現状
「淑次、お前キャッチやめたんだって?」
「ああ」
俺は情報屋の鉄男とファミレスで対峙していた。
突然現れた、姪っ子の父親だと言う男の事を相談……いや、半ば無理矢理尋問を受けていると言う方が正しいだろう。
「あの姪っ子の……淑美ちゃん?って言ったか。それでお前はどうするんだ?」
「どうするもないさ。よくわからん」
「じゃあいいんだな? 淑美ちゃんが父親の所に行っても?」
「………わかんねぇんだよ。たった四、五日一緒にいただけなんだが、ほっとけねぇんだよ」
「なるほど。お前の気持ちはわかった」
「は? 何がだ?」
「いいか?よく聞けよ?お前は淑美ちゃんを手放したら必ず後悔する。だから徹底的に争え。正式に自分の子として親権を獲得するんだ」
「………」
「情報を整理するぞ」
鉄男はカバンからペンと紙を取り出し何かを書き始める。いいのか?それなんか大事な書類の裏じゃねえのか?
「いいか? これはDNA鑑定をして淑美ちゃんの父親が猪木と言う男だったと仮定して争った場合の現状だ」
淑美ちゃん
戸籍上は父親、後見人、認知者も空欄。
淑次
◎有利な点
現状淑美ちゃんを保護している。淑美ちゃんも懐いている。
淑美ちゃんの叔父である。
恐らく死亡した姉は、淑次が引き取ってくれる事を望んでいる可能性が高い
◎不利な点
前科、服役した過去がある。
定職に付いていない。
父親らしき猪木
◎有利な点
医学上の父親→DNA鑑定で父親と判定が出た場合。
医者と言う、社会的地位が確立された職業である事。
◎不利な点
捨てたと言う過去。
何故このタイミングなのか?と言う客観的疑問。
「お前を後見人に指名すると言う姉の遺言状でもない限り、お前は不利だ。裁判所は淑美ちゃんが今後どういう状況に置かれて成長するか、継続的に養育が出来るのか?を基準に判断すると思う。それに日本では虐待過去でもない限り、どちらか片方の親が養育をすると言う原則がある」
「…………」
「だから、客観的に見た時に定職にもつかずプラプラしてる、弁当持ちのお前よりも、過去を償おうとして誠心誠意向き合いたいと話している、社会的な地位もある医者に養育を認めると言うのが自然な考え方じゃないか?」
俺は、やりきれない想いから、ただ絶句して拳を握り締める事しか出来ず、鉄男の話に耳を傾けていた。
「それに子供の意見を確認しなければならないのは15才からだ。まだ三年生だろ?どう考えてもお前に勝ち目はない」
「…………」
「ただそれでも淑美ちゃんの意思はお前が確認するんだ。その医者も、嫌だ嫌だと泣き叫ぶ状態の子供を無理矢理連れて行く様な事はさすがにしないと信じたい。争えと言ったが、お前が定職につかない限りは回避して淑美ちゃんの意思に賭けるしかないんじゃないか?」
「すまん鉄男。ありがとう。ちょっとあいつが帰って来るまでに考えて、話をする」
「そうだな。DNA鑑定をするにしても淑美ちゃんにはきちんと話した方がいいと思う。子供には残酷な話だがな。ちゃんとお前がフォローするんだぞ」
「ああ。わかったよ」
今一つだけ気付いた事がある。
俺は淑美と一緒にいたい。姉貴の気持ちなんか関係ない。あいつと一緒に刺激がある毎日を過ごしたい。
だが俺は、まだ迷いがある自分自身の弱さも認識していた。