052_ジャイアント・マーフォク①
ダンジョン突入から七時間…。私たちはついに川の上流へとたどり着いた。見上げると断崖絶壁が続いており、上から一本の滝が流れ落ちている。そして私達の目の前には巨大な滝壺があった。それを見たチビドラゴン――ラムスがキイキイ声を上げる。
「こんなに大きな滝壺、始めて見た!!!」
調子のいい奴である。戦闘中はずっと隠れていたくせに…。
「ここが最終ステージだ」
団長がそう告げた時、滝壺がうねり始めた。そして中央から一体の魚人が現れる。他の魚人の三倍近くあり、頭にはいっちょ前に王冠を被っていた。装備しているのは巨大な三又――トライデント。
――こいつがこのダンジョンの主、ジャイアント・マーフォク…。
初心者用ダンジョンと聞いていた筈だがとんでもない。相手は四メートル近い化け物じゃないか。私はすぐに魔導書を開くと火球の魔法陣を起動した。スワローも自身の魔法を発動したのが見える。
「ヴレア・ボール」
【ヴレア・ボール_火球を放つ魔法】
「ウィンディン・ナイフ!」
【ウィンディン・ナイフ_風小刀を放つ魔法】
しかし私たちの魔法はジャイアント・マーフォクには届かなかった。割って入って来た二体の一般魚人がラスボスを庇う。この魚人共は一メートルちょいで、今まで戦ってきた魚人と大差ない。コイツらは私達の魔法をまともに受けて、唸り声をあげた。魚人にも忠誠心や友愛のような感情があるのだろうか…。だとしたら少し戦いにくいな。そう思った時だ――
ジャイアント・マーフォクが魚人を蹴り飛ばした…!
「っ!?」
ただでさえダメージを負っていた魚人は苦しそうに地面をのたうち回る。私たち三人は何が起きているのが分からず、ラスボスの方に再度視線を向けた。よく見るとジャイアント・マーフォクのヒレが微かに焦げている。きっと私の火球がかすったもの…。
なるほど、これは制裁か。
このダンジョンの王――ジャイアント・マーフォクは暴君のようだ。あの魚人は予めラスボスから「俺を庇うように!」と命令されていたのだろう。そしてその言いつけを遂行できなかった為に「おめえは俺の盾にすらなれないのか! この無能魚人が!!」と鉄槌を加えたのだ。
うわぁ、超ヤな奴…。
ウチのガスタみたい……。
などと思ったことは墓場まで持っていこうと思う。ウチの姑先輩は嫌な奴だが、暴君ではないか…。
ジャイアント・マーフォクが「ギィイイ!」と唸り声をあげると、魔物の目が赤く光る。
――魔法が来る!
私たちの前に二枚の魔法陣が現れたと思うと、そこから更に魚人たちが現れた。これは〝召喚魔法〟だ。召喚された魚人達は私達に狙いを定め躊躇なく突っ込んでくる。攻撃も防御も一切を部下に任せている訳だ。
魚人が狙いを定めたのはラムスだった。「うぎゃあ」と叫び声をあげるクソドラゴンに代わって、私が魚人に攻撃を行う。ラムスへの突進はギリギリのところで左側へと逸れる。
「リン、右から魚人が来る。スワローは左だ」
私たちはガスタの指示の元、魚人を迎え撃った。基本的に私とスワローで魚人を攻撃し、魚人からの攻撃はガスタが結界魔法などで守る。連携…とまで言えるかは分からない。だがこれが今の私達の全力だった。ラージ・スライムとの戦いで役割分担を覚えた事も大きい。
「ウィンディン・ソード!!」
【ウィンディン・ソード_風刀を生成する魔法】
スワローのエース魔法が魚人を叩き斬った。先ほどラージ・スライムにへばりついていた割には良い動きだ。ところが顔を上げたガスタが悲痛な声を上げる。
「クソッ、あのラスボス…また部下魚人を召喚しようとしてんな」
魚人たちに対処することが精一杯で、ちっともジャイアント・マーフォクへとたどり着くことが出来ない。こうしている間にも奴は次々と部下の魚人を召喚していく。これじゃキリがない…。
「ウォータン・ボール」
【ウォータン・ボール_水球を放つ魔法】
ガスタだ。彼は目の前の魚人を弾き飛ばすと私たちの方を向いて告げた。
「僕に考えがある。三分稼いでほしい」