一蹴 勇者
幻野大地
「シノブさん。僕のドリブル、どうです?」
「どうって。ただ歩いてるだけじゃん」
「なら止めてみて下さい」
と自信あり気な幻野くんだが、彼は本当にボールを足元に保有しながら歩いているだけだ。これならば止めるのは楽勝
だと思っていたが、何故だか止められない。というか、取れない。
「あれ⁉ くそ、おかしいな‼」
「いえいえ。これが僕の編み出したドリブル技術、悠々白書です」
「悠々白書?」
「はい。これ、ただ歩いているように見えて、実は色々細工してます。ボールに回転を掛けたり浮かせたり足の上に置いてみたり隠したりね」
「歩きながら、取りづらくなる工夫を」
まるで手品、いや魔法ではないか。
「シノブさんにも出来ると思いますよ」
「マジ⁉ 教えて、幻野くん‼」
「はい」
幻野くんは笑顔でシノブにレクチャーする。この二人の絡みは新鮮な気もする。
「さすが副キャプテン。もうコツを掴みましたね」
「えへへー、まあ私サッカーの神様だからねえ」
「ええ、その称号に相応しい才気ある女性です」
幻野くんは真顔でそんなことを言うものだから、シノブの顔は熱くなる。いやいや、私には平くんという彼氏が、とシノブは我に返る。
「シノブさんのドリブル、殺魔式ドリブル術でしたっけ?」
「ああ、うん。電光石火と疾風迅雷」
「それを一纏めに天衣無縫と言います。そして、天衣無縫と悠々白書を掛け合わせた究極のドリブル技術を」
シノブは固唾を吞む。一体何だというのだろうか。格好良い最終奥義名を期待するシノブだが、
「勇者と呼びます」
こうして勇者シノブのドラゴンクエストが始まる。いや、勇者のポジションは幻野くんの方が相応しいだろう。そこまで格好良くもないし。
「良いですよね、勇者。僕も昨日考えた時に興奮して」
「やっぱ君のネーミング⁉ じゃないかと思っていたよ‼」
多少天然な幻野くんに呆れながらも、しかし新技習得により力を増したシノブは、覚えた技の再現度を高めていく。絶対に誰にも止められたくないのだから。サカ神シノブのマックススピードを。加速して初めて行けるのだ。サカ神シノブはサカ神シノブの先へ。
サカ神シノブ