218_鍾乳石を撃ち出す魔法
つまりフォルダが無くなってしまうと、魔法陣は正しく動かなくなる。
――今がまさにその状況…だったりする。
だが不思議なのは、参照したいフォルダがちゃんと存在していること。私は確かにフォルダを作成し、正しい位置に配置した。名前こそ「フォルダ3」とかいうゴミのようなものだが、機能としては問題がないはずだ。しかし魔導書は「参照すべきフォルダが存在しない」とか言ってきやがる。なにこれ、心霊現象? どうしたらいいの…?
「ギリギリギリギリ…」
突如、耳障りな唸り声がした。音の主は配列凱蟲デスワーム。蟲は声など上げない筈だから、身体の節々が擦れあう音だろうか。どちらにせよ胸がザワザワする不快な響き。どうやら盗賊達に攻撃が当たらないことで、堪忍袋の尾が切れたらしい。魔物が体をくねらせると、口中から輝きが漏れた。魔法攻撃だ。
天井付近でペキペキと硬いものが折れるような音がする。それは一つじゃない。ボスモンスターが中心となり、放射状に不快音が広がっていく。
――あれは…鍾乳石?
つらら状の白い結晶が無数に存在している。それらは薄く魔力を帯び、ぼんやりと光を放っていた。魔物が再度不快な音波をばら撒く。それと同時に白い岩槍が私達目掛けて飛んできた。数が多い!
「ギリギリ…!」
【スタラクタレイン_鍾乳石を撃ち出す魔法】
「危ない…!」
アロエスとミストは辛うじて攻撃を回避。降り注ぐ槍は周囲の岩や水晶をバラバラに砕いた。鍾乳石自体も魔力で硬度を強化しているな。脳筋魔物の癖に、なかなか高度な魔法だ。いや、魔法の術式は粗くとも、膨大な魔力で強引に動かしているのかもしれない。
とにかく二人が時間を稼いでいるうちに、急いで魔法陣を完成させなくては。私は焦るあまり、一瞬だけボスモンスターへの警戒を解いてしまった。戦場ではそれが命取りとなる。今度は槍の矛先が、私を向いていたのだ! 魔物の奇声と共に大量の鍾乳石が降ってくる!!
「っ! スフィリア・バリア!!」
【スフィリア・バリア_球状の結界魔法】
私は咄嗟に結界魔法を詠唱。魔法陣に気を取られ反応が遅れた。十分な魔力を注ぎ込めておらず…このままじゃ結界が保たない。
「マズイ、なにか考えないと…」
連続攻撃によって、あっけなく結界が壊れる。しかも敵の魔法はまだ終わっていない。すぐに第三波が来る。私は走って攻撃範囲から抜け出そうとした。しかし焦るあまり、結晶の一部に足を取られてしまう。
「痛っ!」
大きく転んだ。膝が痛い。今度こそやられる!!
「仕方ないわね、潮招鋏壁…!」
≪潮招鋏壁_ククリ刀の防御術≫
アロエスは私の前に立つと、次々に攻撃を撃ち落とした。ククリ刀を器用に扱い、全方位に鉄壁の守りを形成している。それは実に繊細な太刀筋だった。私と戦っていた時は、全然本気じゃなかったんだ…。アロエスは辛うじて、全ての障害に対応していた。だが次の瞬間、予想外のトラブルが彼女を襲う。
「っあ!!」
アロエスの声が広い空間に反響した。その脚には一本の矢が刺さっている。ミストの放った攻撃だ。彼の矢はボス魔物に避けられ…そのまま反対側の彼女を撃ち抜いていた。流石のアロエスも、流れ弾にまでは気が回らない。というかミストは何をやっているんだ!?
そしてお構いなしに飛んでくる鍾乳石。彼女は体勢を立て直せておらず、リズムも噛み合っていない。にも関わらず、アロエスは私を庇う…。
「な、なんで…」
アロエスの肩や太ももに攻撃が被弾。鍾乳石は表面が粗い分、被弾した箇所の出血が酷い。目を覆いたくなるようなダメージだった。私はすぐに結界魔法を再構築すると、彼女を抱えて戦線を離脱。ボスエリアから出られそうにないが、とにかく距離を取る。時間稼ぎならミストがやってくれるはず…。
私は大きめの水晶の裏に避難すると、アロエスの応急処置を始めた。さっきの場所と比べて、こっちからも敵の位置が見えにくい。これはこれで危険だが、とにかく落ち着いて作業する必要があった。自前の包帯を使い、止血を行う。
「…どうして私を庇ったんですか」
「さあ、なんでかしらね…」
私のことを「黒い魔法陣を盗んだ犯人だ」と疑っているはずなのに。それに「ヘイトは買ってやってるんだ。流れ弾くらいは自分で対処しな」とも言われていた。彼女は呆れたように微笑みと、私から顔を背ける。そして淡々と自身と盗賊団について語り始めた。
「アタイね…さっき嘘をついたのよ」




