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転機

 2体の機械が空を走る。それは鳥のように羽を使って飛ぶ訳ではない。意味の通り、2つは空を走り駆けぬけているのである。

 機械は、人型をしている。目を引くものが一つある。人間で言うと(くるぶし)に車輪がついている。

 車輪は高速で回転して、空を伸びる線を走っている。

 その昔、魔法使いと言う者達がいた。魔法使い達は空に自分達の目的地まで線を引き、そこまで空を渡ったとされている。現在はその線"スカイレール"を引く技術を利用し、その上を機械の人形(ひとがた)……Hight-Speed Alloy通称――HSA(ハイサ)と呼ばれる者達が疾走している。後ろに客車をつけた運送用や荷物を運ぶ運搬用……そして、HSA(ハイサ)を駆るのはライナーと呼ばれる人間である。

「うらあ!! 」

「フン」

 二つの拳が、空でぶつかる。人々の歓声が起こる。

 ぶつかり合った2機のHSA(ハイサ)はそのままお互いの向かっていた方向へと駆け抜けていく。

 RaceRailBatel――2RB用と呼ばれるHSA(ハイサ)達の空走バトルである。あれらは、己が空を走るスピードを競い、テクニックを競い、そして、動力から生み出されるEngine of Magic――EoM(エオム)をぶつけ合う。

「……スピードが落ちるが仕方ねぇ」

 片方のHSAがスピードを下げる。

 観客達がどよめき始める。スピードを落とすということは、HSA(ハイサ)EoM(エオム)を使う時の前動作である。2RB用のHSA(ハイサ)は、速さを追求する為に一つの機関(エンジン)しか積まない。EoM(エオム)を使う為には、どうしても車輪を動かす為の動力をカットしなくてはならないのである。

「炎射――バースト・フレイム!!」

 炎のEoM(エオム)が、対戦相手のHSA(ハイサ)へと襲い掛かる。

「雷壁――エレクト・ウォール」

 だが、炎は展開された雷によって防がれた。

『お互いの、EoM(エオム)が衝突!! これは互角か?! 』

「互角? 冗談じゃない。攻撃と言うのはこうやる物だ」

 雷を使った方が早くスピードを取り戻す。

 そして、拳を握る。ほとばしる雷光。

「サンダー・パワー」

 雷のEoM(エオム)が拳に宿る、そして炎を使ったHSA(ハイサ)へと叩き込まれた。

 叩き込まれた方は、スカイレールが消失した。スカイレールを走れないHSA(ハイサ)は物理法則の元、落ちるのみ。

『勝負合った!! 連戦連勝!! やはり、新機関を搭載したHSAを倒すことは出来ないのか!! 』



「くうう……やっぱりギドレー・マイルは強えなぁ」

「これも雷魔(らいま)駆動のおかげなのか?」

 ここは飛走機都市・スカイレイルの工業地区にある、小さな町工場。昼休み男達が、テレビの前で白熱していた。

「いや、それもあるがやっぱりギドレーの飛走技術は本物だ。クリュウの言うことは本当だったな」

 クリュウ・イワザキは、同じ工場で働く少年であった。クリュウは、ギドレーと2RBライナーアカデミーという、2RBに用いられるHSA(ハイサ)ライナーの教育学校の同級生であった。クリュウは途中で学校を続ける資産がなくなったので自主退学したが、当時のクリュウはギドレーと飛走技術を競り合っていた。

「おい、お前ら!! 昼休みはもう終わりだ!! いつまで仕事サボってやがる!!」

 オークス工房の工場長であり社長である、アドウ・オークスが皆に発破をかける。

「ったく、オメェらは人の目が無ぇと仕事も出来んのか!! 」

 工房は僅か5人しか働き手はいない。それでも、小さな仕事場なのでそれぞれがやるべき仕事を行えば、きっちりと回るのである。

「クリュウを見習らわんか!!」

「へいへーい」

 アドウは工房の中を見渡す。今請け負っている仕事は、とあるHSA(ハイサ)の組み立てであった。

 小さな町工場の中には全高6メーヤほどの人型の機械が鎮座している。成人男性の平均身長が1,7メーヤだとするとおよそ4倍の大きさがある。これがHSA(ハイサ)である。これほどの巨体が空を走るのである。

「……いい機体だなぁ」

 パーツを磨きながら、クリュウはそう思う。

 クリュウはライナーとしての資格を持っている。この工場では技者の真似事をしているが、本来はテストライナーとして雇われている。確かにHSA(ハイサ)に乗ることが出来る、がライナーとしてはやはり自分自身のHSA(ハイサ)が欲しいと思う。そしてこのような名機を持って2RBに参加したい、そんな思いがいつも突き刺さっている。

