重い体
(やっぱり……。父親は空欄だ)
早かった。
何かが俺を動かした。
姪っ子を学校へ送った後、すぐに区役所で戸籍をとった。予想通りだった。
色々調べた。
認知?未成年後見人?
いずれも手続きが必要?
あいつは今、法律上どんな存在なんだ?
難し過ぎてわからん。
一つ言える事は、あいつが俺の所にいる以上、何かしら手続きをしないと駄目だ。
そもそも俺にその覚悟はあるのか?
とりあえず姉貴が死んで、引取り手がないからなし崩し的にウチに連れて来た。姉貴もそれを望んでいると思ったからだ。恩がある姉貴に恩がえしのつもりだった。
深く考えてなかった。
子供を一人育てるのがどれだけ大変かなんて考えてなかった。
あいつの希望はどうだ?
そんな話しはしていない。
「ガキはとりあえずウチに来い」と言った記憶しかない。優しく接した記憶もない。
悶々と考えながら、仕事に行った。
しかし集中出来ない。
そして学童保育の終了時間になり、抜け出して姪っ子を迎えに行った。
「あ!ホンダのシビック!」
能天気なのかなんなのかわからんが道行く車の車種を叫びながら歩いている。だから聞いてみた。
「なあ、お前はこの先どうするんだ?」
俺がそう尋ねると姪っ子は少し真顔になる。そして泣き出した。
「は?どうしたんだ?」
「お母さん………」
「………」
悲しいのか。そうだよな。まだ三年生のガキだもんな。思い出させてしまったか。
俺は頭を撫でた。
「おんぶ!」
「…………」
まあ仕方ないな。
意外と重いな。いや違う。俺はこいつの体だけをおんぶしているのではない。この先の人生、成人するまでの人生を背負っている気がした。だから重い。
しかしシクシクと泣いている姪っ子をおぶさりながら、俺はなんの言葉もかけてやれなかった。
そして帰宅して姪っ子に言い聞かせる。
「とりあえず。今日は色々買ってあるから仕事が終わるまで一人で待っててくれ。火は使うなよ?給湯パネルは使えるよな?」
「うん」
玄関を閉める時に姪っ子の心細そうな表情を見た。
そして俺はその日、キャッチの仕事を辞めた……。