言うのであれば、SCに出る賞金稼ぎでも雇えば良いではないか」

 トチが考えた作戦はこうだ。

 元々フリーの私設大会であるということで、賞金目的で出場する輩もいるのではないかということだ。その者を雇ってクロバ工業の力を使いバックアップをする。そして、賞金稼ぎが大会で優勝するというシナリオを作り出せば良い。

 SCをぶち壊すという作戦であった。

「確かに、それは効果があるかもしれません」

 部下は顔を顰めながらそう言う。

「だろう? だったらすぐにSCの参加者リストを調べて来い!!」

 トチは部下にそう命令を出した。



「そういえば、2RBという言葉を良く聞くのですけどそれってなんなのです?」

 昼上がり、そんなメーメの発言は、周りの人間を凍りつかせた。

 確かに自称OSと名乗る正体不明のメーメの事だから知らなくても当然かもしれない。そもそも2RBという用語が生まれたのもここ50年ほどの話だ。

 元々は人々の武器として生まれたHSA(ハイサ)が平和な世において娯楽として空を走る競技として使われるようになった、それが2RBである。

 だが、改めて問われるとクリュウは困ってしまう。

 この時代に生きる人間にとって、HSA(ハイサ)=2RBなのだ。たしかに軍事力として軍はHSA(ハイサ)を保有しているが2RBのHSA(ハイサ)に比べれば時代遅れな物も多く、機体も使用目的も魅力に欠ける。

(確かに、ルールぐらい説明しなくちゃだな)

 メーメがOSとして《ディーゴ》に共に搭乗する以上必要不可欠なことであった。

 クリュウは、2つのHSA(ハイサ)の模型を用意する。一つは修理完了後の《ディーゴ》をイメージした黒い模型、そしてもう一つはここで制作を請け負っていた《ホープ》だ。

「2RBはスタート前にこうやってスタート地点に並ぶんだ」

 そう言って、クリュウは2つの模型を置くのではなく、手に持ったままで話を続ける。

「そして、スタートの合図と共に走り出す」

 手に持った模型を前に進ませる。《ホープ》を前に《ディーゴ》が後ろを走る形を取らせる。

 メーメはこくこくと頷いている。

 2RBのルールはそれほど厳密ではない。これは元々が軍人の飛走技術を競い合う模擬練習が2RBの由来まで遡るからである。ただ、試合という見世物の形態をとる以上お互いのHSA(ハイサ)の力が均衡していなくてはいけない。その為に規則は存在する。

 例えばHSA(ハイサ)に積むエネルギーを一つにしなくてはいけない、というルールがそうだ。ただ、これはあくまでスタート前までのことであり、《ホープ》のように飛走(はし)りながら発電するようなHSA(ハイサ)は規定に引っかからない。こんなルールの抜け穴もあるぐらい厳しくはないのだ。

 そして、オーバーランという特殊勝利条件も試合を円滑に行う為のルールにあたる。お互いに均衡した技術を持つライナー同士が戦うと、どちらも撃墜されること無く、2RB終盤ではお互いに残りのエネルギーを気にしてEoM(エオム)を使わず……そして両機とも停止してしまう、という余りにも締まらない結末を迎えたということがあった。そこで出来たのがオーバーラン――規定の距離を走りきると勝利するというルールである。

 このルールを一見すると、ただ逃げれば良いと発想するかもしれない。だが現実はそこまで甘くない。ルール作成者も考慮したのであろう。オーバーランというルールと共に戦闘エリアというルールも実装された。これは簡単に言ってしまえば決められたエリアから出てはいけないというものだ、出ればそこで即失格である。直線に走り、逃げられない、これだけでオーバーランは難しくなる。

 そして最高速度の問題である。HSA(ハイサ)は、空にスカイレールを引き、その上を飛走する。つまり、スカイレールを描く以上のスピードを出すことは出来ないのだ。スカイレールをあらかじめ描いておくという方法もあるがこれは対戦相手に予め走るルートを公開しているも同然なので引いた箇所に先回りされてしまう。

 そして近年、HSA(ハイサ)単独――EoM(エオム)を用いずに出るスピードが上がっていることもオーバーランを難しくさせている。EoM(エオム)を使わずに攻撃に使用するというのが現在の2RBの戦闘スタイルである。戦闘は過激化し、2RBは民衆を誘惑した。