「是非とも乗ってみたいなぁ」

 工房のHSA(ハイサ)を見上げる。

「ふーん、アナタにこの子のよさなんて分かるの?」

 透き通るような高い声。一部例外もあるが、汗と油臭いそんな工場には相応しくない声がクリュウに問いかける。

「……何だ? このガキンチョは……」

「ガキンチョって何よ! あたしは……ってどこ掴んでるのよ。離しなさい!!」

 クリュウは容赦無く、少女……というよりも更に背が低い女の子の首根っこを掴む。

「何ガタガタ騒いでやがる!」

 アドウが騒ぎを聞きつけて怒鳴りつける。

「親方ぁ、こんな所に女の子が」

 クリュウは女の子を高く掲げる。

「そんなもの摘み……ッ!」

 少女の姿を見た瞬間、アドウは声にならない驚き声を上げた。

 いつもはどっしりと、貫禄を見せて歩いているアドウがこのときばかりは、まるでコマ送りでもしているコントのような勢いで掛けてくる。

「ッーーーー!」

 クリュウの頭に鉄拳が振り落とされた。

「バカ野郎!この方を誰だと思っていやがるんだ!!」

 アドウは摘み上げられていた少女をクリュウの手から掻っ攫うと丁寧に地面に下ろす。

「は、誰ってただのガキ……」

「オメーはそれでもライナーか!! この方はあのアイザ・ヨーだぞ」

 アイザ・ヨー ――それは2RBにおいて知らぬものはいない天才ライナーである。様々な重賞を勝ち取りもはや並ぶものはいないとされるライナーである。

「は? コレがアイザ・ヨー?」

 クリュウはパチクリと目を開かせる。

 クリュウとて、アイザを知らない訳ではない。だが世界のアイザと目の前の幼女はどう考えても結びつかないのである。

「このアホンダラ、なんで彼女の容姿を知らねぇんだ! アイザ・ヨーといえばその腕前もそうだが"天駆ける天女"とまで言われるアイドルだろうが!」

 何故この目の前のカナズチが恋人という比喩が相応しい油ギッシュな中年男はそこまで詳しいのだろう……それともクリュウが知らないだけでなのか。

「……まぁいいわ」

 地面に下ろされたアイザは、乱れた長髪を手で梳く。

「どう? この《ホープ》は」

「ほぼ完成だ。世界一と言われながら、まだ貴女の機体を弄らせてもらえるとは思って無かったよ」

「ふふふ。アドウの腕は知っているもの」

 アドウは自分を褒められ恥ずかしそうに頭を掻く。

「まぁ、そういわれちゃ仕方ねぇ。この老いぼれと言えど新しい技術に着いていくしかねぇってこった」

「そうよ、老け込むにはまだ早いわ」

 ただ腕は良くても客足は途絶える一方であった。大企業が開発、販売、修理を全て請け負いライナーは自分の飛走技術のみを磨く、それが今の2RBの主流であった。

「昔は、色んな所の部品をかき集めて、そして自分だけのHSA(ハイサ)を作り上げたもんだ。だから、部品屋も工場(こうば)も技術を競い合っったもんだ。

 それが、今はどうだ……。今のライナーと来たら。型に流されたHSA(ハイサ)を使ってそのマシンに会った2RBをしやがる」

 アドウはため息をつく。

「この街――飛走都市スカイレイルまでそうなってしまったら2RBは面白くなくなるわね」

「まったくその通りだ」

「でも――このあたしがいる! そんなHSA(ハイサ)に劣りはしないわ」

「ハッハ、天下の天才ライナー様にそう言っていただけるなら、この老骨も身体に鞭を打ち続けるしかないってもんだ」



「それで、実際はどの段階まで来てるの?」

 アイザは世間話に区切りが付くと自分のHSA(ハイサ)の話へと移る。

「実際、テスト飛走の段階までは来てる。この先どうするか相談しようと思ってたんだ」

(とうとう、来たか)

 クリュウは心躍らせる。この工房でテストライナーとして雇われている以上テスト飛走はクリュウの役割である。その役割を幾度と無くこなしてきたクリュウは当然自分がやるものだと思っていた。

