鑑定結果
猪木の病院に来た。
姪っ子のDNA鑑定の為だ。
俺は待合室の奥の方に座り腕組みをして平静を装っていた。
ガチャ。
診察室の扉が開き姪っ子が駆け寄って来る。
「淑次っ! 痛くなかった!」
「痛くなかった? お前何されたんだ?」
「注射!」
まあそうだよな。
髪の毛、唾液、色々鑑定可能だと思うが血液が一番が一番信頼性が高い気がする。しかし、あんなに嫌がっでいた注射をどうやって説得したのであろう。やはり猪木は子供の扱い方は一流だな。
そして後からやって来た猪木は淑美の頭を撫でながら話した。
「淑美ちゃん。よく頑張ったね。淑次さん。DNA鑑定の結果は明後日にはわかります。再度ご連絡致します」
すごいな。DNA鑑定って一週間くらいかかるだろ? 圧力か? はたまたコネか? とにかく、検索結果の早期判明一つとってみても猪木の並々ならぬ決意の様な物が垣間見えた。
「おじちゃんの家車2台あるって! もう一台はアルファード!」
「だから、おれは車の事はわからんと言ってるだろう」
「色は赤だって!! 珍しいね!」
「…………」
なるほどな。大方、泣かないで注射出来たら今度車に乗せてあげるからねとか言って釣ったのか。
俺達は病院を後にした。
しかし翌日夜、自宅で求人サイトを見ていた俺の元に早くも結果のメール連絡が届いた。姪っ子は入浴中だ。
【淑美ちゃんは99.8%の確率で私と親子関係がある事がわかりました。恐れ入ります。今後に関し早速明日にでもお話しさせて頂きたいと考えています。ご都合の方はいかがでしょうか】
「…………」
意外にも冷静に受け止めた。
俺は基本ネガティブ思考だ。
恐らくこうなる事を予想していたのであろう。
ならば俺が次に取る行動は……。
「淑次〜。出た〜」
「おう出たか。ちょっとここに座れ」
「ポカリは?」
「あ〜。あるよ。さっき買っておいた。いいから座れ。話がある」
「淑次の分は?」
「いらねーよ。いいから髪乾かしたら早く座れ」
相変わらず人の話をはぐらかす姪っ子にも本当に慣れた。
ドライヤーを使い長い髪を乾かした後、姪っ子はちょこんと俺の膝の上に座る。
「ここじゃねぇよ。向かい側だ」
「いいよここで」
「大事な話なんだ」
口を尖らせたブーイングの表情で、渋々向かい側に座る姪っ子。
「こないだの検査なんだが……」
「検査?」
「病院での検査だよ」
「あ! アルファード! 乗りたい!」
「どうでもいいんだよ、アルファードは。注射だよ! 注射」
「痛くなかった!」
ここは一気に伝えるしかないな。
「それもどうでもいいんだよ!こないだの検査で、お前のお父さんはあのおじさんだったって事がわかったんだ」
「そうなの?」
「ああ。それで…………お前はどうしたい?」
「何が?」
「何が? じゃねえ。お父さんの所に…………」
決定的な問いかけが声にだせない。
「泊まりに行く!」
「は? 泊まり? 旅行じゃねえよ。おじちゃんの家の子になるか? って話だよ」
ツッコミの勢いで核心の問いかけを思わず話した。
「…………」
さすがのコイツも衝撃を受けた様だな……無理もない。まだ三年生だ。まったく……俺は何を言ってしま……
「じゃあ今度の土日でいい?」
俺の自己嫌悪は杞憂だった。
駄目だ。コイツの扱いはとりあえず猪木に任せるしかないのか?
「土日だけじゃなく、ずっとだよ」
「じゃあ行かない。お父さんいらない。淑次でいい」
初めて姪っ子が口にした意志。
俺はその言葉を聞いた途端、感動の涙を流した。
「どしたの? 淑次?」
「……なんでもねぇよ!だから淑次って呼び捨て辞めろっていつも言ってるだろ……」
更に涙が溢れ、俯く俺の頭を姪っ子は小さな手で撫でていた。