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14. 騎士団の食事会

 屋敷まで送ってくれたノアが、身長より大きな杖を地面にトンっと軽く突くと、私とルゥの体が暖かな風に包まれて疲労が和らいでいくのが分かった。

 どうやら癒し魔法をかけてくれたみたい。この魔法、私も使えるようになりたい!私自身の癒やしの力は自分には使えないみたいだから切実にそう思う。


「リイナさん、お疲れ様です!ルゥも!頑張ったね!」

「ありがとう、ノアくん」


 お礼を言うと、腕の中ですやすやと寝息をたてているルゥを覗き込んで、ノアはにっこり笑う。


「今日は大変でしたね。みんなは戸惑ってましたけど、僕はリイナさんの共鳴の力が大好きです!ルゥの成長も楽しみだし……。あ!そうだ。今夜団長が、リイナさんの歓迎会をするって言ってました。今“上”は突然実戦演習みたいになっちゃったからバタバタしてますが。よければあとで迎えに来ますね!」


 予定外の実戦となってしまったため、団長とクレイスをはじめとした騎士団の上層部は帰還してすぐに会議に入ったらしい。

 歓迎会かー。お酒弱いし、大人数は苦手なんだけど。でも、せっかく用意してくれた場だし、参加しよう。


「分かったよ、ノアくん。待ってるね」


 ノアは私の返事に嬉しそうに頷くと、宿舎へと戻って行った。





 そうして夕暮れ時。ノアは魔導服から平服に着替え、私とルゥを迎えに来た。足元にはネラもいて、一緒に行きたそうに擦り寄ってる。


「近いし、みんな一緒でもいいかな?」


 私が問いかけると、ノアは「大丈夫だと思いますよ!」と請け負ってくれた。歩いてみると、宿舎までは本当に目と鼻の先。砂利道を少しだけ歩くと、王国騎士団の立派な建物が見えてきた。


 慣れた様子で正面玄関を入っていくと、中には多くの騎士たちがいて、それぞれ甲冑の手入れや武具の点検をしたりしている。竜部隊の宿舎ともあって、中はとても広く、竜用の装備なども置かれていた。


 案内された広間は木造りの温かな雰囲気で、大きな長テーブルが据えられ、すでに香ばしい肉料理の良い匂いが漂っていた。


 私が見知った顔は少しだけ。場の中心にいるギルハルト団長とクレイス、ミレーユ、ヴァルトとノア、そして農園に来た時見たことのある数人の騎士くらい。

 私はクレイスやミレーユのいる机に案内され、緊張気味に席につくと膝の上でルゥを抱えた。ネラは椅子の背に丸くなって座っている。

 私が席についたのを見ると、団長は立ち上がった。


「さて、今宵は皆にこの女性を紹介しよう。王妃陛下とクレイス副団長の推挙もあり、我が竜騎士団の助言役の任に就いたリイナ殿だ。今日の訓練の時見た者も多いだろうが、彼女は“契竜者(ドレイア)”の資質を王妃陛下に見出されている。今後も我が国に貢献してくれるであろう人物だ。さぁ、リイナ殿」


 突然紹介され、私は驚いて固まってしまった。こんな風に人前で何かを話すのがほんっとうに苦手!