「テスト飛走のライナーだが……」

「もちろんあたし自身が乗るわ」

 なんの迷いも無くアイザはそう言いきった。

「え!?」

 クリュウは出鼻を打ち砕かれた。

「いや、だがな今回は初回のテスト飛走だ。アンタが乗らなくても……」

「あら、いつになく弱気じゃない。アドウらしくない」

 アイザはアドウを挑発する。

「なんだと!! おうおう、それなら好きにしろテメェが乗ればいいじゃねえか」

 売り言葉に買い言葉、喧嘩口調でアドウは言う。

HSA(ハイサ)は手足も同然、このあたしは乗りこなして見せるわ」

 笑いあう二人を尻目に、落ち込むのはクリュウである。

「そんなぁ……」

 落ち込む声は聞こえてはいないが、その落胆振りはアイザも見て取れた。

「そういえば見ないヤツだけど、なんなの? 」

「ああ、クリュウのことか? そういえば見るのは初めてだったか。

 アイツは新しく雇ったテストライナーだ。たまたま教習場で走っている所を見かけてな見るものがあるから声を掛けたんだ。

 まぁ、一言で言ってしまえばHSA(ハイサ)馬鹿だ」

 アイザがは「ふーん」と考えた素振りをする。

「アドウがそんな風にいうなんて意外ね」

 アドウは経験と私見がある人間である。アイザはアドウがそう評価するクリュウという存在が気に掛かった。

「クリュウは中退したらしいんだがアカデミーに通っていたらしい。その時の同期があのギドレー・マイルだ。在籍中は主席を競いあったそうだ」



 ギドレーの存在はアイザも当然知っている。期待の超新星と謳われるライナーの名を聞きアイザは目の色を変える。ギドレーは大企業のクロバ工業が誇る最新鋭のHSA(ハイサ)を駆る専属ライナーとして記憶していた。アイザの彼に対する評価は、確かに飛走技術は眼を見張るものがあるが、それ以上に気に喰わない、その一言に尽きた。

 それに対して目の前のクリュウという少年はどうだろうか? アイザは考える。一見すると年齢は遥かにアイザの方が年下だが、HSA(ハイサ)に乗れる、乗れないで一喜一憂するクリュウは子どもっぽく見える。

(でも、そういうの嫌いじゃないわ)

 アイザはそう思う。そして、ある面白い考えが頭に浮かんだ。

「ちょっと、アナタ!!」

「へ?」

 落ち込んでいたクリュウがアイザの呼びかけで顔を上げる。

「あたしのテスト飛走の相手をしなさい」



「え!?」/「は!?」

 クリュウとアドウは同時に驚きの声を上げた。

「本当か? オレをHSA(ハイサ)に乗せてくれるのか」

 クリュウの心は躍った。

 テスト飛走で何度か2RB用のHSA(ハイサ)に乗ったことはあるが、アイザの言い振りから、いつものただ飛走を行うのではなく、実践形式の相手をするように言われている。

 2RB形式の飛走なんていつ以来であろう、とクリュウは思う。

「おいおい、オメェいきなり2RBする気か!!」

 アドウが声を上げる。

 通常HSA(ハイサ)は、組み上がってから何度もテストを重ねて調整をする。まずHSA(ハイサ)の調整を行い事故が無いように手を加える、次はライナーがHSA(ハイサ)の乗り方を学ぶ為のテストを行う。

 それをアイザは2段階目から行おうとしているのである。

「だって自信があるんでしょ?」

「何があっても知らんぞ……」

 ハァとアドウはため息をつく。

 アドウからの許可が出た。クリュウの胸が高鳴る。

「楽しみだ」

「ええ、本当にね」

 クリュウとアイザをお互いに見つめあう。

 クリュウは、天下のアイザと戦えることに感動に近いものを感じていた。そんなアイザからは強者の余裕のようなものが感じられる。

「互いにHSA(ハイサ)馬鹿なのは分かるがな……クリュウ、オメェ肝心なHSA(ハイサ)はどうする気だ?」

 そういわれクリュウは我に返る。そう言われれば、テスト用のHSA(ハイサ)に乗せて貰えないということは自分には乗るものがない。

「ぐおおおおお」

 HSA(ハイサ)が無いこと、どうしてもアイザと2RBをしたい、そんな葛藤がクリュウを苛む。

(どうしよう……こんな機会は滅多にない。今まで貯めてきた金を使ってどこかから借りてこようか)

 HSA(ハイサ)を借りるとしたらそれには貯めた費用をかなり使わなくてはいけなくなる。

 だがそれをしたら自分のHSA(ハイサ)を持つという夢はかなり先へと遠ざかる。

 2RB用のHSA(ハイサ)を借りるというの通常誰もが行うことではない。行う人とすれば我が身1つで2RBを駆る賞金稼ぎみたいな者だけであった。だからレンタル費用というのは何があっても良いように高く設定されていた。

「そうねぇ……」

 クリュウの横でアイザも何か考えたそぶりをしている。

「変な2RBをして面白くなくなっても困るわ。あたしのHSA(ハイサ)を貸すわ。今連絡したら3日後ぐらいには到着するでしょう。3日後にテスト飛走……それでいい?」

「本当に!? ありがとう!!」

 クリュウはアイザの手を握り感謝した。その行動にアイザは顔を赤らまて動揺したが、すっと手を切るとクリュウ、アドウに背を向けた。

「ふ、ふん。いい3日後よ。逃げずに待っていなさい」

 びしっと指差しアイザは歩き出す。

 その背に向かってクリュウはひたすら手を振っていた。

 

 いきなりですが続きます。チャンネルはそのまま!!

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