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「僕と一緒にこの住所を尋ねてほしい」
――嫌だ。
コイツは自分が何を言っているのか、分かっているのだろうか。危険な奴と危険な場所へ行く訳がない。私はすぐに首を横に振った。ラムスも渋い顔をしている。本当に今日は意見が合うな。ところがグローフもすぐには折れない。
「勿論タダでとは言わない」
「な、なんですか?」
「魔物化事件の情報と交換だ」
――魔物化事件…?
予想外の返答が返ってきた。今までゴシップでしか扱われなかった魔物化事件は、ランチュウの一件から大きな注目を浴びていた。それでも新聞に載っている情報は「人が魔物化して暴走する」「魔物化した被害者が新社会人だったこと」くらい…。ちなみにランチュウの名前は新聞に載っていない。元自警団のミラー曰く、これは伝説の冒険者――アトラスの計らいらしい。
グローフは腐っても記者だ。この事件について、報道されている以上の内容を知っているのかもしれない。
「僕はずっと前から魔物化事件を追っている。ただ先日は君の同期が本当に魔物化事件に巻き込まれているのか分からなかった。だから不安を煽らないよう言わなかったのさ」
「魔物化事件について…そんなに詳しいんですか?」
「もちろん新聞に掲載されている以上の情報を知っているよ。そもそもあのゴシップを書いていたのも僕だ」
確かに魔物化事件の真相は気になる。(このトランで起きている事件だし)しかしランチュウが人間に戻った今、危険を冒してまで知ろうとは思わない…かも。そもそもこの男は平気で嘘を吐く。よって私はこの提案を断ることにした。
「あ、この後は用事があるので帰ります」
私がそう告げるとラムスも首を縦に振った。二人で出来る限り穏便に撤退しようとする。ところがグローフは余裕の表情を浮かべたまま、私の帰り道に立ち塞がった。なんだよ、倒さなきゃならんか? 私が魔導書を取り出すと、グローフは次の様に告げた。
「魔物化事件は今後も増え続けるだろう。そしてその渦中の中にいるのは君だ」
――よ、予期せぬ言葉が飛んできた。
「どういう意味ですか?」
私はグローフに食って掛かる。しかし思い当たる節が無いわけではなかった。
ランチュウが魔物化した時、その呪いを解除したのはラムスかもしれない。その事実はずっと気がかりだった。そもそも私はこのチビドラゴンについて何も知らない。ラムスは世界樹の青窓から強制的に押し付けられたものだ。(正確には司祭――プラナリから)世界で最も大きな宗教団体――世界樹の青窓がどうしてそんなことをしたのか、私には分からない。そして押し付けられたラムスにどんな能力があるのかも不明。(最近たまに光っているのを見ることはあるが…)要するに分からないことだらけだ。
だがランチュウの件を思い出すと…ラムスと魔物化事件には、何かしらの繋がりがあるのかもしれない。ということは既に私もその〝何か〟に巻き込まれているのだろうか。自分でも分かるくらい心臓の鼓動が速くなっている。だがコイツにかき乱されるのは癪だ。きっと記者は人の心を不安で染め上げるプロ。そんなことは分かっているが…。
グローフはそんな私を一瞥すると静かに口を開いた。つい私たちも彼の言葉に耳を傾ける。彼はいつもの胡散臭い表面のままハッキリと告げた。
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――これは殴っても許されるのかもしれない。