056_初任給①
リンの日記_四月二十六日(土)
今日は土曜日、私とアセロラは街に繰り出した。(ラムスは寝てたので放置)私みたいなコミュ障、陰の者がアセロラと買い物に行ってもいいのだろうか? 相変わらずそんなことが脳裏をよぎってしまうのだが、彼女は私の手を引いてズンズン通りを歩いていく。せっかくお給料が出たので今日は生活必需品を買う予定らしい。私は厳密にはまだ貰ってないが…。
「アセロラはここが地元なのに…何で一人暮らしなの?」
「一人暮らしに憧れただけだよ」
す、すごいな…。私は都会に出るために一人暮らしを始めた身だ。私がアセロラの立場なら普通に実家暮らしを選ぶだろう。
「それで、今日は何を買うんだっけ?」と私。
「今日はカーテンと食器を買います!」
「じゃあ、カーテンから行こうか」
私達は布地屋に入った。様々な色、模様の布地が筒状にまるめられ、所狭しと並んでいる。こういう素材って見ているだけでちょっと楽しくなってくる。私は手元にあったモスグリーンの布をクルクルと広げてみた。
「お値段は…五万レム」
――た、高価い…!!
私は静かにそれを戻した。高価なカーテン相手に戦慄しているとアセロラが手招きをする。
「こっちの方が安めで可愛いよ」
沢山の布地が積み上げられているコーナーである。アセロラはピンク色の布地をいくつか並べて色味を比較していた。ポップで可愛らしいチョイスだ。それにアセロラの場合は誰かを家に招いた時のことを考慮しているのかもしれない。
こういう時の色選びって一人一人の性格や個性が滲み出ると思う。勿論私は地味で目に優しいものしか選びません。それぞれ気に入った布地を購入して店を後にした。
次に雑貨屋で食器も購入する。いつまでも寮の共用食器を使う訳にもいかない。いや、厳密には使っても良いのだが寮にはあの先輩社員――ミラーがいる。「この皿に洗い残しがあるぞ! ペナルティで腕立て伏せ百回!!」とか言われたらたまったもんじゃない。(言われたことはないので被害妄想だとは思うが…)そういった経緯もあり自分たちの食器を購入した。アセロラはお皿の柄を花柄と猫柄で悩んでいて可愛かった。こういう時間って陽の者っぽくてトテモステキ。
「これで今日の買い物は全部終わったかな」
私はそう言いながら駅前広場の時計を確認した。時刻は十五時を指している。お昼ご飯を食べていないので既にお腹はペコペコである。
「リン、この後も予定空いてる?」
「うん、大丈夫だけど…?」
するとアセロラは嬉しそうに頷いた。
「実は行ってみたいお店があるの。最近できたばかりの酒場なんだけど」
「さ、酒場…!?」
酒場とは大人の社交場である。私のような未熟でコミュニケーション能力のない陰の者が触れてよい世界なのだろうか。天罰とか落ちない? それに私の大人スペックに関わらず女二人で酒場って危なくないの? 私は自分の不安をそのまま彼女に伝えた。
「大丈夫! 女性限定の酒場だから!!」
都会にはそんなものがあるのか…。アセロラやお洒落な若者たちは何処でそういった情報を仕入れてくるのだろうか。謎は深まるばかりである。駅から歩いて十分、私たちはその女性限定酒場とやらにたどり着いた。