 冷や汗をかきながらおずおずと立ち上がると、食堂に集まった騎士たちの視線が四方八方から突き刺さり、胃が痛くなってくる。


「リイナと申します。この子はルゥ、そして星紋猫(ステラキャット)のネラです。よろしくお願いします」


 心臓をバクバクさせながら何とか名前だけは言えたが、それ以外何の言葉も出てこない。顔が赤くなるのが自分でも分かった。


「まだ乾杯もしてないのに真っ赤じゃない!ほら、みんなもリイナ様の美しさに見惚れてないで、盃を持って!」


 すぐ近くで助け舟を出してくれたのは、赤毛の女性騎士だった。「フィルよ、よろしくね」とウィンクされ、私はやっと気持ちを落ち着かせることができた。


「ありがとう、フィル」


 この女性騎士は確か、農園に来たクレイスの部下だったと思う。フィルは気さくな笑顔で私の盃にお酒を注いだ。


「それでは、皆、用意はいいな。乾杯!」


 ギルハルト団長の堂々たる声と共に、銅製の盃が打ち鳴らされた。


「おおっしゃー! 肉だ、肉!」


 早速、ヴァルトが豪快に骨付き肉にかぶりつく。焼けた肌に汗を光らせ、まるで戦場にいるかのような勢いで肉を胃に放り込んでいく。


「相変わらず、口の動きも剣のように一直線ですね、ヴァルト小隊長」


 ミレーユが冷静に笑いながら、器用に野菜の盛り合わせを私のお皿にものせてくれた。


「うるせー、戦った後はガツンと食うのが一番なんだよ!」


「はいはい、胃袋の勇者さん。野菜もちゃんと摂らないと、おなか壊しますよ?」


 そう返すのはノア。くすくすと笑いながら、皿の上に山盛りの甘い煮込みをよそっている。


「リイナさんも食べましょう! あ、これ! 甘いやつですけど、ルゥもきっと好きですよ!」


「ありがとう、ノアくん……でも、ルゥは今、ちょっと緊張してるみたい」


 私の腕の中で、ルゥは控えめに鼻先をスンと鳴らした。知らない大人たちがたくさんいる空間に、居心地の悪さを感じているらしい。


 そんな様子を一瞥しながら、ギルハルトが重々しい声で言う。


「……見たところ、その子竜。よほどリイナ殿に懐いているようだな」


「はい。この子は、最初から私に助けを求めるようにして来たんです。私も、放っておけなくて」


「その“見捨てなかった”判断が、どれほどの重さを持つか。君は理解しているか?」


 空気を変えるようなギルハルトの言葉に、場の雰囲気がとたんに引き締まる。私はすぐに頷いた。


「……ええ。でも、あの子が生きようとしたことを、誰も否定できないと思うんです」


 冷静に応える私に、ギルハルトはしばし無言で杯を傾けた。


「……言葉より、行動を見せてくれればいい。クレイスが見込んだ女性だ、無碍にはせんよ、リイナ殿」


 その言葉に、ノアがにっこり笑った。


「団長って優しい顔もできるんですね!」


「うるさいぞ、ノア」


「はいはーい。でもね、リイナさん、団長はね……実は昔、ドラゴンと一緒に戦ってたんです。ものすごく大きな黒竜と!しかもとっても仲良しだったらしいです」


「ギルハルト団長も、ドラゴンと絆を結んでいたんですね」


「人がドラゴンと“信頼を築いた時代“が、ほんの一時でもあった。だが、その信頼はとても脆いものだったと言わざるを得ない」


 ギルハルトは低く言い、視線をルゥに落とす。


 ルゥが小さく鳴いたそのとき、ヴァルトが忌々しそうに言った。


「……ギルハルト団長。昔話は俺だって知っているが、問題なのは“今”だ。俺の知る竜は、俺の仲間を殺した……奴らと絆を結ぶなど、生ぬるい考えだ」


 ヴァルトの重々しい言葉に場が凍りつく。だがヴァルトは構わず続けた。


「お前が守ろうとしてるのは、“そういう連中”だってことを自覚するんだな、リイナ殿」


「ヴァルト…」


 ミレーユが静かに名を呼んで制するが、彼は眉を寄せて黙り込む。


 私はヴァルトの視線を受け止め、ゆっくりと応えた。


「私はドラゴンを自分の思い通りにできるとは思っていません。……でも、この子はまだ誰も傷つけていない。ただ、生きたいと願っただけ。私はひとりで悲しむ生き物を、保護して寄り添いたいだけなんです」


 私が慎重に語る言葉に、ミレーユがふと笑みを浮かべる。


「冷静な観察対象のはずだったのに……。なんだか少し……心を動かされました。リイナさん」


「……え?」


「感情と理論は、どちらも世界を知る材料。あなたの視点は、私たちが見落としている部分に触れている」


 ミレーユは眼鏡を指先で直しながら、ノートに何やら走り書きした。


「……俺はまだお前たちを信じねぇぞ。だが……ま、クレイスが変な女に引っかかるとも思えねぇしな」


 ヴァルトがぼそりと呟く。その声音にほんの少し穏やかさが戻り、私は胸撫で下ろした。騎士団のみんなのことをまだまだ知る必要がある。


「ありがとうございます。少しずつでも、理解してもらえるように頑張ります」


 そのとき、ネラが背もたれからぴょんとテーブルに飛び乗り、器用にルゥの背中に乗った。


「にゃっ」


 その仕草に皆が笑い、場の空気がようやくやわらぐ。


「……ふふ。あんたたち、いいコンビね」


 フィルの言葉に、私も頷いた。


 ギルハルトは最後にもう一度、食堂全体を見渡してから言った。


「リイナ殿――今日の答えは悪くなかったぞ。我らは君に期待している。……ほら、みなも好きに食え。今日の肉は、そう簡単には手に入らんぞ」


「は、はい!」


 大きな肉の塊を手渡され少し戸惑いながらも、その大きなお肉にかぶりつくと、ノアがこっそりウィンクする。


「やったね。これで“団長チェック”はクリアだ!」


 騎士団のメンバーは、ノアの明るい言葉にどっと笑った。気になることはたくさんあるけれど、今は彼らの心に一歩ずつ近づくことが最優先!

 私はその夜、そう確信した。

だんだん、これ読んでもらえてるのかな…?面白いのかな…と不安になってきましたが…執筆頑張ってます!

フェンリル王国編→ガルダルス帝国編と続いていく予定なので応援よろしくお願いします…!

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