 メーメに説明しながらによる模型の戦闘は《ディーゴ》が上を取り《ホープ》を迎え撃つ構図を取る。

 HSA(ハイサ)のOSとして生を受けただけあってか、有利、不利、戦闘の考察等は当然のように出来ていた。

 《ディーゴ》が下降を始め攻撃姿勢を取る。

EoM(エオム)を使用して……」

「今なの、殺せ!! EoM(エオム)で敵の(はらわた)をぶちまけるの」

 クリュウは、ブッ、と唾を噴出した。それと同時に思わず左手に持っていた《ホープ》の模型を落としてしまう。

「敵機撃墜なの。相手はこれで海の藻屑……状況終了なのです」

 もちろん2RBにおいて、相手を死に至らしめる行為は最も行ってはならないことである。

 クリュウはため息をつくと2つの模型を机の上に置く。

 これはメーメに対して根本的な意識改革が必要だと、クリュウは感じた。

「もう、駄目じゃない。女の子がそんな汚い言葉使っちゃ!!」

 そう言って現れたサリナは、机の上に置かれた《ディーゴ》の模型を手に取る。

「ふーん、憎たらしいぐらい良く出来てるじゃない」

 サリナは模型と実物の《ディーゴ》を見比べる。

 SCに向けて《ディーゴ》の修復は80%程まで完了している。

 《ディーゴ》は他のHSA(ハイサ)と見比べても武骨な作りをしている。それは模型の《ホープ》と見比べても顕著であった。

 始めに剥がした装甲は結局、錆を落とし黒く塗装をして元の位置へと戻してある。

 これはS系HSA(ハイサ)が大きなボイラーを持つゆえ(いたし方)<仕方>の無いことであった。通常のHSA(ハイサ)が纏うような装甲では敵の攻撃を受けて損壊する前に内側から溶解してしまうという、恐れを技師達が示したからであった。彼らの年の功もあって、《ディーゴ》の修復は順調であった。

 問題点は、EoM(エオム)、燃料、OSを残すまでとなった。

「おーい、クリュウ!!」

 威勢良く、古い扉が開かれる。現れたのは、タヌキであった。

「お前なぁ……手伝ってくれるって言ったのにどこ行ってた 」

 クリュウもこの瞬間まで存在を忘れていた。

「ふふん、この俺様がいつまでもタダ働きをしてると思うか? という訳で、いい話を持ってきた訳だ。この時間だったら、まだオモリちゃんもいない…………。

 ッ!?」

 タヌキが呼ぶオモリちゃん事サリナと目が合う。

「わ、悪いクリュウ用事を……」

「この!! 詐欺狸、また騙しに来たのね!」

 サリナは瞬時にタヌキまで距離を詰め寄ると耳を摘みあげた。

「痛っ、痛!! クリュウ助け……」

「さぁて、あっちでお話(、、)しようか……お爺ちゃんも交えてゆっくりとネ。そうそう、約束を破って逃げたこともしっかりと聞かせてもらわないと」

 タヌキは悲鳴を上げながら倉庫から連れ出されて行った。

 


 その後しばらくして青ざめたタヌキがクリュウの元を訪れる。

「ホントにいいのか!?」

「……ああ、好きに使ってくれ」

 タヌキは、魔炭石を調達してきたのだという。それをクリュウにタダで使わせてくれるという。

「おい、なんか裏でもあるんじゃねぇよな?」

 タヌキはブルブルと一生懸命顔を横に振る。

「そうか……でも、タダじゃ悪いから稼げたらいつか払うよ」

「期待しないで待ってるわ」

 いつもはお金の話をするだけで目の色を変えるタヌキがこのときばかりはしおらしくしていた。

 まるで獅子にでも睨まれて、巣穴に隠れ震える狸とでも例えれば良いのだろうか。

 

 ご覧くださりありがとうございます。

 

 今回の話はつなぎ的な意味合いが強くこれまでの話に比べれば言いたいことが余り無かったかも知れません。

 しいて言えば2RBのルール説明といった所でしょうか?


 この章、小説全体を通して、駄目な所、良い所等のコメント募集中です。小説を良いものにしたいので是非皆様の知恵をお貸し下さい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