089_ヴァイス・ゴーレム①
目の前のゴーレムはダンジョン〝トレント〟でガーゴファミリーが戦ったものより一回り小さい。二メートルはあるが、三メートルはないな。身体も金属製ではなく岩製だろう。ただし体の表面には純白の鉱物でできた鎧を身に着けており、戦闘用であること明らかだった。こんな個体は見たことがない。人造ゴーレムかだろうか。私の疑問に対し、答えはすぐに見つかった。このゴーレムの肩には見覚えのある紋章が刻まれている。
――世界樹の青窓のものだ。
ゴーレムの瞳が青く光る。するとゴーレムの腕と胴体の繋ぎ目からニョキニョキと木の芽が生えてきた。それは勢いよく成長すると、ゴーレムの右腕に絡みつき一本の槍となった。コイツ、臨戦態勢だ!
「ヴレア・ボール!」
【ヴレア・ボール_火球を放つ魔法】
私はすぐに魔法陣を起動。手元に生成された三発の火球をゴーレム目掛けて打ち出す。しかし敵は槍のない左腕で火球を受け止めた。あの白い鉱石は熱に強いのだろうか。もしくは魔法で強化されている可能性もある。
ゴーレムが槍を構えて突進してくる。
――金属のゴーレムよりも速い!
私は右にフェイントをかけつつ、左側に回避する。しかし奴は右足をつっかえ棒の様に使い急停止すると、すぐさまコチラに再突撃してきた。このまま接近戦を続けるのは危険だ。私は一先ずゴーレムから距離を取った。一方のグローフは離れたところから私の戦いを観戦している。あの男は戦えるのだろうか。いや、戦えなくても戦って欲しい状況なのだが。
「ぼーっとしてないで、何かしてください!」
ところがグローフの奴は木の陰からヘラヘラしている。クソ、今のところ私しか襲われていないぞ。それは何故だろうか。そもそもこのゴーレムはどうやって私のことを関知しているのだろう。
ゴーレムには実に沢山のタイプが存在し、敵を感知するセンサーの種類も色々ある。今回は視覚や嗅覚ではなさそう。(それならグローフも攻撃されるはず)音という可能性もあるかな。私は片方の靴を脱ぐと、ゴーレムの反対側に放り投げた。しかし靴が地面に落ちても敵はお構いなしで攻撃を仕掛けてくる。仕方ないので私は再度、魔法陣で火球を生成した。直後ゴーレムの瞳が私の右腕に逸れた。
「コイツ、熱を感知してる!」
私はその一瞬を見逃さない。このゴーレムは熱を感知して私の存在を把握しているのだ。その精度がどれ程のものか分からないが…火球で気を逸らすことが出来るかもしれない。私はグローフに駆け寄ると、彼の方向に向けて火球を放った。
すると何ということでしょう! 追いかけて来たゴーレムが、ターゲットを私からグローフに切り替えたのだ!!
「おい君! 何をするんだ!!」
追いかけられるグローフ、鋭い槍の一撃が彼をかすめる。私はガッツポーズを取った。
「よし!」
「『よし!』じゃない!」
珍しく慌て気味のグローフ。彼は急いでゴーレムと距離を取る。それでもゴーレムが連続で繰り出す槍攻撃を回避し続けるのは難しそうだ。私の中がスッキリとした何かで満たされていくのを感じる。ここまでの細かい戦闘は全て私が行ってきた。それにランチュウが魔物化した際、奴は走って逃げた前科がある。もっと困るがいいさ。そしてもし本当に戦えないのであれば、助け船を出してやろう。(とか言って私も勝てる保証はないが)
「クソ、ゴーレムごときが…」
グローフはゴーレムに悪態をついた直後、大きく吹き飛ばされた。槍こそ回避したが、ゴーレムの激突に巻き込まれたようだ。地面を激しく転がっていく。そろそろ助けてやった方がいいかな。そう思い加勢しようとしたところ、他でもないグローフ自身がそれを制した。
「あのゴーレムめ…仕方ない、手札を一枚切ろうか」
彼はスーツの砂ぼこりを叩くと、懐から薄い魔導書を取り出す。あれは魔法使い以外の人間が魔法を使う際に重宝する薄型魔導書だ。沢山の魔法陣を記録しておくことは出来ないが、単純に持ち運びやすい。彼は紫色の魔法陣を起動する。
「ザンダ・サモン…」
【ザンダ・サモン_雷属性の召喚魔法】
―ーこ、この魔法はなんだ…?