030_花粉怪鳥ヘルフィーブ②
黄緑色の大きな身体が私達の視界に飛び込んでくる。翼を広げた姿は五メートル以上…。その姿に私達は戦慄、ガスタが誰に言うでもなく言葉を漏らす。
「バカな、今朝の新聞だと北部の方に居たはず」
――花粉怪鳥ヘルフィーブが出現した。
ど、どうする? 戦うべきなのか? 花粉怪鳥ヘルフィーブは中級ダンジョンのボスだ。この間ガーゴファミリーと訪れたダンジョンのモンスターより強いだろう。無理だ、私たちに戦える相手ではない。ガスタも同じように判断したようだ。
「リン、逃げるぞ!」
「に、逃げきれますかね!?」
「分からん、だが一先ず結界魔法を――」
直後、駅の反対側から二体のゴーレムが現れた。どちらも上半身は普通のゴーレムの姿をしているが…下半身がない。そして緑色の魔法陣の力で空中を浮遊していた。それを見たガスタが小さな安堵を漏らす。
「あれは…怪鳥対策に開発されたアサルト・ゴーレムだ」
――新聞で読んだやつだ!
確かにその能力は普通のゴーレムと異なる、空中を浮遊することが出来るのか。これは空の魔物を相手にする上で大きなアドバンテージだろう。
二体の内、片方のゴーレムが真っすぐに怪鳥へと迫る。そして両腕で魔物を抱え込んだ。このまま羽交い絞めにして奴の動きを封じるつもりだ。ヘルフィーブも抵抗を試みるがそれなりに動きを制限出来ている!
「敵ヲ…殲滅スル」
もう一体のゴーレムの瞳が輝きを増す。魔法を使うつもりだ。ゴーレムは両腕に一つずつ大きめの火球を生成。(私の魔法と似ている)怪鳥の動きが制限されている隙に火属性の魔法を叩き込む。
――これは…勝てるのでは!?
私達は花粉怪鳥ヘルフィーブに視線を戻した。奴もゴーレムという未知の存在に戸惑っている筈。なにせ今までこの魔物に近づける生き物など殆ど存在しなかったのだ。今、私とガスタは決定的な瞬間に立ち会おうとしていた。
「ボッファ!!!」
ところが花粉怪鳥ヘルフィーブの瞳が赤く光る。そして怪鳥とゴーレムの間に大きな衝撃が走った。魔物を羽交い締めにしていたゴーレムはダラリと両腕を下ろす。そして力なく地面へと落ちた。
――何が起きた!?
ゴーレムで死角になっており、私達には何が起きたのか分からない。駆け寄ってみるがゴーレムの腹には大きな穴が空いており、中の魔法陣も損傷が激しい。クソ、コイツはもうダメだ。頼りにしていた戦力があっさりと破壊されてしまった。
「ボッファ!」
そして怪鳥の瞳が再び赤く光る。今度は魔法の発動がはっきりと見て取れた。ヘルフィーブの手前で球状の物体が乱回転を始める。そしてその球体は少しずつ大きさを増し、やがてスイカ程の大きさとなった。その気味の悪い色には見覚えがある。私もガスタも青ざめた。
――間違いない、あれは全部花粉だ。
「ボッファ!!」
怪鳥は気味の悪い咆哮と共に花粉弾を発射した。地面にぶつかった花粉弾は勢いよく弾け、周囲に花粉をばら撒く。なんておぞましい攻撃なのだ。ゴーレムも火球で応戦を試みるが、火球による攻撃はなかなか当たらない。私たちは慌てて広場のベンチ裏に身を隠した。
「ゴーレムの奴、火球を放つ頻度が少なくないですか!?」と私。
「あのゴーレムは開発されて日が浅く、改善点も多い。恐らくアイツは街で戦うのは得意じゃないようだ。建物を絶対に壊さないよう振舞うから、動きも単調で碌に攻撃できていない…」
ガスタにも焦りが感じられた。いつもより早口で喋りに余裕がない。一先ず私たちはこの場から撤退すべきだろう。そう思ってタイミングを見計らっていた時、広場の中央で大きな音が響いた。
マズイ、二体目のゴーレムも倒されてしまった。腹に大きな穴こそ開いていないが、地面に伏して動かない。こんなにあっさり負けてしまうなんて…。そういえば新聞で「今年の怪鳥は特別大きい」とも報じられていたな…。
花粉怪鳥ヘルフィーブは自身に降りかかる脅威を完全に排除した。そうなると奴が次に狙うのは何だろう…。私は背中にゾクゾクと寒気を感じた。空の魔物の大きな影が再度私達の下に落ちる。ヤバい、今度こそロックオンされている。