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033_花粉怪鳥ヘルフィーブ⑤

 もう私達ではあの怪鳥を相手にすることは難しかった。私は大火球を生成するだけの魔力はない。それに花粉怪鳥ヘルフィーブはレードルを警戒し、益々高い位置でホバリングを始めてしまう。よって先ほどの作戦はもう全く使い物にならない…。花粉と高度、私たちがあそこまで到達できない時点で勝敗は決していた。


「撤退しましょう。攻撃は私がギガホイッパーで弾きます」


「いや、まだだ!」


 そう告げたのはまさかのガスタだった。

 私の後方で大きな音が響く。岩が崩れるような轟音だ。振り返るとそこにはガスタと…壊れた筈のアサルト・ゴーレムの姿があった。二体のゴーレムのうち、片方を彼が修理したのか!


「やれ、アサルト・ゴーレム」


 ガスタが叫ぶと、対怪鳥型アサルト・ゴーレムの瞳が緑色に輝く。そしてゴーレムは風属性魔法で一気に高度を上げた。レードルに気を取られていた花粉怪鳥ヘルフィーブをゴーレムは再度羽交い締めにする。


 ――これは予想外の展開!


 怪鳥はジタバタともがいたが、ゴーレムは二本の腕を決して離さない。みるみるうちに魔物の高度が落ちてくる。すかさずレードルはその落下地点へと駆けだした。ヘルフィーブは大きな唸り声をあげ全身からドバドバと花粉を放出する。それが奴の最後のあがきだった。刀がギラリと輝きを放ち、レードルの一撃が今度こそ魔物を捉える。


「ボッファアアアアアアア!」


 魔物は断末魔を上げるとついに地面に伏した。それにしてもあの大きな魔物を一本の刀で仕留めてしまうとは…。これは鬼人としてのスペックだけではない、彼の技術力の高さを改めて痛感した。

 ゴーレムは地面に激突すると今度こそその動きを停止した。この数日間でかなり無茶をしてきたのだろう。私は心の中でゴーレムにも「お疲れ様」を告げた。レードルも刀を納めるとゴーレムの元へと歩いてくる。私は全力で彼にお礼を告げる。


「ありがとうございました、助かりました」


「いえいえ、私の方こそです」


 レードルはニコリとほほ笑んで見せた。既に先ほどまでの殺気はどこにもない。そして彼はゴーレムの前で歩みを止めると、そっとその右腕に手を添えた。どうしたのだろうか。彼はしみじみとした口調で語り始める。


「まさか〝魔法による自動化技術〟に助けられるとは。いえ、今後はこういった機会が増えていくのでしょうね」


「レードルシェフ…」


 何か言わなければと思った。彼は〝魔法による自動化技術〟を少し疑問視している。素晴らしい技術だと話す一方で、どのように受け入れるべきか分からないと話していた。だってこの技術はレードルの仕事を奪うかもしれないのだ。

 以前、喫茶店で言葉に出来なかった〝何か〟を言語化するチャンスは今しかない。私は後ろから鬼人を呼び止めた。


「レードルシェフ、私は貴方や姉みたいな一流の技術を持っていません。こんな事を言っちゃダメなんだろうけど…魔法陣のプログラムもまだまだ未熟です」


 次の言葉を探りつつ私は細く息を吸った。自分の意見を言葉にするのってどうしてこんなに難しいのだろう。心臓がバクバクと鼓動して脚が小刻みに震えている。


「その…こんな私だから思うんです。技術は…人の人格そのものだって」


「技術は人格…ですか?」


 レードルに聞き返される。私も喋っていてよく分からなくなってきた。恥ずかしくて顔が真っ赤になるのが分かる。それでも引こうとは思わない。これはレードルだけじゃなくて、私にとっても他人事な問題ではない。


「以前お伝えした通り、私の姉は絵の天才でした」


「…そうでしたね」


「仮に〝姉そっくりな絵を描くことの出来る魔法〟が開発されたとしましょう。それを使ったとしても…私は姉に勝てる気がしません。上手く説明できないのですが、それだけは断言します」


 今自分がどんな顔をしているのか分からない。口だけは笑顔を保っているつもりだ。姉に対する気持ちは愛憎が入り混じって常に複雑だった。そんな私を前にしてレードルは少し寂しそうな笑顔を向けてくれた。今までで一番優しい表情をしていた。


「ありがとうございます。リン、貴方と話せてよかった」


 私はどうしたらよいか分からず彼に合わせて笑顔を作った。気を使わせてしまっている。私の発言は正しかったのだろうか。きっと何が正解かは最後まで分からない。それでも後悔はしていなかった…。

 避難していたガスタが戻って来る。よく考えると最後に怪鳥を倒したのはゴーレムとレードルのコンビネーションだ。私よりガスタの方が活躍している気がする…。私はそんな彼にこの後の予定を再確認した。


「今から魔法陣のリリースですよね」


「君、よくこの状況でケロッとしてるな。僕はもうクタクタなのだが…」


「あ、ありがとうございます?」


「褒めては…いない。だが魔物を引き付けてくれた件は感謝する。恐らく僕が真っ先にやられていた筈だ」


 この男にもお礼が言えたのか…。謎の感動に包み込まれる。私達三人は自警団を待ちつつ、アップルジャムに移動する準備をしていた。魔物との激闘を乗り越え、全員が気を抜いていた。それに戦うだけの体力も魔力も残ってはいない。そんな私達の背後に黒い影が迫っていた。


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