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217_行方不明のフォルダ

 ――どこかに…間違いがあるぞ。


 エラーが出るということは、既に私の制作した呪文に「文法的な誤り」があるということだ。この魔法陣の改造を行う際、難所となる処理はだいたい分かっていた(炎を球状にする回転計算など)。それも考慮した上で「七分」と回答したのだ。だが世の中はそう甘くなかった。想定外のトラブルが起きるから案件は遅れ、炎上する。自分に降りかかる困難が全て「想定内の事柄」なら世界はもっと定時退社で満ちているだろう。

 私にとっても、この問題は完全に想定外であった。既に七分が経過している。


 ――工数オーバーだ。

 

 焦燥感にかられ、魔導書を握る手に汗が滲む。落ち着け、まずはアロエス達に「改造が遅れていること」を伝えなければならない。ボスモンスターへの警戒や、魔法陣改造の目途が立たないこと、盗賊をどこまで信頼すべきか測りかねていることなど、様々な感情がぐちゃぐちゃに混ざりあう…。脳が破裂しそうでやんす。

 一方、盗賊二人はやや押されていた。特にアロエスが狙われている。わざとボスモンスターを煽り、ヘイトを買っているのだろう。明らかに手が離せない状況だ。今、伝えに行ってもいいものだろうか。邪魔になりそうだし、もう少し様子を見てからでも――


「いや、ダメだ」


 これは自分に都合の良い言い訳である。今までもそうやって報連相を怠ってきたのだ。私は深く深呼吸をする。そして口元に手を添えると大声で叫んだ。


「すみませーん! ちょっと開発につまづいてます!! もう五分くださーい!!!」


 こんなところで、私は何をしているのだろうか。明らかにダンジョンでする会話ではない。だがアロエスはデスワームの方を向いたまま、小さくうなづいた。私もそれだけ確認すると、すぐに作業を再開する。

 ちなみにダンジョンの出入り口はボスモンスターの巨体に覆い隠されていた。だが二人の実力なら、強引に突破、逃亡することも出来なくはない…と思う。それをしないのは、私の作戦に成功の余地があると思ってくれているからだ。


 ――その期待に応えなくては。


 そう決意した直後、円形ドームの反対側でミストが矢を放つ。ボウガンの攻撃はボスモンスターに回避され、私の頭上の岩に被弾。岩は大きな音と共に崩れ、真っ逆さまに落ちてきた。えええええええ、ちょっとぉお!?


「ひぇええええええ!!!」


 今日、一番危ない瞬間である…。あと少し魔法陣に気を取られていたら、後頭部に直撃していた。向こう側でミストが両手を合わせている。


「ごめーん!」


「ちょっと! こっちは戦闘のプロじゃないんですよ!!」


 ごめんで済んだら自警団はいらない! しかし彼だけじゃなく、アロエスまでケラケラ笑ってやがる。


「ヘイトは買ってやってるんだ。流れ弾くらいは自分で対処しな」


 クソ盗賊共めが! そもそも戦闘を生業としている奴らは、こういう感性がずれているのだ。良くも悪くも命が軽い。一瞬でも「アロエス達の期待に応えたい」と思った自分を恥じた。そもそもアイツらは「リンが黒い魔法陣を盗んだ犯人かもしれない」と疑っているのだ。盗賊とは一時的に手を組んでいるだけ! 頼り過ぎない!! 私は自分が生き残るために、この魔法陣を完成させる!!!

 まあいずれにせよ目の前の問題を解決しなくては。私はすぐに表示されていたエラーを読み上げる。魔法陣には以下のようなメッセージが出力されていた。


「参照すべきフォルダが存在しない」


 エラーメッセージの表示は魔導書の機能の一つだ。記載された呪文に文法的、構造的な誤りがあった場合、そこを指摘してくれる。ただしメッセージは簡易なものも多く、私のような初心者には「なにが言いたいのかサッパリでやんす」ということも少なくない。というか今がそうなのだ。


「でも現状、手掛かりはこれしかないんだよな…」


 私は再度フォルダや、周辺の呪文を確認した。ちなみに魔法陣の中には沢山の「フォルダ」というモノが存在する。それは現実世界で言うところの、箱や引き出しに該当し、中には様々なデータが入っているのだ。例えば【火球を放つ魔法】の場合、「放つ火球の数」や「使用者から徴収する魔力上限」などの情報が個別に管理されている。つまりフォルダが無くなってしまうと、魔法陣は正しく動かなくなる。


 ――今がまさにその状況…だったりする。


 だが不思議なのは、参照したいフォルダがちゃんと存在していること。私は確かにフォルダを作成し、正しい位置に配置した。名前こそ「フォルダ3」とかいうゴミのようなものだが、機能としては問題がないはずだ。しかし魔導書は「参照すべきフォルダが存在しない」とか言ってきやがる。なにこれ、心霊現象? どうしたらいいの…?


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