038_パイパーティ
「我々としては彼女に同年代の友人をつくって欲しいのです」
ガーゴファミリーのオカンは少し心配そうな顔つきとなった。(男性ではあるが)私は彼に対して大きく頷いて見せた。私だって友達の作り方など分からない。しかし彼らには恩がある。
「わ、分かりました。私も話しかけてみます」
私はパイを二切れお皿に乗せてフリュウポーチのところへ持っていく。やはり近くで見ると一段と美人でスタイルもいい。「本当に同年代?」って思いたくなる。私が近づくと彼女の耳が反応した。
「あの、これ…今焼けたところだから美味しいと思うよ!」
ポーチは私とパイを交互に見た。警戒されているのだろうか。よく分からない。まるで野生動物と触れ合っている気分だ。しかし私には勝算があった。焼きたてパイの香りは何者にも抗い難い。彼女は左手でパイを掴み口元に運んだ。そして先端をそっと齧る。
――サクサクサク…
皿のパイはあっという間に空になった。多分、気に入ったのだろう。私がほっとしたのも束の間、彼女は隣を見てバーナの席に手を伸ばした。
――あ、バーナのパイを奪った。
「おい、ポーチ、やりやがったな!」
パイを取られたバーナが発狂する。
「副団長! ポーチの奴が俺のパイを食べました!!」
そしてまさかの副団長チクリ。このギルドでは副団長こそが絶対的なオカンである。しかし副団長は紅茶をすすると「貴方はもう十分食べたでしょう」とオカンムーブをかました。
「違います副団長! 取られたのは俺のパイであって、俺のパイじゃないというか…俺が相棒の〝盾〟のために残しておいたパイっすよ!」
バーナは自分の武器である〝盾〟を兄弟や息子のように愛している。
「盾はパイを食べません」と副団長。
「確かに物理的には食わねえっすよ。ただ俺だけがパイを食って相棒には何もくれてやらないってのは…筋が通ってないじゃないすっか!」
「それなら今度ピカピカに磨いてあげればいいでしょう。少なくともパイを与えても盾は喜ばないと思いますよ」
「っ! それはそう…」
バーナは納得して自分のテーブルへと戻っていった。それでいいんだ…。盾をこよなく愛する三十代の中堅冒険者…なかなか読めない男である。
一方のフリュウポーチは各テーブルに移動し、次々と焼きたてパイを強奪している。とんでもない怪物を野に放ってしまった…。手当たり次第にパイを口に放り込む様はある種の魔物のようである。ガーゴの団長はそんなフリュウポーチを見て楽しそうに両手を叩く。
「いいぞポーチ、もっとやれぇ!」
直後フリュウポーチが団長のパイに手を伸ばした。彼はそれをギリギリのところで食い止める。両者の間にバチバチの火花が散った。
「おめえ、俺からパイを奪おうとはいい度胸じゃねえか!」
「だって『もっとやれ』って言うから…」
二人のパイの奪い合いを見て、団員たちは手を叩いて大笑いしていた。そこに副団長が割って入る。
「ほら、あまり騒ぐとお店に迷惑です。団長もポーチも…もう少し静かに食事をしてください」
副団長に怒られて二人はすごすごと互いの席に戻っていった。アットホームを売りにした古き良きギルド――ガーゴファミリー。彼らが集まって食事をする様子は学生時代の打ち上げの様に賑やかである。私はこういう雰囲気は正直あまり得意ではない。でもフリュウポーチがギルドメンバーの前で自由奔放に振る舞う姿はなんか良かった。私もいつかワークツリーであんな風に振る舞う日が来るのだろうか。(流石にパイを奪ったりはしないと思うが)
「リン、楽しんでいますか?」
レードルが新しいパイを運んできた。私は慌てて空いたお皿をまとめ、テーブルに空きスペースを確保した。