062_はじめての昼呑み
「大丈夫! 女性限定の酒場だから!!」
都会にはそんなものがあるのか…。アセロラやお洒落な若者たちは何処でそういった情報を仕入れてくるのだろうか。謎は深まるばかりである。駅から歩いて十分、私たちはその女性限定酒場とやらにたどり着いた。
看板には筆記体で〝pico〟と書かれている。薄暗い店内には点々と柔らかな照明が設置されており、大人な雰囲気が漂っていた。壁には綺麗な色の酒瓶がずらりと並んでおり、どれも見たことがないものばかり。店員も二人とも女性だったので、その点は少し安心した。四十代くらいのマスターと二十代くらいの女の子が二人で店を回している。
「二人ですけど、入れますか?」
アセロラが店員の女の子に話しかけた。
「カウンターでしたら大丈夫です」
私達二人は店奥のカウンターに通された。休日なので店内はかなり込み合っている。すっと入れたのは運が良かったのだろう。私は横に座っているお客さんの邪魔にならないよう、椅子を少しアセロラの方へ寄せた。
「ドリンクはいかがなさいますか?」
店員の女の子に尋ねられて、私はちぐはぐになる。アセロラが酒っぽいものを注文したので私も同じものを頼んだ。
「じゃあリン、ダンジョンお疲れ様でした」
「アセロラもお疲れ様」
グラスを「カチン」と合わせて乾杯する。薄い桃色のお酒はほんのり甘くて飲みやすかった。(最後まで名前は確認し損ねたが…)そして追加でソーセージとフレンチフライも注文。
「自分たちで稼いだお金で美味しいものを食べるって…なんか感慨深いなあ」
つい思ったことが口から漏れた。お金を稼ぐって簡単な事じゃない。アキニレとダンジョンに行ったときは何度か死にかけた。日々の業務でもガスタに怒鳴られっぱなし…。そう思うとこのお酒やご飯がとても尊いものに思えた。社会人の特権かもしれない。
「大人って感じだよねえ」
アセロラも小さく頷いた。私一人だったらこんな風にお酒を飲むことは出来なかったと思う。改めてアセロラと出会えたことに感謝。そして給料日の翌日を彼女と過ごすことが出来てよかった。
――でも、アセロラは本当に私で良かったのだろうか?
彼女には間違いなく沢山の友達がいる。それなのにせっかくお給料が入ったタイミングが私との外出では勿体ないのでは…? 私は喋るのが上手ではないし口数も少ない。それに彼女と知り合って日も浅い。もっと彼女の隣に相応しい人がいたのかもしれない。そう思うと段々不安になって来た。私はグラスに口を付けながら、小さくアセロラの様子をうかがった。
ってあれ…?
寝て…いらっしゃる?
彼女は虚ろな様子でコクン、コクンと首を縦に振った。気持ちは分かる。まだ入社して一か月、疲れが溜まっているのだろう。(それか極端に酒に弱いのか…)お店には申し訳ないが少しだけそっとしておこう。そう思って一人でお酒をチビチビやっていると――
「あら、アナタ見覚えがあるわね」
横に座っている女性から話しかけられた。ビックリして肩が跳ねあがってしまう。それを見た彼女がケラケラと笑った。
ワインレッドの髪で、頭から牛のツノが生えている。そして鼻と唇には小さな銀色のピアス。私はあまり人の顔を覚えるのが得意なタイプではないが、彼女の特徴的なツノやピアスには見覚えがあった。以前、診療所でお世話になった医者のお姉さんである。
「い、医者のお姉さん!? その節はお世話になりました」
「やめてちょうだい。それがお仕事なの」
「す、すみません」
「今日はお友達と一緒なのかしら?」
「そうです、会社の同期なんですけど、私には勿体ないくらい良い子で…」
「いいじゃない、友達は大切にしなくちゃダメよ?」
「はい、でも…」
「…?」
私が上手く喋れずにいるとお姉さんと目が合った。彼女は落ち着いた雰囲気で、丁寧な相槌の聞き上手だ。そして酒が入っていたこともあり、私は自分の小さな悩みを打ち明けてしまった。
「どうして私と一緒に過ごしてくれるのか分からなくて。私はアセロラみたいに明るくないし口数も少ないです。美味しいお店も知らないし、可愛いアパレルにも入れないし…もっと彼女に相応しい友達がいるような気がして」
こんなことをほぼ初対面の人に相談してよいのだろうか。なんて、口に出してから考えても遅いのだが。




