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090_ヴァイス・ゴーレム②

 彼はスーツの砂ぼこりを叩くと、懐から薄い魔導書を取り出した。あれは魔法使い以外の人間が魔法を使う際に重宝する薄型魔導書だ。沢山の魔法陣を記録しておくことは出来ないが、単純に持ち運びやすい。彼は紫色の魔法陣を起動する。


「ザンダ・サモン」


【ザンダ・サモン_雷属性の召喚魔法】


 ――こ、この魔法はなんだ…?


 召喚魔法を見るのは初めてだった。これは使役している魔物を召喚し、自分の代わりに戦ってもらう魔法。ただし召喚にはそれなりの魔力が必要だ。そして予め契約した魔物がいなければ成り立たない。よって簡単に手を出せるタイプの魔法ではないのだ。冒険者の中には、召喚魔法のみを極めた〝召喚士〟という役割すらある。

 グローフはゴーレムの真上に召喚用魔法陣を展開した。そして魔力が支払われると、その魔法陣は輝きを増す。一体どんな魔物が現れるのだろうか。私も自分の行動を止め、輝く魔法陣に釘付けとなっていた。


 ポトリ…


 大きなゴーレムの上に、一匹のスライムが落ちた。


「え、これ…?」


 確かに普通のスライムとは少し違う。水色ではなく青紫の斑ら模様だ。しかしそれ以外はただのスライムと何ら変わらない。大きくもない。私が疑いの目を向けると、グローフは「やれやれ、これだから素人は…」という呆れ顔をした。普通に腹が立つ。


「別にコイツ一匹とは言ってないだろう」


 そう言ってグローフは次々と召喚魔法を行う。ゴーレムの上には四匹のスライムが積み上がっていた。召喚魔法は召喚する魔物のランクに合わせ、必要な魔力が変わる。確かにスライムなら大した負担にはなり得ないので、複数の同時召喚も可能だろう。

 

 ――だが、コイツらは本当に戦えるのか?

 

 あのスライムだけに任せてはおけない。私もゴーレムに火球を放とうとした。が、グローフに制止される。


「まあ見たまえ。まずは右腕かな?」


「え…? 何を言って――」


 彼がそう告げるとゴーレムの右腕がゴトリと地面に落ちた。いや、右腕だけじゃない。ゴーレムはバランスを崩すと地面に激突。衝撃でスライムもゴロゴロ転がっていく。ちょっと気の毒で可愛いかも…とか言ってる場合ではない、一体何が起きたのだろうか。

 私は敵の背後に回り込んで、慎重にその様子を確認する。ゴーレムの背中は黒く変色し、ボロボロになっていた。ちょうど例のスライムが乗っかっていた箇所だ。ゾッとして振り向くと笑顔のグローフが追いついてくる。


「アシッド・スライム、コイツは強い酸性のスライムだ」


「酸でゴーレムの駆動部を壊したってこと…?」


「ああそうだ。敵はスピードが遅く、岩で構成されている。これらの特徴ならコイツが一番有効だと判断した」


「そ、そうですか…」


 狡猾で陰湿なやり方が実に彼らしいと思う。私もどちらかと言えば「どんな手を使ってでも勝つべき!」タイプの人間なのだ。その価値観は分からなくもないけど。しかし気になることはもう一つあった。


「でもアシッド・スライムって違法モンスターではないんですか…?」


 モンスターの中には危険な特殊状態(石化、催眠、毒)を武器にするものがいる。こうしたモンスターとの契約は法律で禁じられていることが多い。私はその辺りの知識に疎いがこれだけ危険なモンスターだ。禁止対象に入っていても驚きはしない。


「大丈夫さ、僕はちゃんと資格を持っている」


 当たり前のように答えるグローフだが…本当だろうか。帰ったら調べてやろうかな。

 その後、ゴーレムは完全に動きを停止した。彼が召喚魔法を解除すると、四体のスライムは光の粒になって消える。奴らの住処へと帰っていったのだろう。召喚された魔物は一定の時間しかコチラに留まることが出来ないのだ。この場には私とグローフ、ラムスだけが残った。グローフは真剣な面持ちで私の方へと振り返る。


「リン、さっきの話の続きをしよう。僕は極悪非道な研究を続ける世界樹の青窓を許せない。具体的には教団の上層部を総入れ替えするつもりだ」


「そ、総入れ替え…」


 きっと私のために言葉を選んでいるのだろう。彼の言葉には「絶対に青窓を許さない」という気迫が籠っている。「総入れ替え」という言葉を使ってはいるが、彼の復讐がそんな生易しいものでない気がする。私はゴクリと唾を?みこんだ。


「僕に協力してほしい。今はまだ分からないかもしれないが、これは君を青窓から守るためにも必要なことだ」


 グローフは本気だ。どうしよう、今日は情報量が多すぎる。私の脳はパンク寸前だった。私は足りない頭でなんとかベストな回答をひねり出そうとする。しかし私が口を開くより先に、とある男の声が聞こえた。


「楽師殿、その男の発言を鵜?みにする必要はない」


 低く抑揚の少ない音には聞き覚えがある。私とグローフが視線を向けた先には、暗緑色の司祭服を着た男が立っていた。彼こそが世界樹の青窓の司祭――プラナリだ。


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